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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五七話

 ノーセロの街の冒険者ギルドで依頼票を漁っていた時に、ブラックベアに関する討伐依頼票をチラッと見た事があった。


 一パーティーにランクCが三人以上居て、更に三パーティー以上が共同で当たる事が推奨されていた。それ程に脅威度の高い内容となっており、ランクFの人間がおいそれと受けられる代物では無かった。それを見てブラックベアはしばらく<ストレージ>の奥で肥やしするしかないな、と溜息を漏らした。


 そのブラックベアが上半身の三分の二を地面に埋めて逆さになって足だけを出してもがいている。横で警戒しながら立っていると、さっきまで悲痛な叫びを上げて騒いでいた村の男達が恐る恐る寄ってきた。


「うおっ、何だ、これ!?」

「……か、カノン、無事か!?」

「いったい何が起こったんだ?」

「穴に落として埋めた」

「……はっ?」

「はぁああ?」


 マサクド小父おじさんを始め、無事だった村の男達がブラックベアの惨状を見ながら声を掛けて来たので簡潔に答えた。「意味が判らん」って感じの声を上げた。


「以前、父さんと狩りに出た時にブラックベアに遭遇したんだけれど、その時は逃げ切れそうになかったから、獲物を捕獲する落とし穴まで誘導して殺し事があったの」

「そ、そうなのか……?」

「や、アランはそんな事ひと言もしゃべってなかったぞ?」

「その時は、父さんが村のみんなに心配させたくないから、みんなには内緒だぞって話してた」

「……うーん」

「…………」


 父さんの話は嘘だ。そんな危険な事が有ったらいち早く村のみんなに知らせて、情報共有と注意喚起する筈だ。私の話にマサクド小父さん達は釈然としていない様子だけれど、魔法を使用した事を誤魔化す為に更に畳み掛けて嘘を重ねる。


「この穴も春先に父さんと来た時に獲物を捕る為に掘っておいた穴。結局その時は獲物が掛からなくて使わなかったけれど、ここの位置は村の者が踏み込む場所じゃないから大丈夫だろうって放置してた。穴がまだ残っててよかった」

「……うん、判った。カノンがそう話すのなら、そうなのだろう」

「ありがとう」

「ただな、カノン。今度から危険な事をする時は近くの大人を頼るんだ。無力かもしれないが、我々大人は子供を守る為に居るんだ、判ったかい?」

「……はぁい」


 マサクド小父さんは顎に手を当て何事かを考えながら、私の嘘に乗っかる様に、そして、子供を気遣う優しげな言葉を掛けてくる。私はそれを聞いて神妙な態度を示しながら返事をする。それと「父さんをダシに使って嘘付いて御免なさい」と心の中で謝った。


 しばらくすると、ブラックベアは脱出を諦めたのか、バタ付かせていた両足を動かさなくなった。自分でやっておいてなんだけれど、前世のテレビで観た犬神家のアレみたいな格好だなぁ、と苦笑いを浮かべてしまった。


 ブラックベアはもがくのを止めていたけれど、まだ息がありそうだったのでしばらくこのままにしておく様に提案したら、そんな私に対して呆れ顔を見せていた。マサクド小父おじさんは大量のグレイウルフの死体を見て「こんだけ有りゃあ、結構いい毛皮も取れそうだな」なんて呟きながら、村の男達に指示を出しながら自らも率先して片付け始めた。あとはマサクド小父さんに任せその場を離れる。


 滝の広場に戻る途中、滝の上では母さん達三人が心配そうにこちらを見下ろしていた。手を振って私は大丈夫だと伝えたら安堵した表情に変わっていた。あの場所からだと木陰になってて、私がやらかしたのは見えなかった筈だけれど、きっとあとでマサクド小父さんから母さん達に連絡があるだろう。……また怒られるかもしれない。今から覚悟しておくか。


 そんな気持ちで広場に戻ってみると、ロイドが先頭になって怪我をした村の男達に、着ている物を脱がせ、或いは怪我しだ部分を肌蹴はだけさせて、間に合わせで患部を水洗いをしてから、ポーションを振り掛けて治療をしていた。怪我をした者の中にトマソの姿もあった。所々では「うおっ、何だこのポーションっ、凄ぇ効き目だ」「……傷があっという間に消えていく」「流石カーヤ印のポーションだ」なんて聞こえてくる。そんなロイドに近付いて話し掛ける。


「私、母さん達と一緒に採取に来てたんだ。みんな待たせてるからそろそろ行くね」

「え、カーヤさんやカレンさんも来てたのか? って、みんな大丈夫なのか?」

「リアン義姉ねえさんも居るよ。みんな安全な場所に居る」

「そうか。何回も言うけれどカノンだが来てくれて助かった、ありがとう」

「私はちょっとみんなの援護しただけだよ。それに春先のお父さんと作った落とし穴が生きてたってのもあるし……」

「いや、いやいやいやっ! それでもブラックベアを単独で倒すなんて誰にも出来無いから。可愛い妹分が強過ぎて俺達の立つ瀬が無いわ、は、はは」

「んー、なら、そうゆー事にしておく。じゃあ行くね。小父さん達に、よろしく伝えておいて」

「おう、気を付けて帰れな」


 日本人的に謙遜は美徳だけれど、それも過ぎれば嫌味となる。海外に出れば自分の成果は誇るべきだ。そんな言葉を思い出した。この世界は後者の部類に入る。何事も程ほどにと考え、ロイドの言葉を受け入れてその場を後にした。


 グレイウルフの後始末をしている小父さんに気付かれない様にぐに脇に反れて樹海の中を抜けて段々状になった崖の前に出る。母さん達を登らせるには辛い崖。風魔法で勢いを付けて、所々にある出っ張りに足を掛けて登っていく。一人だから使える経路だ。


 崖の一番上に駆け登る。樹海の木々の間を抜けて母さん達の所に辿り着いた。藪からガサリと顔を出したら、みんなが一瞬、身体を強張らせて吃驚びっくりしていた様だけれど、私だと気が付いてホッとしていた。


「やぁ、お待たせ。帰ろっか」

「なに軽く言ってんの、下に降りてから姿が見えなくなった時、アンタの事心配したんだから」

「カノン、下じゃどんな感じだったの? みんな無事なんだよね?」

「それはあとでお父さんに話聞かせて貰おうよ。あの分だとお裾分けで家に来そうだし」

「……うっ」

「何、その反応。一応フォローするけどさぁ、アンタまたなんかやったわね」

「……ううっ」

「まぁ、いいわ。帰りましょうか」


 そう言って、母さんが先頭になりこの場から移動を始める。小川をさかのぼり、さっきの帰り道から逸れた場所まで戻ってから、改めて昨日通ったルートを迷う事無く辿っていく。やはり母さんはある程度道を覚えている様だった。来た時と同じ様にトラブルも無く、崖を降りて樹海内を抜け、見慣れた小川脇の道に辿り着いた。ここまでくれば開拓村は直ぐそこだ。


 そして陽が傾く前に我が家が見えてきた。取り敢えず、一泊二日のキャンプ、秘密基地への遠出はなんとか無事に終了した。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

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