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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五六話

 開拓村の男達が優勢にグレイウルフ達と対峙する中、前衛にいた一人がブラックベアの接近に気が付いて叫んだ。その声を聞いたマサクド小父おじさんの顔色は一瞬で青白く変わり、血の気が引いているのが判った。


「森で遭遇したらず命が無い、姿を見たら速攻で逃げろ。最悪、見付かったらゆっくり後退あとづさって姿が見えなくなってから走って逃げろ」


 これがブラックベアに対する村の男達の合言葉、共通認識なのである。マサクド小父さんから「……くそっ、最悪だ」小さく言葉が漏れるのも当然だ。


 気配探知を使わなくても遠目に体高約二メートルぐらいのブラックベアが、四つ足を付いて悠然と巨躯を揺らしながら、こちらへ向かってくるのが見えた。村の男達に迎撃され残り僅かになっていたグレイウルフ達はその脇を擦り抜ける様に逃げていく。


 村の男達も前線から引く様に滝の広場へ戻ってきた。ロイドが近付いてくる。マサクド小父さんの影に隠れていた私に気が付いて軽く手を挙げた。


「やぁ、カノン。さっきの援護助かった。ありがとう」

「如何致しまして。ロイドの方も大した怪我が無さそうだね」

「ああ、折角カノンに援護して貰ったのに、今度はブラックベアが出てくるとはツイてない」

「マサクドさん如何する? 俺達じゃまともに遣り合えない」

「……そうだな、仕方が無い。昨日、狩った獲物を囮にして逃げるしかないな」

「それしか、ないかぁ」


 手の空いている男達で暗くなった村の雰囲気を払拭しようと狩りに出たのに、今回は大物が獲れて大猟だったのに、ブラックベアから身を守る為に、それを手放すのが惜しいといった感じなのだろう。二人の目線は解体中の獲物に向いていた。


「大丈夫、あれは私が何とかするから」

「えっ?」

「はぁ?」


 マサクド小父さんとロイドの諦めに似た雰囲気に対し、私が言葉を挟むと「何言ってんだコイツ?」みたいな感じで二人はこちらを見た。


「あ、それとこれ、母さんから」

「あ、あぁ、カーヤさんのポーションか。有り難い」

「これでみんなの治療が出来る。……って」


 それと、母さんのじゃないけれど、マサクド小父さんとロイドへ、怪我をしている人達に使う様にと特急ポーションの入った陶器を渡した。「じゃ、ちょっと行ってくるね」と、二人に言葉を残し私は弓を取り出しラックベアの方へ走り出した。


「お、おい!」

「か、カノン待てっ!」

「無茶だっ! そっちに行っちゃ駄目だ! 誰かっ、カノンを止めてくれっ!!」


 不意を付く様に走り出した私にマサクド小父さんとロイドが叫んだ。前方からはブラックベアから距離を取る様に、武器を片手にゆっくりと後退あとずさりしながら逃げてくる村の男達は私にまで気が回す余裕は無さそうだった。私は、彼等の手の届かない、撤退の邪魔にならない外側を走りながら、ブラックベアの側面に素早く駆け抜けて弦に矢をつがえ弓を構える。彼我の距離約五十メートル。


 風魔法を付与した矢でもブラックベアの硬い毛皮は突破出来ない。だけど少しでも気を引ければいい。そのつもりで矢を放つ。


 急所の一つである目元を狙って射った矢は、着弾寸前でブラックベアが咄嗟とっさに身体を揺らして己の硬い毛皮ではじき飛ばした。そのまま私に対して敵意を持った目を向けてくる。そして私へと突進してきた。続けザマに二射、三射と目元を狙って撃ち込んでいく。頭や身体を震わせことごとく硬い毛皮に弾かれた。突進の勢いは増していき、距離がどんどん詰まってくる。その突進を、私はタイミングを見計みはからって、風魔法を併用して横に飛んで避けた。


 突進の勢いを殺し急停止したブラックベアは、私の方へ向き直って目の前までやってくる。己の力を誇示するかの様に咆哮しながら、上半身を持ち上げ両腕を掲げ立ち上がる。その両腕が振り下ろされると簡単に私の命は刈られるだろう。離れた場所、滝の広場からは村の男達のブラックベアを罵倒する叫び声が聞こえてきた。


 ブラックベアの両腕が振り下ろされる直前、風魔法で身体の前面に突風を発生させて後方へ飛ぶ。それと同時に土魔法を使って地面にブラックベアの上半身がすっぽり納まるぐらいの大きさの穴を掘った。ブラックベアは振り下ろした両腕をそのままに前のめりになる格好で上半身がスッポリと納まる感じで穴の中に沈んだ。


 逆に両足は宙に浮いてしまって、虚空にバタつかせもがいている。天地逆さまに三分の二程、身動きが困難な状態で落とし穴へはまった格好となった。後は土魔法で隙間を埋めて窒息させる。水でもいい。私が黒の樹海でブラックベアに遭遇した時に使う落とし穴を使った必勝パターン。


 ちなみに、初めて遭遇した時は私一人だった。しかもビビッて走って逃げてしまい、当然ブラックベアはそんな私を追いかけて来た。逃走中の地面に三メートルぐらい穴を掘って飛び越えたら、勢いよく追いかけてきたブラックベアが、偶然だったのだろう、頭から突っ込んで自爆したのを見てこの穴掘り戦法を使う様になった。と言っても、出来るだけブラックベアの気配を避ける様にしていたから、遭遇戦と言えるのは数回しかない。その内の何回かは落とし穴に嵌った際に自重で首の骨を折って死んだので楽だった。


 お陰で殆ど外傷もなく<ストレージ>に死蔵しているのだけれど、物が黒の樹海で食物連鎖の頂点に位置するブラックベアだけに、いまだにお披露目するタイミングが無いのが悲しい所だ。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

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