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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五五話

 開拓村の男達が狩り場とする最奥にある広場、滝壷たきつぼを使って狩った獲物の解体に利用している場所。解体した獲物の臭いに釣られたのか広場の複数のグレイウルフが集まっていた。


 何時から戦闘を始めていたのか、リアン義姉ねえさんのお父さんであるマサクド小父おじさんが指示を出し対処に当たっていた。怪我をした複数人の男達。幸い重傷者は居ない様だった。入り口付近には幾つかのグレイウルフの死骸が見て取れた。


 私達はその光景を滝の上のから細かい木々を掻き分けて見下みおろしていた。


「……カノン、あれって」

「うん。村の男達だね。獲物を解体している時に襲われたのかな?」

「ロイドとトマソの姿も見える」

「お父さんは……、あ、居た。無事だ」


 母さんから「カノン。あの状況、何とかならない?」と聞かれる。内心で「何とかなるとは思う」と答える。ただ、向こう側に、姿は見えないのだけれども、もう一つの、虎視眈々とこちらをうかがっている嫌な気配を感じた。


 グレイウルフ達は私の風魔法を矢が届く距離だから簡単に蹴散らせる。そのまま嫌な気配が去ってくれればいいのだけれど、最悪、こちらに姿を見せたら、下に降りて魔法を連発して何とかするしかない。


 問題はその嫌な気配。恐らくは、村の男達からは「森で遭遇したらず命が無い、姿を見たら速攻で逃げろ。最悪、見付かったらゆっくり後退あとづさって姿が見えなくなってから走って逃げろ」と言わしめるブラックベアだ。私があそこに出て行って魔法で無双して大丈夫なのだろうか?


 ふと、盗賊騒ぎの時の、広場で解放した村の人達の、魔法を使った私に対して恐怖する瞳がぎってしまう。


「……カノンが、あれから村の人にどんな風に見られているか知っている。これでも多少なりと村の中でフォローして回ったからね」

「母さんも同じ。自慢の妹だもん。また私もフォローするから安心して」

「……アルタとお義父とうさんの事は残念だったけれど、今、ここに居られるのはカノンさんのお陰。助けて貰った事も感謝している。だから私もフォローする」


 そんな渋っている私の心を見透かした様に母さんが言葉を掛けてくれた。追随してカレン姉さんが同意して、若干暗い表情をしているけれど、リアン義姉さんが感謝も言葉を口に出す。みんなにそう言って貰えると気持ちが楽になる。


「……私は貴女あなたの母親だからね。何があっても守るわ。それに今、村の男達を助ければ、更に風向き変えられるんじゃないかしら?」

「時間が掛かるかもしれないけれど私も協力するから、みんなを助けて頂戴」

「カノンさん、私からもお願い。お父さんを、みんなを助けて」

「や、小父さん達を助けたくない訳じゃないよ。ただ、事後の反応が怖いなぁ、って……」


 口に出さなかったけれど「駄目なら駄目で、開拓村から出ればいいかなぁ」なんて考えたりもしている。まぁ、実際に逃げ道の一つとして冒険者ギルドに登録してみたけれど、まさか、騎士団から勧誘を受けるとは思わなかった。


 母さんには話しているからなんとなく察してるっぽいけれど、姉さん達が味方ってだけでも心強い物がある。自分には勿体無いぐらいの暖かい家族だと思う。


「……判った。これから、何があっても心配しないでね」


 私はそう言うと、心置きなくストレージから弓を出して、弦に矢をつがえ、現場を見下ろす。村の男達が気が付いていない、右翼の方から伏せて近付いているグレイウルフに対して、獲物追尾の風魔法を付与して狙いを定める。


 ビュン! ……ビュン! ビュンッ!


 最初の一本目に続けて間髪入れず、更に連続して二本の矢を標的に向けて放った。計三本の矢は風魔法にって勢いを増して飛んでいく。滝の下の方では、ようやく右翼のグレイウルフの姿に気が付いたのかマサクド小父さんがロイドに向かって指示を出していた。


「おいっ、ロイドっ、右側から一匹、グレイウルフが来てっぞっ!!」

「あ、ああ、任せろ」


 横合いに潜んでいたグレイウルフに応戦しようと、ロイドがそちらへ向き直った。それと同時に、私が放った矢は急降下しながら勢いを増して伏せていたグレイウルフに殺到する。


 ガスッ! ザスッ!ザスッ! 


「ギャフン!?」


 三本の矢は頭に一本、胴に二本突き刺さりグレイウルフを仕留めた。続けザマに弓に矢を番え残りのグレイウルフを掃射していく。見る見る内にグレイウルフは風魔法が付与された矢の餌食となって狩り獲られていく。


「……っ!? な、急に矢が飛んできたっ!!」

「だが、何処から飛んできたっ?」

「俺達の他に誰が居るのか!?」

「アランさんトコの矢羽の柄だ、って事は……」

「滝の上からだ! って、ありゃ、カノンじゃないか」


 驚いたのは突然目の前で三本の矢の餌食となったグレイウルフを見たロイド。そして、次々に私が連続して射込んだ多数の矢を見て村の男達はざわつき騒いでいる。指揮をっていたマサクド小父さんがいち早く、矢の射出点を探し出して私に気が付いたらしく、顔を上げてこちらを見ていた。


「小父さん、援護しますっ! 残りを倒しちゃってください!!」

「やっぱりカノンか、助かるっ! カノンの腕はアランのお墨付きだっ! このまま狼を跳ね返せ!!」

「お、おうっ!」

「任せとけっ!」


 マサクド小父さんが激を飛ばし、開拓村の男達は一斉に返事をする。一進一退の均衡していた攻防は、私が援護を始めた時点でバランスが崩れて、勢いに乗った開拓村の男達が次々とグレイウルフを屠っていく。けれども嫌な気配は、依然として逃げる素振そぶりりを見せない。むしろ徐々に近付いてきている。


「……しょうがない、ちょっと行ってきますか。ここでちょっと待っててね」

「気を付けていってらっしゃい……っ!?」

「えっ?」

「ええーっ!?」


 ストレージに弓矢を収納して、滝の上から少し助走を付けて飛び降りる。何気なく返事をしてくれた母さんは、私の突然の奇行に息を呑んでいた。それに続いて姉さん達の驚いた声が聞こえる。まぁ、普通は何処かを足場にして岩場にしがみ付きながら降りるって思うよねぇ。


 前世の三十半ばを越えた辺りから、十代の身体を動かしたイメージと、実際の身体を動かす感覚が乖離して情けなく思っていた。老いるとますます悲しくなったものだ。この身体は、そんな前世の老いた身体はもちろん、一番キレのよかった十代、二十代の頃よりもキレがよくて、更に魔法まで使えて、色々と無茶が利くから結構楽しかったりする。


 約二十メートルぐらいの高さから飛び降りる。何時もの様に風魔法でエアクッションを作って勢いを殺しながら、村の男達が獲物を解体していた広場へ降り立った。その足で村の男達の指揮を執っているマサクド小父さんの所に歩いていく。


「小父さん、こんにちわ」

「か、カノン。あ、あれ? ……さっきまで滝の上に居たよな。どうやって降りてきた?」

「それよりも小父さん、早くみんなに下がるように伝えて」

「ん、急に如何した?」

「向こうからブラ……」

「ぶ、ブラックベアだっ! ブラックベアが出たーっ!!」


 私の言葉に重ねるように、前線でグレイウルフと対峙していた村の男の一人が、近付いてきた黒い巨塊、ブラックベアを発見して叫び声を上げていた。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。


2020/10/05 リアン義姉さんのお父さんの名前、マサクド小父さんと追記。

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