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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五四話

 遠くで湖の波打つ音。それに混じってかすかで穏やかな寝息が聞こえる。


 秘密基地ログハウスには布団が無い。なので家族分の布団を<ストレージ>に入れて持ってきた。それを居間にある長椅子や木の台の上に敷いて入浴後、就寝に付いた。


 気分転換という名目で遠出した結果なのか、リラックス効果のあるハーブ茶とお風呂、お湯に浸かった所為なのか、その日の晩の姉さん達は直ぐに眠りに付けた様だった。


 私は母さんと二人で作業部屋に来ていた。昨日、午前中に相談した騎士団の勧誘に絡み、私がそのの話に乗った場合、ここで収集、乾燥させたキノコ、薬草類が無駄になるので、使える物があれば家に持って帰るつもりだった。壁に据え付けられた棚に置かれたキノコ、薬草類を蝋燭ろうそくを使った手提げランプで照らして確認していく。


「これが解熱剤に使える薬草。これは解毒、腹痛に効くキノコ。これは火傷の塗り薬に出来る葉……」


 母さんは一つ一つを手に取って種類や品質を確認している。そして溜息を付く。


「……はぁ。よくもこれだけの種類集める事が出来たねぇ。確かに現物見せて教えた記憶はあるけれど、全部、開拓村の近辺では余り見掛けない種類だよ」


 ここ最近、対人にしか<鑑定>を使っていなかったけれど、植物に対しても有効で、これのお陰で間違わずに採取出来たのも一つの理由である。母さんにも秘密だけれど。


「小さい頃から母さんが施してくれた英才教育の賜物だね。多分、登って来た崖辺りが境界線だと思う。あそこから上がると植生が豊かになるんだよ」

「へぇ。でも、ここまでの道って危険、なのよね?」

「うん。今日は獣の気配や姿を感じなかったけれど、熊とか狼とか結構徘徊している」

「ぶふーっ」


 思わず噴出した母さんに「テリトリーに入らなければなんて事は無い」と付け加えておく。


「……アンタってわぁ。あわよくばここを第二工房に出来るかなって思ったけれど駄目そうね」

「そういえば、ここに秘密基地ログハウス作ってから、木の杭で囲ってみたけれど獣に襲われる事って無かったなぁ」

「それってアレじゃない、獣達にここがカノンのテリトリーとして認知されてるからじゃない?」

「うーん。ここの往復で何度かブラックベアーとやりあったのもあるのかなぁ」

「ぶふーっ。……げほっ、ごほっ……」

「あ、母さんごめん、大丈夫?」

「……ふぅ、カノン。アンタってどんだけ規格外なのよ。まだ子供なんだから、騎士団の勧誘もそうだけれど、お願いだから、余り危ない事はしないで頂戴」


 二度目の噴出し。母さんの気遣いに「はぁい」と返事をする。そんな私を見ながら「このホントに判ってるのかしら」って按配の苦笑いを浮かべて、なんか色々と諦めた様な目をしながら、棚の上に置いている採取したキノコや薬草類を見ていた。


 私としては第二工房として使えるならば、それがかなうなら、この場所を含めてお願いしたい気持ちでいたのだけれど、単身で、或いは姉さん達を連れてくるには、やはり危険な場所だと判断したのだろうか。


 その後、母さんは棚の端に置いていた土魔法で造った陶器の中に入った特級ポーションの液体を見て、「ぶふーっ」と三度目の噴出しをして「……今日は、いい物見られたわぁ」なんて、遠い目をしながら言っていた。


 ここに置いてある、乾燥させたキノコや薬草類、特級ポーションは、このままにしておくと勿体無いので開拓村の実家に在る母さんの工房に持って帰るべく、使えそうな物を私の<ストレージ>に収納した。


 そして、一晩明けた。


 朝靄あさもや立ち込める湖のほとりで、私達家族は冷たい水をすくい顔を洗っていた。


「うわっ、水冷たい」

「気持ちいい」

「ふぅ、目が覚めるわぁ」


 みんなの顔をうかがって見るとよく眠れたのか、多少なりともリラックスが出来た様子で、普段よりもいい笑顔をしていた。よかった。連れて来た甲斐があったと思う。


 そのまま、昨日のバーべキューに使ってそのままだった木組みのテーブルの椅子に腰掛け、残り物と薄く硬いパン、豆のスープを朝御飯としてお腹を満たした。お茶を飲んで一服し、家に帰る準備をする。


「折角ここまで来たのにもう帰るのかー」

「気分転換になったから来てよかったー」

「樹海の奥にこんな場所があったなんて思わなかったよ」

「お風呂よかったねー」

「初めてお湯に浸かったけれど、気持ちいいもんなんだね」

「出来るなら私はここに住みたいわぁ」


 お茶の席でカレン姉さん、リアン義姉ねえさん、母さんがそれぞれの感想を言っていた。私は中々の好評価に内心喜んでしまう。


 私が思わず「機会が有ったらまた来ましょう」なんて言ったら、その言葉にみんなが頷いてくれた。


 小一時間程彼是あれこれと談笑して、そろそろお尻が椅子に根を張りそうな感じになったので、それを無理矢理引き剥がし、忘れ物の確認をして昨日来た道を帰る事にする。


 盗まれる物は無いのだけれど、一応、秘密基地ログハウスの敷地の戸締りを確認して、湖から流れ出る小川に向かって歩く。小川に着くと今度はそれに沿って下流へ進んでいく。


 暫く歩いて、例の階段状の崖の方に曲がる場所まで来たのだけれど、そこで不穏な気配を感じ取った。この川から更に下流、多分滝の付近。村の男達が狩りの最奥と決めている場所。私はそれが気になって帰り道に入らず小川に沿って真っ直ぐ進んだ。


「あら、カノン如何したの。道違ってない?」


 流石に母さんは昨日歩いて来た道を覚えていた様で、私が帰り道かられた事に気が付いて訊ねてきた。姉さん達は何事なのかと不思議顔だ。


「ちょっと気配を感じた。気になるから見て行きたい」

「……判ったわ、昨日も言ったけれど余り無茶しないでね」

「うん、判ってる」


 私の言葉に納得してくれた母さんは、姉さん達に頷いて黙って付いて来てくれた。


 少し歩くと激しい音と共に崖から勢いよく水が流れ落ちる場所に、滝の上部に辿り着いた。


 そこから見下ろした場所に、開拓村の男達がキャンプを張っていた。何体か大物が獲れたらしく、幾つかの解体された獣が見て取れた。その所為か彼等も滝の広場で樹海内で一夜を明かしていた様だった。


 けれど状況は余りかんばしく無さそうだった。彼等がグレイウルフの群れに広場の入り口を押さえられ囲まれていたからだ。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

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