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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五三話

……甘味のあるたいした事のないお風呂回。

 私達は今、満天に輝く星空を見ながら、湖のほとりで簡易的に設置したテーブルで、食後のお茶を楽しんでいた。


 母さんがブレンドした精神安定の効能を持たせたハーブ茶。その中に昨日の午前中に作った砂糖をひと欠片入れて少し甘くした味。


「わぁ、甘い甘い。美味しい!」

「あっ、ホントだ、ほんのりと甘みがある。本当にお砂糖出来たんだ!」

「一緒に手伝った私も信じられなかったわ」

「ふっふー」


 カレン姉さんとリアン義姉ねえさんは甘味にいざなわれ、あっという間に一杯目を飲み干してお代わりをしていた。母さんはそんな二人を眺めながら二杯目を入れ直しながら半信半疑だったと言いながら、鼻息荒いドヤ顔をしているであろう私の方を見た。その目には若干のあきれが見て取れた。調子に乗ってすんません。


 私がこの身体に生を受けてからこの方、十年以上経つけれど、この世界の甘味となると、特定の木から採取した樹液をシロップ状に精製した物や蜂蜜ぐらいしか見た事が無い。砂糖自体は無い訳ではなく、大変高価で街からの行商人が持って来ている様だけれど、普通の村人には簡単に手が出せない値段らしい。


 それも有って、基本的に村長さんがまとめて購入して、収穫祭の時やお祝い事の時に振舞う料理に使う為に、開拓村の共同管理倉庫に保管されているぐらいの貴重品になるのだ。


 この世界でどうやって砂糖を作っているかは知らない。色々な場所を旅をして知識の豊富な行商人に聞けばもしかしたら、生産地等は判るかもしれないけれど、それでも製法までは知らないんじゃないかと思う。誰でも簡単、手軽に購入出来るのであれば砂糖の値段はもっと安いだろうし。


 なので後で母さんがもう一度材料を用意して、自分で作ってみて問題がなければ薬剤師として、村長さんに報告するらしい。上手くいけば村の産業になるかもしれないって息巻いていた。薄茶色い砂糖でも砂糖には変わりないからね。


 初めて遠出して興奮気味に会話をするカレン姉さんとリアン義姉さん。そんな二人の話を聞きながら相槌を打つ母さんと私。寝る前のリラックスを兼ねた食後の団欒は賑やかに終わった。あとは身体を拭いて寝るだけとなった。


 だが、少し待って欲しい。食事のおもてなしは出来なかったけれど、この秘密基地で唯一、お客さんに提供出来る設備がある。


「母さん、お風呂入るよね?」

「……?」

「お風呂、って?」

「えっ、ここって、お風呂有るの?」


 私の発した言葉に疑問を持った二人の姉。それとは対照的に母さんは若干食い気味に私を見てきた。なので肯定して頷いたら「やった、久しぶりのお風呂」と小さくガッツポーズを決めていた。どうやら知っている様である。


 姉さん達はそんな母さんにお風呂の事を聞いていた。


「お湯に浸かって身体の汚れを洗い流すの。お湯を作るのに労力が半端ないから、普段は拭いて済ませていたけれど、ここに来て命の洗濯が出来るとは思わなかったわ。カノン、早く支度しなさい!」


 ……命の洗濯って。まぁ、理解出来る。自分の中にある前世の日本人の心みたいなモンか。


 母さんの音頭で速攻でお茶のセットを片付けて、秘密基地ログハウスの湖側に面したウッドデッキ部分に移動する。そこには半円柱型の直径約三メートルぐらいの湯船が鎮座していた。


 私が湯船を木組みで作れば、隙間から水が漏れてくるのが目に見えている。ならばと、風魔法を全力行使して、一本の巨木を切り倒して、それを半分に割って、中を縦二メートル、横幅一,五メートル、深さ六十センチメートルでくり貫いた特製の湯船を作成。きちんと排水用の穴も有る力作だ。ちなみにその木は他に輪切りにしてテーブル等にも使っている。


 早速、右手に火魔法と左手に水魔法を発生させお湯を作り、宙に浮いた水玉を下から火の玉であぶって暖め順次投入して、くり貫いた部分に満たしていく。それを見ていた母さん達は呆然としながら「これがカノンの魔法ギフト」なんて呟いていた。やはり魔法は平和利用が一番だと思う。


 数分後、湯気を上げたお湯をなみなみとたたえたお風呂の完成である。お湯に手を突っ込んでみると丁度いい熱さ。大自然に囲まれた露出風……露天風呂の出来上がりである。正直、誰も居ないから大丈夫、な筈。


 母さんは既に、私が手慰みで作った脱衣籠に衣類を入れて、肩には手拭いを掛け、手桶を脇に抱え仁王立ちである。……何時の間に。しかも、まだまだ若々しい女性の身体をしているのだけれど、何と言うか、その姿はとても男らしい。


「貴方達も早く服脱いで準備なさい」

「あ、はい」

「私もですか?」

「当然よ。入る前にちゃんと掛け湯して身体を洗いなさいね」

「あ、これ石鹸の粉。お湯は足りなくなったら足すから」

「お、カノン気が利くねぇ」


 当初はウッドデッキとして作ったけれど、この湯船を横に設置してからはお風呂の洗い場として活用している。寝る前に身体を拭く姿を見ているから家族の裸って今更感があるかな、と思っていたのだけれど、お風呂って舞台装置があるとまた違って見える不思議。女性の身体のラインって綺麗だなって思った。


「カノン、少し胸が膨らんできてるでしょ」

「あっ、ホントだ。カワイイー」

「将来、お義母かあさんに似て大きくなるかもね」

「や、やだ、触らないで」

「なかなか初ぃヤツよのぅ、はっはっはーっ」


 等等。女子トークを炸裂させながら、わいのわいの、きゃいのきゃいの、はしゃぎながら身体を洗って浸かるお湯は、中身がお爺ちゃんの私にとっては、一応対外的に女の子の言葉遣いをしているけれど、ある意味、天国だった。


 死神様、エンヤさん。転生させてくれてありがとうございます。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

読んで頂き有り難うございます。

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