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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五二話

 私達家族は開拓村の狩場の最奥よりも深い場所にある湖のほとりを歩いている。薄く雲の掛かった空はオレンジ色に染まり、湖面は西に傾いた日の光を反射してきらめいている。


 左手に歩いて少し進んで行くと、湖に張り出したちょっとした高台に出る。そこが私が造った秘密基地ログハウスのある場所だ。高台の根元はせばめた間隔で不揃ふぞろいの角材が杭打ちされて敷地をおおっている。ハックルベリーに憧れて作ったツリーハウスはその内側にあり、何も植えていない畑っぽいモノも見える。その上の方に私が数年掛けて作った場違いなログハウスが存在している。


 周りには広葉樹に混じって針葉樹もたくさん生えていて、真っ直ぐ伸びた同一の太さの木を風魔法を斧やのこぎり代わりに連射して剪定せんていしながら木を切り出した。木のりが出ない様に、水魔法で水分を抜きながら火魔法で乾かしたりして、何度も試行錯誤しながら板状にした。

 土魔法を駆使して、地面に繰り返し隆起と沈降を発生させながら、木材を転がして運んだりもした。お陰様で四大魔法の熟練度がいい感じにどんどん延びたけれど、今となってはいい思い出だ。


「……カノン。アンタ、こんな所まで来て何やっていたのよ?」


 母さんの一声は呆れが混じった言葉だった。子供が遊ぶ積み木みたく木材を重ねて造った玩具おもちゃの家だから、ちょっとした情操教育だと思って……貰えないか、こんなの。


「……家より立派に見える」


 カレン姉さんは感嘆の声を溜息交じりに出している。や、居間と台所兼作業部屋とお風呂場の三つしかないから。一応、湖側にウッドデッキも完備。ただし、トイレは別だから、実家に比べると部屋数は少ないですよ。……なんて。


「えぇー……」


 リアン義姉さんに至ってはドン引きだ。……十歳に満たない女の子が造ったって聞けばそうなるよね。中身はお爺ちゃんだけど、それを話せば更に引かれる事間違い無し。


 この状況を目にした彼女達の言葉に対して、それぞれに心の中で言い訳してみたけれど、声に出せない時点で、虚しい響きしかない。開き直って、ひと通り秘密基地ログハウスの中を案内したけれど、招待した母さん達を更に呆然とさせてしまった。


 私としては久しぶりの秘密基地来訪。みんなは家族だけれど初めてのお客さんでもある。ぞの流れで行くと、彼女達をおもてなしをしなければいけない、気がする。


 転生モノや転移系のラノベやアニメの異世界モノって主人公が地球産の食事や調味料を披露して、食べた人達に驚愕を与えて、餌付けしたりするのが多いのだけれど、残念ながら私はそれ程の料理の腕や知識は持ち合わせてはいないので、そんな事は出来ないとはっきり断言する。砂糖作りのレシピをエンヤさんに聞いたぐらいなのだ。そもそも私は前世でカップラーメン手軽で簡単! 牛丼屋、カレー屋さんっ、最高!! と言ったスタンスの人間だったのだ。


 自炊にしても米を炊飯ジャーでいたぐらいにして、手の込んだ物は作れない。精々焼肉のタレなんかでいためたもやしに牛肉や豚肉を投入するぐらいだったのだ。更に言えばスーパーなどに売っているカレーのもとや麻婆豆腐のもと等等、色々なもとが無いと何も作れない素人さんだった。もしかしたら今後、食した物にっては改良を加える事が出来るかもしれないけれど、現状、試行錯誤してやろうとは思わない。この世界にだって美味い物はある。串焼きや、串焼きや串焼き……。いや、母さんとカレン姉さんの作る手料理がっ!!


 今思えば、何でやらなかったか、やっていなかったのかと、後悔しっぱなしだけれど、言い訳をすると、前世の日本は独身にとって大変住み易い世界だった事は間違いない。便利過ぎて向上心の無い私みたいな人間を簡単に堕落させる。そのお陰で現在は私はこの有様なのだけれどね。ははは。


 この機会に母さん達から料理を教えて貰おうと、晩御飯に付いて如何しようかと聞いた所「折角の遠出だし、キャンプに来たのだからバーベキューにしましょう」って言われた。前世の懐かしい記憶がぎった。「晩御飯何にする?」「適当でー」「それが一番面倒臭いんだよ」って遣り取りを思い出した。つか、バーベキューって料理じゃないよね。


 まぁ、食材は私が持っているし、遠出までして調理はしたくないだろうし、それに手軽だからね。……やはり前世で多少なりとも料理をしておくべきだったな。


 それはさておき、ログハウスの建っている高台から降りて、湖の畔に移動。食材の準備や洗うに充分な水質。正直、飲んで差し障り無いほどの綺麗さなのだけれど、用心の為、食材用にストレージから家から持ってきた水瓶みずがめを取り出した。今朝、私が家と井戸を往復して一杯にした、あの水瓶だ。


 秘密基地作りの際に練習がてら角材を組んで作った木のテーブルと丸太をぶつ切りにして座る部分を風魔法で削って滑らかにした椅子を、ストレージから取り出して用意する。大き目の石を組んでかまどを作ってその上に金網を乗せた。


 母さん達は揃って湖の波打ち際で持ってきた食材の洗浄と下拵したごしらえをしていたけれど、私のその様子を見て「ギフト持ちって羨ましいわぁ」と口にしていた。母さん達の準備はまだ終えていなかったので、私はたきぎ拾いに出た。


 陽が暮れる前に互いの準備を済ませ、石組みの簡易竈に火を入れる。食材をどんどん焼いていき、程よい加減でそれぞれが食べ始めた。肉、肉、野菜、肉、野菜、肉、肉。母さんから「野菜もしっかり食べなさい」と怒られたけれど、当の本人もそんな感じで肉をメインに食べている。姉さん達も同様だった。みんな肉をむさぼり食っている。我が家は肉食の家系だった。


 徐々に陽は暮れ、辺りは闇に包まれる。若干、空には雲が掛かっているものの、それを感じさせない星の明かりが満天に広がり始めていた。地上には簡易竈の火が頼りなく燃え、近くのテーブルでは家族四人がその灯りを頼りに元気よくガツガツと晩御飯を食べていた。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

読んで頂き有り難うございます。

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