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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五一話

 気分転換に、一泊二日のキャンプを、湖のほとりの私が作った秘密基地に行こうと企画し、昨日の午後からその準備を始め「これは必要、これは要らない」等等の遣り取りをして過ごした。一応、母さんが家族で採取で出掛けるので留守にすると、近くのお隣さんの家に告げてきた、との事。


 諸々の準備をこなし、晩御飯を食べてから家族の団欒だんらんで母さんからの注意事項、黒の樹海でキノコや薬草類の採取を兼ねた探索なので危険な所には行かない立ち入らない、獣が出てもカノンが如何にかすると思うから大丈夫って話をして就寝した。……家族は無条件で守るつもりでいたけれど、母さんの信頼が重い。


 朝起きて、顔を洗うついでに、一番下っ端の仕事である水汲みに出たら、リアン義姉ねえさんのお父さんのマサクド小父おじさんと丁度、視線が合った。私に向かってニヤリと笑みを浮かべ、片腕を挙げてガッツポーズを決めていた。を先頭に、背負い袋を担いで剣鉈や槍、弓を小脇に抱えた数人の男達が黒の樹海の方に進んで行く姿が見えた。


 村の出入り口の見張りを誰かに代わって貰ったのだろうか、剣鉈と短槍を掲げたロイドとトマソの姿も見えた。先日挨拶を交わした時よりも表情が明るく感じたのは朝だからだろうか。それとも久しぶりに狩りへ出られる喜びや期待感からだろうか。


 家に戻って台所の脇に置いて在る水瓶みずがめに水を移し変えながら、朝ご飯の準備をしていた母さん達に樹海に入っていった彼等の事を話した。


「へぇ、ロイド達も狩りに出るのか。大物が獲れるといいね」

「お父さん、久しぶりの狩りだからって、どんだけ張り切ってるのよ」

「先に村の男達が樹海へ入るのであれば、露払いされて、多少は安全に採取、探索が出来そうね」

「時期的に採れる物が限定されるけれどね」


 その後、何度か往復して水瓶をいっぱいにした。ちなみに水魔法で作り出した水は、純水に近いのか、体内に吸収しやすいのか、水が合わなくてお腹を壊しやすいので、非常時以外は飲み水に使わない様にしている。あと今更な話なのだけれど、家族に知られたくなかった頃の習慣、ってのもある。


 水汲みの作業も終わらせた辺りで丁度、朝ご飯の準備も済んだ様なので、みんなで和気藹々と朝食を頂いた。荷物類は建前上異空間庫な<ストレージ>に収納済みなので後は身軽な状態で出掛けるだけだ。


 みんなの気分転換になればいいのだけれど。


 朝食の後片付けをして樹海内で動き易い格好に着替え、貧乏な開拓村の一民家に泥棒が入るとは思えないけれど、一応、母さんが戸締りを済ませ家から出る。


 今朝、村の男達が森へ入っていった道、村の中を通る小川の脇を上流に向かって進んだ。途中までは秘密基地ルートと同じだ。進行ルートは村の男達が狩りを始める手前側なので、キノコや薬草類の採取に来た村人、主にうちなのだけれど、私達が普段樹海内で使っている踏みした生活道。気が付く人は気が付く感じで、少なくとも狩をしている村の男連中の目には人工的な獣道、そう見えている筈だ。


 村の男達が狩りの最奥と決めているキャンプが出来る滝のある広場から岩場を伝って上に登るのは大変なので、初期の探索時に幾分か緩やかなルートを探し出していた。ちなみに今回は家族が一緒だから使えないけれど、私は何時も秘密基地からの帰りでは、人の有無を確認して、滝の上からジャンプして風魔法をクッションにショートカットしていた。


 樹海内に入ってからつたないながらも<気配察知>を展開している。村の男達が先行して入った所為か普段より小動物の気配が少ない気がする。右手に小川を見ながら三十分ほど歩くと、その場所に着いた。目印にしている幹の途中から二股になっている大きな木。母さん達に「こっちだよ」と指差して案内を始める。


 樹海の下生えを踏みしめ、横から無造作に飛び出している枝を掻き分け、途中で見つけた薬草類の採取をしながら、目印にしている木々の間を伝いながら四時間ほど進むと、ちょっとした岩場の段差が見えてきた。この岩場に沿って右側へずーっと行くと村に流れ出る小川に、村の男達がキャンプに使っている広場に到着する。


 ただ、幾つかの岩壁を降るとか、木々が密集して迂回しないといけないとか、大変な労力を必要とする。狩りの対象である獣達も同様で滝の辺りは袋小路になっていて、天然の巨大な罠の様になっているので、村の男達は迷い込んでくる獲物を追い詰めて狩っている。


 それも有って村の男達はこちら側に来ないのだけれど、生前、一緒に狩りへ出た時に父さんが「崖の上に行ってみたいけれど、危険を冒さず獲物を追い詰めて狩れるのであれば、ここで充分だ」と話していた。


 階段状になった岩場を登ると、相変わらず樹海内なのだけれど緩やかな台地になる。ここまで来ると若干植生が変わる。と言うか、薬草に使える植物が増える。母さん達も興味深深で、村の男達がキャンプをする場所に在る滝、そこへ通じる上流の小川までの道すがら、休憩も兼ねて植物の採取をしながら付いてくる。この時点で背負っている籠の中身は既に三分の二ほどまでになっていた。


 小川へ出たのであとは大きな石が転がる川沿いを上流に向かってひたすら歩くだけだ。今回は先行して村の男達が狩りに入ってくれた所為なのか、冬が近い季節柄の所為なのか、有り難い事に獣に遭遇する機会が殆ど無く、迂回ルートを通らずに済んだ。それでも万が一と<気配探知>は切らずに歩いて、やがて小川の源流、流れが始まる場所へ無事に到着した。


「……青々として綺麗」

「これだけ大量の水。見るのって初めて」

「ホントに有ったよ。私達は村の男達よりも深い場所に来たのか……」


 目の前に広がる、黒の樹海に囲まれた湖。それを初めて見たカレン姉さん、リアン義姉さん、母さんが感慨深そうに呟いていた。


 私はそんな家族を見て「少しでも気分転換になってくれればいいのだけれど」と思っていた。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。


2020/10/05 リアン義姉さんのお父さんの名前、マサクド小父さんと追記。

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