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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇四五話

 昨日の出来事の後、さっさと門を抜け何時もの宿<新緑屋>で部屋を借りて、ひと晩寝ると、宿までの道すがら彼是あれこれ悶々と反省して鬱々としていた気持ちは少しだけれど解消していた。


 精神年齢六十を越えている所為なのか、考えても無駄と割り切っている所為なのか、なる様になるという気持ちか。なんにしても都合のいい精神構造をしていると、我が事ながら心の中で苦笑してしまう。


 軽く身支度を整え、お下げを編むのが面倒臭いので適当に紐で耳の後ろ辺りでツインテールにまとめて、忘れ物が無いかを確認する。まぁ、着ている物と背負い袋だけなのだけれど。大事な物は大体<ストレージ>に入れてある。宿のフロントに居るお姉さんに鍵を渡して朝ごはん確保の為に市場へ向かった。


 気のいいおっちゃんの屋台で串焼きを買って雑談して「昨日の晩、城壁内市街地の高級住宅街辺りで凶悪な暴漢が出て騎士団が対処にあたった」と言った噂話を適当な相槌を打ちながら聞いたぐらいにしてその場を離れる。漠然とした内容だけれど、昨晩のあの騒ぎは城壁外まで聞こえてきている様だった。


 壁門で身元確認と通行許可を得て入城しようと列に並んだのだけれど、何時もの好青年の姿は非番なのか見かけなかった。その代わりにナンパでチャラそうな兄ちゃんが手続きをしていた。以前と同じく十歳の少女を口説くとか変態野郎がっ! ……を、何とかあしらって市街地へと入る。入城した人達の波に乗り冒険者ギルドに続く坂道を歩く。


 冒険者ギルドの建物が在る広場に到着する。ギルド公認の日雇い派遣業者にドナドナされていく冒険者達を横目に、建物の入り口からフロントロビーに突入。朝方と云う事もあり、中は相変わらず喧騒に包まれていた。取り敢えず、依頼が張り出されている掲示板へ足を進める、そして目の前に立ち塞がる影。……えっ、影? その主を見上げる。


「カノンさん、お待ちしておりました」

「……あれ、ミュンさんじゃないですか。なんで受付カウンターの外に居るんですか? しかも少し顔が怖いんですけれど」

「……今朝、騎士団の方から言付けを頼まれました。本部まで出頭要請です。カノンさんはいったい何をしたんですか?」

「えーっ、出頭って、だなぁ」

「……何かしたのは否定しないんですね」


 まぁ、ね。どうせ昨日の事だろう、バックレたいなぁ。顔をらせてつい口に出したからって、そんな目で見ないで下さいよ、ミュンさん。なんて思っていると、後ろの方で冒険者達の喧騒けんそうさえぎる様に一瞬の静寂と、それに続いてざわめきが聞こえてきた。


 振り返ると、以前、盗賊を護送する時に広場で見た、昨日、キルマ男爵の屋敷で見た、男爵を介抱をしていた女騎士が入ってきた。青と白を基調とした軍装に右側を開けた外套を羽織り、背筋をピンと伸ばし胸を張って歩く姿は凛々しく美しいと、素直に思った。


 つか、今まで余り気にしてなったけれど、羽織った外套の開いた部分から、漫画やアニメでしか見た事がない綺麗な形の巨乳が自己主張をしていた。うん、リアルで乳袋って物を初めて見たわ。身体のラインが強調されてボディペイントみたいで凄ぇな。……って感じのおっぱいだ。肩が凝りそうだ。


 その巨にゅ……もとい、女騎士が近付いてくる。あきらかにこちらへ向かってきている。私の前に立つと胸の前に拳を当てて自己紹介を始めた。


「私は、シスイ侯爵家所属、騎士爵を拝命しているオリガ・ゼーフェルヴ。貴女あなたがカノン、さん、ですね。お迎えに上がりました」


 はっはっはっ、私の名前は筒抜けだった模様。以前、広場の騒ぎで姿はチェックされていたし、冒険者ギルドに出頭要請をしてきた時点で情報は照合されているのだろう。で、騎士爵でオリガ、さん。言葉の感じから騎士爵持ち、準貴族様かね。でもキルマ男爵家所属じゃないんだ。それに軍装を纏うと昨日の雰囲気と違うってね。エンヤさん程じゃないけれど威圧感をかもし出している。


「お、お許し下さい、貴族様。私は何も知らない人畜無害なただの通りすがりの冒険者Aです」

「……えっ!?」

「ええっ!!」


 私はその場に土下座を決めた。ミュンさんとオリガさんが私の行動に驚いている。周りは何事かとうかがいながら静まり返っている。


「……はあ。ミュン、このをちょっと借りていくぞ」

「あ、はい。どうぞ」


 あきれた声を出してオリガさんは仔猫の首を持つカの様に、私の外套の襟首部をむんずと掴んで外へ引きずっていく。私は借りてきた猫みたく大人しくぶら下がっている。流石、騎士様なだけはある。中々の腕力だ。じたばたもがくが地に足が付かない。仕方が無いので鳴いてみた。


「に、ニャー、ニャー」

「ふふっ、いい声で鳴くじゃないか子猫ちゃん。続きは本部で聞かせて貰おうか」

「…………」

「おいおい、あんまりいじめてやんなよなっ!」

「俺達にも残しておいてくれよー」

「……なにあの可愛い」

「ウチで飼いたい」

「あぁ、天使が行ってしまわれる」


 燃料をそそいだのは私だけれど、オリガさんはノリノリだな! なんとなくエンヤさんと同じ香りがするのは気のせいだろうか。そしてミュンさんは笑顔で手を振ってるし、貴方達、顔見知りの犯行ですね!! そうなんですね!! ま、まぁ、フロントロビー内での鉢合わせは偶々なんだろうけれど。あと、そこっ、勝手に延焼した外野もうっさい!!


 私はそのままの格好で広場の対面にある騎士団本部まで連れて行かれましたとさ。連行されてる最中の周りの好奇に満ちた目が痛かった。……ショボーン。

読んで頂き有り難うございます。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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