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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇四二話

 三十二個の<ファイアバレット>を受けた宮廷魔術師はその場でへたり込んでいる。幾つか身体に直撃したのか所々から煙が上がっていた、多少の怪我をしている様だけれど、こちらとしても全てを当てる気はなかった。つか、宮廷魔術師を名乗……ってないか。宮廷魔術師の称号を得ているのであればあれぐらい避けるなり防御して欲しかった、と思うのは私の我が儘だろうか。


 私は八つの炎弾を周りに再配置して、彼女とのお話し合いをする前に、後ろであごが外れそうなぐらい、あんぐりと大口を開けている女騎士、男爵の傍に近寄ってしゃがんで話し掛ける。エンヤさんは場の空気を読んで近付いてこない。私も場の空気にてられて、普段のですます口調から素の口調になっていた気がする。自重、自重。


「あー……、っと、キルマ男爵様とお見受けいたします。通りすがりのAです。こういった場で失礼かと思いますが……」

「……ん、あぁ……」

「あの者、宮廷魔術師、いえ、吸血鬼ヴァンパイアとは、稀少種として保護対象になるのか、それとも化け物、怪物、魔物として駆除対象になるのでしょうか?」

「…………」


 ……歯切れ悪く、私の言葉になんとか反応したけれど思考力が落ちているのか、口調の変化に戸惑っているのか、問いには答えられない。キルマ男爵の見詰め合い、誰得だよの沈黙した時間が過ぎる。


「……吸血鬼バンパイアという種は、不死に近いと言われている。何時の間にか国の中枢等に入り込んで、裏から人々の持つ様々な闘争をあやつり動かし、それを自分達の娯楽としている。との話だ」


 そう答えたのは女騎士。こういった場の女性って強いよね。彼女曰く―――。


 ブリタニア帝国本土に吸血鬼の真祖なる者が存在し、国政の中枢に入り込んでいる。と言われているけれど、正体を、姿を見た者は誰も居らず、まことしやかに噂されるレベルらしい。なんという都市伝説並みのあやふやさ。まぁ、少し前のエンヤさんの説明でチラリと言っていたから実在するのだろう。


 そこに居る宮廷魔術師の<誘惑テンプテーション>や赤い小僧の使った<魅了チャーム>を使って意識や記憶の改竄かいざんを行って、紛れ込んでいるのだろうと当たりを付ける。


 ブリタニア帝国の植民地であるイーシンの、しかも、こんな片田舎に、と言った辺りで、女騎士は少し顔をうつむかせたが、気を取り直して、何故ここに居るのかははなはだ疑問だが、それが本当なのであれば、本国の宮廷魔術師とゲーノイエ伯爵家四男のお付と云う肩書きが外され、討伐対象なるそうだ。むしろ伯爵家に対し、何故なにゆえその様な者を使っていたのかと、問いたださなければいけないのだそうだ。


 人間レベルからすれば化け物や怪物、魔物と揶揄されるほどの魔力を有し、討伐対象として戦闘となれば最低でも、魔術師を擁する騎士団の小隊から中隊が対処に当たるのだそうだ。ただ、その攻撃力と不死性にる耐久力で対処に当たる隊の被害も相当に大きいらしい。


「では、駆除対象して処理して宜しいのですね? 討伐証明の部位とか有りますか?」


 なんて聞き返すと女騎士とキルマ男爵の二人は、なんとも微妙な顔をしていた。事後に何かゴタゴタが起きれば逃げればいいか、なんて軽い考えで、二人から宮廷魔術師を吸血鬼ヴァンパイア、討伐対象として、了解が得られた、と思う事した。


 私は揺らめく<ファイアバレット>の灯りを頼りに足元を照らして、薄暗くなった男爵家の庭を宮廷魔術師の居る場所まで歩く。エンヤさんの重圧、威圧感の影響で絶望、脱力した騎士団の者達の合間をすり抜け、最後にエンヤさんと合流して、身体の所々から煙を上げ、傷を負い、両手をだらりと地面に付けてへたり込んでいる宮廷魔術師の前に立つ。


「……何故、お前の様な小娘がここに居る? その力はなんだ? ……そして横に立つ者。その心の奥底から恐怖を呼び起こさせるその者は、いったい、なんなのだ?」

「さぁ? ただ、魔法に関しては、ギフトのお陰だろうな。それに、最初に言っただろう。我が女神は貴女の死を導く者でラスボ……ぐっ!?」

「? ……ギフト持ちだったか。本当にそんな者が居るのかは判らないが、女神に愛されているのだな」


 私がラスボスと言おうとした辺りでエンヤさんは脳天チョップを入れてきた。神は神でも死神なんですがね。思わず彼女の方をにらんでしまう。つか、折角対外的な口調に戻せたのに、宮廷魔術師と対面したら思わず素の口調が出てしまった。……場の空気ぇ。


「で、私を如何する?」

貴女あなたは、うちの父さんと兄さんが死んだ遠因になっている。ここでかたきを、元凶として討伐する」

「……お前の家族の事など何も知らないのだがな」

「ブリタニア帝国の潜入工作員として煽動破壊活動を行っている者が混じった盗賊団に村が襲われた、と言えば判るかな」

「……復讐、か。一応、彼等も潜入のスペシャリストだ。そう簡単に口を割ると思えんが、得体の知れないお前の事だ、何かしらの確信があって彼等と関連付けたの、か」

「何がいい? 首を取られるか、心臓に杭を打ち込まれるか、葬儀をやり直して欲しいか。……貴女に選択肢を与えよう」

「くっくっくっ、お優しい事で。しかし、そうか、我等吸血鬼ヴァンパイアの討伐方法まで知っていたか……、末恐ろしい小娘だな」


 一応、日光と大蒜ニンニクが嫌がらせ程度にしか効果が無い事も知っている。


 銀の銃弾……は無い、けれど。そもそも、この世界に火薬武器なんて有るのだろうか? 先の宮廷魔術師が使った<ストーンバレット>も銃器類の現物、或いは射出を見ていれば、その弾速から更に速いイメージの魔法を構築出来たに違いないと思うのだけれど。そうなっていない事を考えれば、現在の時点で、この世界には火薬武器は無いのだろう。


 私の思考が横にれている合間に、宮廷魔術師は己の生徒に言い聞かせる感じで「……だが、降伏前の敵に対し、無造作に近付ちかづき過ぎだな。次が有ったら気を付ける様に」と教示する口調で話掛けてきた。そして、だらりと下げている右手に持ったタクトで、地面を軽く二度三度と叩くと地面に魔法陣が現れた。


「<アースピラー>!!!」


 私達が近付く前に既に詠唱が済んでいたのか、前触れ無く魔法名を叫ばれる。三方の地面に現れた魔法陣から土煙を上げて私に向かって柱が斜めに生えてくる。まるで肉食獣の牙の様に先端がとがっていて、直撃すれば致命的なダメージを受けるのは間違いなしの威力だった。


「ちっ、悪足掻わるあがきを!」


 瞬間的に、何時も移動の最中で背に受けている風魔法を数倍に圧縮し、足元に発生させて身体を浮かせ宙へと逃げる。浮かせると言うか、弾き飛ばした。普段は身構えてから使っているので体勢を綺麗に保っていられるのだけれど、今は緊急時なので錐揉きりもみ状で跳ね上げられた。


 身体が軽いから出来る荒業だけれど、成人したら、大人の身体になって体重が増えたら厳しいかもしれん。結構前に連続使用して空を飛ぶ事も試みたけれど、結局、空気だけだと自身の身体を吹き飛ばすか、緩衝材としてしか使えなかった。重力さんのお仕事がマジパネェっす。……つまり空を飛ぶのは現状で無理そうだった。


 自分の風魔法で上空に弾き飛ばされ、錐揉み回転が収まってきた辺りで、改めて風魔法を使って体勢を整え、逆巻く風を緩衝材として緩やかにふわりと、宮廷魔術師が行使して出現させた三本の土の牙が交差する上に降り立った。


 ……ふぅ、何とかなった。内心、冷や冷やのドキドキである。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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