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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇四一話

 男爵家の庭に居る者達は、宮廷魔術師の<誘惑テンプテーション>で同士討ちを始めた騎士団や屋敷の護衛達は、エンヤさんの、死神の重圧、威圧感に屈し、顔面蒼白にしてその場に崩れ落ちたり、立ちすくんだりして行動が阻害されている。


 赤い小僧に斬り付けられたキルマ男爵は意識を取り戻し、女騎士に抱えられこちらをうかがっている。


「……蒼白い火……聖、炎?」

「死を刈る者が、浄化の炎を使った……だ、と……」

「ひ、瞳の色が、紅くなってる……」

「……紅い、悪魔、か」


 女騎士が辛うじて口に出した呟きに、キルマ男爵は信じられないといった感じの言葉を吐く。周りが静かだと、ちょっとした呟きもよく聞こえるもんだね。


 騎士団の隊長はまだ意識を取り戻していない。ついで彼等を介抱していたメイドさん達は口から泡を吹いて気を失っている。あとは玄関入り口でナタリー夫人達が現状を見守っている。


 宮廷魔術師は既に気を持ち直しているのか、警戒心を露わにしている以外は先程と同じ様に静かに佇んでいる。


 私は一つ、また一つと、取り敢えず、計八つの炎弾<ファイアバレット>を造り出して前方に配置する。青白い火の玉は鬼火の如くゆらゆらと揺れている。エンヤさんは先程と同じ様に一歩引いて状況を観察している。


「ほっ、小娘が、無詠唱魔法を使う、か。……てっきり魔力のみだと思っていたが、その歳で見事な研鑽を積んだものだ。もしかして、中身は相当歳を食っているんじゃないのかね、例えば、長寿である森の妖精エルフみたいに」


 ギクーッ。鑑定結果をかんがみるに、私の精神年齢は貴女よりも十以上の歳下なんですがー。絵面えづらとしては少女と美女になるけれど、互いの精神年齢はお爺ちゃんとお婆ちゃんになるんですよ。うん、想像したくない。


「森の妖精に例えられるのは光栄だな。しかし残念ながら私にはエルフの血は少しも混じっていないのだよ。それよりも宮廷魔術師ルーリエ・セーブル殿に一つ聞きたいんだが」

「……はて、私は自分の事を名乗っていたかな? ……まぁ、いいか。で、何が聞きたいのかな、小娘?」

吸血鬼ヴァンパイアとは、一つの種族として存在しているのかな? それとも人工的な、魔術的な何かを施した存在なのかね?」

「んなっ!?」

「ヴァッ、吸血鬼ヴァンパイア、だと……?」


 後ろで、女騎士とキルマ男爵の驚きの声が上がる。この反応は吸血鬼ヴァンパイア存在自体が珍しいのか、或いは人間種と相容れぬ化け物として見ているのか。宮廷魔術師の顔は、想定外の質問をされて、一瞬驚いた表情になり、そして雰囲気が変わった。鋭い視線で私を睨んでくる。


「今日が初見だと思っていたが不思議な小娘だ。如何だ、私の元に来ないか? レイナードよりも高待遇で眷属にしてやるぞ、んん?」

「……さっきも断った筈だが?」

「ああ、そうだったな。一応、私の<誘惑テンプテーション>が効くかの再確認だったが、無駄の様だ。では、逆に聞くがお前は、いったい何者なのだ?」

「ただの通りすがりの村人Aだ」

「ふん。何処で知ったかは判らんが、この場に居る者全ての口封じの必要性が出てきた。……取り敢えず、小娘、お前からだ!!」


 宮廷魔術師ルーリエ・セーブルはゆったりとしたローブの下、腰の辺りに差していたタクトを取り出して、指揮棒を振るう様にブツブツと何か韻を踏みながら呪文を唱え始めた。詠唱の開始。彼女の眼前にほんのりと光を帯びた魔法陣が浮かび上がり、その中から複数の石礫いしつぶてが形成された。赤い小僧レイナードが使っていた魔法。


「<ストーンバレット>っ!!!!」


 私に向かって四つの石礫が野球のボールを投げつたぐらいの勢いで放射状に飛んでくる。どちらに避けるにしても、どれか一つは直撃コースと判断して周りに浮かべていた<ファイアバレット>を高圧縮して高速スクリュー回転を与え「キュドッ!」と音を立てて撃ち出す。イメージはライフル弾。


 黒の樹海で獣達を倒す為に編み出した魔法。盗賊襲来時に広場で使った魔法。その時は拳銃弾をイメージしたっけ。光の線を引いた圧縮炎弾は少し離れた場所で続け様に「バキンッ!」と音を鳴らし石礫を打ち砕き迎撃した。風魔法で破片が飛んで来ないようにケアをする。残りの三つは私の身体の脇に逸れて地面に突き刺さっていた。それなりの威力が有る様だ。


 この世界の魔法はイメージ力で威力や効果が決まる。宮廷魔術師は石礫を投げるイメージで飛ばしたのだろう。こっちの世界ではイメージが投石になるのか、見た感じ素人でも頑張れば打ち返せるか、避けられるぐらいのスピードだった。


 前世でテレビの野球を見ていたお陰でプロが投げる球の速さを知っているから対処出来たってのもある。あと、魔力の残滓と言うのだろうか、薄暗い中でもほんのり光っていて目視出来たのも大きい。これがただ投石された石礫だったら危なかったかもしれん。直ぐさま消費した分の炎弾を補填する。


「な、なんだ、その魔法は!? くそっ、くそっ、くそーっ!!!」


 宮廷魔術師が汚い言葉を吐くんじゃないよ、っと。再び彼女はタクトを振るいブツブツと韻を踏んだ詠唱を開始する。眼前に幾つも現れた魔法陣と現われた石礫は先程よりも数が倍に増えている。その数、八つ。私が展開している炎弾と同数。


「<ストーンバレット>っ!!!!」


 八つの石礫が放射状に飛ばされる。その内、三つを迎撃……あっ、まずい。流れ弾の軌道が、女騎士やキルマ男爵、騎士団隊長、泡を吹いて気を失っているメイドさんの方にも向かっている。


 ……面倒臭い。全部撃ち落す。展開していた炎弾を、高圧縮して高速スクリュー回転を与え、飛翔体全てに狙いを定める。「キュドドドドッ!!!!」と音を上げて撃ち出された炎弾は八条の光の線を描き「バギンッ!!!!」と音を響かせ八つ全ての対象を迎撃した。


「なんなんだ、なんなんだよっ、お前は……っ!?」

「……ただの通りすがりAと言った。では、今度はこっちから行くぞ」

「ま、待てっ! ちょっと待ってくれ!!」

「甘えるな。戦場で自分だけが一方的に有利な条件で攻撃出来るとでも思っているのかね?」

「少し落ち着け、落ち着いて話し合おうっ! なっ、なっ!!」

「……今更何を言っている。私は二度も専守防衛をしたのだよ。反撃するのは当然だろう?」


 そう言って炎弾を展開する。自分が現状で一度に制御出来る数、計三十二個を周囲に展開する。辺りからゴクリと唾を飲む音が聞こえてきた。あー、君達に当てないから、あくまで標的は宮廷魔術師だから安心していいよ。なんて笑みをみんなに振り撒く。全員が凍りついた顔をしていた。エンヤさんだけが意地悪な笑みを浮かべていた。


 魔法発動の切っ掛けに「<ファイアバレット>!」と叫んでもいいのだろうけれど芸が無いな。と考え、格好良く指を鳴らす事にした。これもイメージの賜物。思い立ったら吉日。私は前に右手を出してフィンガースナップを鳴らした。


 パチンッ!


 瞬間。三十二個の<ファイアバレット>が一斉に宮廷魔術師に殺到する。


吸血鬼ヴァンパイアって不死身なんだろう? これぐらい大した事ないさー」

「ンな訳有るかーーー……うぉおおおぉわぁあああぁーーーーーーっ!!」


 ズドドドドドドドドーーーーーーーーッ!!!!


 悲鳴を上げる宮廷魔術師の周りへ<ファイアバレット>が着弾する。激しい炸裂音と地面の震動が響き渡った。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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