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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇四〇話

 黄昏時。


 キルマ男爵家の庭に死神が舞い降りた。生物にとって凶悪な死の恐怖を呼び起こさせる重圧、威圧感が辺りをおおい、私の周りに居た者達は生命の活動が止まったかの様に誰一人その場から動けずに居た。


 その圧に屈した者は顔面蒼白にして膝から崩れ落ちて絶望を感じ、辛うじて立っている者も身体や膝をガクガクと震わせ何とか恐怖に耐えている。


「流石、先生です。このままヤっちゃって下さい」

「うーふーふーふー、カーノーンさーん。何を言っているのですかぁ? 貴女、また私の存在を利用しましたね。しかも青い猫型ロボットに助けを求めるようなニュアンスで!」

「もーんって付けて言ってないだけいいじゃないっ!」

「良い悪いの問題じゃないのです。私がもう少し楽出来るタイミングで呼び出して欲しいのです!!」

「私としては大助かりですよ。みんな<■■■エンヤ>さんの見目麗しい姿に恐れおののいて、今までの混乱が簡単手軽に納まったじゃないですかぁ」

「それこそ失礼な話ですね、みんな耳を塞いでガクブルですよ、プンスコ!!」

「あぁ、頬を膨らませてプンスコって口で言っちゃってるよ。相変わらずお茶目さんだなぁ、はははー……」


 私とエンヤさんは何時もの様になごやかに、死神の重圧、威圧感に屈した周り者達の状況とは関係無く、会話をする。


「……あの者の姿、戦場に現れるという死を刈る者、なのか」


 辛うじて重圧に耐えている男爵は遠回しに死神の存在を認知している様だ。あ、女騎士の人が何とか恐怖に耐えながら男爵を支えているけれど、一緒に居たメイドさん達が気を失って口から泡を吹いている。


 もしかして、と思い屋敷の玄関辺りを見ると、エンヤさんの神通力は届いていないのか、そこに居るナタリー夫人っぽい集団は何が起きたか判らないといった感じでこちらを見ていた。


「こ、小娘ぇっ! お前はっ、お前はいったい何を呼び出したーっ!!」


 それとは逆方向に位置する、同じぐらい離れた距離に居る宮廷魔術師はべにを引いた赤い唇を歪ませ怨嗟えんさの言葉を吐いてくる。彼女には精神的重圧が掛かっているらしい。死神の重圧、威圧感は指向性を持っているのか、或いは、範囲を限定出来るのか。なんにしても現場だけで威圧感の範囲が収まっているのは有り難い。


「我が女神。命の有る全てに等しく最終権利を行使する存在。貴女の死を導く者。……その実体は、この世界のラスボス!!」


 私の頭上にエンヤさんがビシッとチョップを入れてくる。叩かれた頭を抑えながら恨みがましくエンヤさんを見る。……痛いなぁ。周囲では「ヒッ!?」とか「うぐっ」「……くぅ」等の小さな悲鳴が上がる。エンヤさんのちょっとした行動だけで辺りに威圧がばら撒かれている様だ。


 この状況下でただ一人、直ぐさま再起動を果たし動き始めた者が居た。赤い小僧、レイナード・ゲーノイエ。右手に持った剣をだらりと下げて、私に向かってゆらリゆらりと歩いてくる。顔の一部がただれ腐って、左腕から銀色の液体をしたたらせて、さながらホラー映画に出てくるゾンビだった。


「カノンさん。私は手が出せないのでお願いします」


 そう言ってエンヤさんは一歩下がる。そうだった。エンヤさんが黄泉送りする為に魂を肉体から引き剥がさないといけないんだった。父さんの形見のナイフを構え、先程と同じ様に切っ先を振るい、風魔法の薄い刃を斬撃の延長線として発生させる。


 風の刃は剣を握っている右腕と右足を切断して、赤い小僧はバランスを崩してその場に崩れ落ちる。やはり斬られた部分から銀色の液体が飛び散った。宮廷魔術師は魔力水銀で防腐剤と言っていたか。現状で人としての感情が有るか判らないけれど一応聞いてみるか。


 私は銀色に濡れた地面に這いつくばった赤い小僧の近くへ寄って言葉を掛けた。


「さて、小僧。レイナード・ゲーノイエ、だったか。まだ理性は、残っているかな?」

「……ぉ娘……お、前の魔力を……ぉこせぇ……」

「ふんっ、今のそいつに何を言っても無駄だ。眷属化の果てにナイトウォーカーになった時点で理性をなくしている。随分前から思考能力も低下している。今は我が命令を聞くか、食欲に対する衝動しかない」

「……と、お前の飼い主は言っているが、君はもう終わりだ。最後に何か言い残す事が有るなら聞こう?」

「……うぅ……マ、チルダに、よう、やく……、自分を……巡り合えたのに身体が……デット化とか……魔力を吸わない、と……」


 言葉が途切れ途切れに吐き出される。もしかして、こいつはマチルダ嬢は相思相愛だった、のか? ……盗賊に襲われて、不可抗力で吸血鬼ヴァンパイアの眷属化、死人となって、そして肉体を維持する為にマチルダ嬢や他人を襲って魔力を得ていた。推測、憶測に過ぎないけれど、或る意味こいつも被害者だったとか。……遣る瀬無いなぁ。


 レイナードのうつろな視線はマチルダの方を見ていた。遠目に見えたマチルダは彼の言葉が聞こえたのか判らない。彼女は現状を見てただ黙って首を横に振っているだけだった。


「……もっ、と長く、一緒に、生きたかっ、た……」

「……伝えておこう」

「…………」


 私は火属性の魔法を発動する。以前、開拓村を、家族を襲って来た盗賊に対して使った魔法。青白く光る炎は時間を置かずに赤い小僧、レイナード・ゲーノイエの全身を覆い焼き尽くしていく。なんとも後味が悪い。


「灰は灰に、塵は塵に、塵は土とり、魂は魂の坩堝るつぼへと還る。永劫の刻を越え、再誕するその時まで安らかに眠れ」


 後ろに下がっていたエンヤさんが一歩前に出てきて言葉を紡ぐと、一陣の風が舞い青く燃えていた炎を掻き消して霧散した。辺りは静寂に包まれている。


 私とエンヤさんは宮廷魔術師ルーリエ・セーブルの方へと向き直る。


「さて、宮廷魔術師殿、始めようか」

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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