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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇三九話

 私は矢を放った後、状況が如何動くのか見据えていた。


「…………」

「エル、フかなの?」

「……森の、妖精みたい」

「……ん、んんっ、……こ、こは?」


 背中の方ではメイドさん達が呟いた言葉。そして男の声が聞こえた。


「だ、旦那様の意識が戻られた!」

「ああ、よかった本当によかった……」

「……たしか、……ゲーノイエの四男坊に斬り付けられ……如何なったのだ?」

「男爵を斬り付けたレイナード様を捕縛する為、騎士団が彼の者を取り囲んでおります。闖入者ちんにゅうしゃも居りますが……」


 メイドさんの安堵した声と男爵に状況説明している女騎士の声が聞こえる。前方に注意しながら振り向くと男爵が意識を取り戻し女騎士に抱きかかえられ身体を起こしていた。そして男爵と目が合った。


「……くそっ、死を纏った者が立て続けに来るとは。……今日は、今日はなんて日なんだ」


 苦虫を噛んで天を仰ぐ様に発せられた言葉。十歳そこそこのいたいけな少女を見てそんな言葉を吐くとは失礼なおっさんだな。それより向こうの方で動きがありそうだ。私は外套の内側に手を突っ込んで再び<ストレージ>から矢を取り出し弓につがえ何時でも放てる様に臨戦態勢を取る。


 赤い小僧は苦々しい表情をしながら、仮面の外れた部分を左手で隠そうとしているが、その腐り掛けた部分全部は隠し切れずにいる。


「……レイナード様、そのお顔は?」

「ちょっとした病気さ、君から魔力を貰えたら治るんだ。前みたく、僕に、くれないかな?」


 瞳に妖しい光を発し再びマチルダ嬢に襲いかかろうとする。<魅了チャーム>か。しかし効果が無いのか、それとも赤い小僧の仮面の取れた姿に怯えているのか、マチルダ嬢は後退あとずさる。


「レイナードっ! その餌は後回しにするんだ!!」


 今まで遠巻きにして静かに状況を見ていた宮廷魔術師ルーリエ・セーブルが突如として赤い小僧に向けて叫んだ。


「その餌よりも極上の餌がそこに居るだろう。そいつが昨日お前の話していた小娘なのだろう? ああ、確かに極上そうだ。今、ここで捕まえて存分に味わうといい!!」


 赤い小僧は億劫そうに、面倒臭そうに、緩慢な動作で一度宮廷魔術師を見て、指し示しめされた方へゆっくりと視線を向ける。その対象は、私だ。そして、赤い小僧は凄く獰猛で、まるで口から耳まで裂けている様な嫌な笑みを浮かべる。


「……小娘、貴様か。忘れてないよなぁ。キヒヒッ」


 その場でゆらりと身体を揺らすと一気にトップスピードに乗ってこちらに向かって走ってくる。あっという間に彼我の距離約三十メートルぐらいを騎士団の合間を縫って詰め寄ってきた。


 私は牽制で矢を放つと直ぐに外套の内側、腰の辺りに弓を仕舞い込む仕草をして<ストレージ>に収納すると、間髪入れずに入れ替わりで今度は父親の形見のナイフを取り出した。


 赤い小僧は牽制で放った矢を右手に持った剣で切り払い、私を捕まえようと左腕を伸ばしてくる。身体が交差する手前で、その左腕に向かってナイフを軽く振るうていして、風魔法の薄い刃を斬撃の延長線として発生させる。伸ばされた左腕の肘の辺りから先が、切り口から銀色の液体を撒き散らせながら斬り飛ばされる。そして互いがすれ違う。


「っ! ……!?」

「……斬、撃なのか?」

「……ひっ!!」

「キャアァァ!!!」

「ぐっ……!? お、おっ、おお……」


 周りから息を呑む気配と呟き、メイドさんの悲鳴が上がる。赤い小僧は自分の斬られた部分を、剣を手放した右手で押さえ膝を付いて苦悶している。切り口からはやはり銀色の液体が漏れている。眷属化した時の触媒か何かだろうか?


 宮廷魔術師の方へ目を向ける。先程まで赤い小僧と戦闘をしていた騎士団連中はその場に立ち尽くし、視界の端ではセースケ氏が顔を青くして大人しくなったマチルダ嬢を確保して安全圏、ナタリー夫人っぽい人ともう一人の少女の場所まで退避していた。


「へぇ。レイナードの我が儘に付き合って来たけれど、聞いていた話よりもなかなかに面白そうな素材っぽいねぇ。小娘、お前の名前は?」

「……ただの通りすがりの村人Aです」

「ふーん。まぁ、名前は如何でもいいか。所で、防腐剤に使っている魔力水銀は精製するのって結構お金と時間が掛かるんだ。その身体で補填してくれると助かるんだが、大人しくこっちに来てくれないかな?」

「……だが、断るっ!」


 最後の言葉の合間に一瞬だけ宮廷魔術師の眼に力が入った様に見えたが、なにやら不快、不穏な視線だった。


「くっくっくっ、駄目か、その歳で既に魔力量だけは私より上なのか。……仕方がない。レイナード、食ってしまえ」


 その言葉と同時に赤い小僧は手放していた剣を拾い背後から襲ってきた。私はいち早く間合いから外れ、先程まで争っていた騎士団の援護を期待して、立ち尽くしている彼等の方へ駆ける。彼等を障害物にして、あわよくば赤い小僧をほふってその勢いで宮廷魔術師ルーリエ・セーブルに近接して最大火力をぶち込んで速攻を決める。……私らしい行き当たりばったりな、作戦も何もない完全な特攻だな、こりゃ。ははは。


「ふふふ、手駒はレイナードだけじゃないんだよ。さぁ、お前達、そこな小娘を取り押さえるんだ!!」


 立ち尽くしていた騎士団達は、その言葉に戸惑う数人を残し、一斉にこちらに振り向いた。その瞳には光が無かった。行く手に立ちはだかる手近な騎士団の一人に鑑定を掛け流し読み、最後の文言読む。<……―――……。宮廷魔術師ルーリエに誘惑テンプテーションを施されるが直ぐに解除される>と有った。


 ……えっ!? もしかして、こいつ等みんな宮廷魔術師に誘惑されちゃったの!? 障害ぶ……、味方に出来るかと思ったら、既に敵の手に落ちていた!! でも、何人かまともそうな者も居る様だ……あ、仲間を止めに入った。騎士仲間だから正気を失ってるの判るんだろうけど、敵味方入り乱れて場の混乱が益々激しくなってきた。後ろからは赤い小僧が迫ってくるしで完全に目論見が外れた。……今しかない、のか。


「た、助けてっ、<■■■エンヤ>さーん!!」


 ストレージから名刺を取り出し叫ぶ。私の声が聞こえた者は一様に顔をしかめ耳を押さえて呻き声を上げている。多分にピーギャリギャリの不快な音が頭の中に響いたのだろう。


 そして私の目の前には、全身が黒で統一された色合いで丸い形の帽子、丸い眼鏡、髪はお下げにして後ろでまとめ、身体のラインに合った喪服のドレスをまとった女性、死神のエンヤがその姿を顕現させた。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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