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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇三七話

 夕暮れ時。ほのかに暗くなり始めた街並みを、各所に設置された街灯がともり、辺りをあわく照らし出す。その薄明かりの中、無骨で重厚な鎧を纏った者達を先頭に青と白を基調とした軍装と外套を羽織った集団が続いて、二列縦隊を形成し行進する。ノーセロの街と近隣をおさめる領主、キルマ男爵家に所属する騎士団達。


 私が冒険者ギルドで依頼の報告を済ませて建物から出ると外の広場に在った光景だ。騎士団本部前で慌しく装備を整え準備をしながら隊列を組んでいる騎士団の者達と、その状況に何事かと遠くから声を潜める様に話しをながら彼等を眺める者達がいた。そして隊長らしき者の「これより我等が主、キルマ男爵家の警護に向かう。総員進めっ!!」の掛け声で行動が開始された。私はその言葉を聞いて、彼等の後に続いた。


 エンヤさんの話を思い出し、仮面の赤い小僧とブリタニア帝国宮廷魔術師が、男爵家に訪問して何事かが起きたのだろうと推測した。案の定、キルマ男爵の屋敷に近付くにつれ、野次馬の数が増えていった。


 どうやら屋敷内で既に何かしらの事が起きているらしい。壁の向こうから怒号が聞こえてくる。屋敷周りの壁はレンガ造りで等間隔に鉄製の装飾された格子柵がはめ込まれている。野次馬達はその隙間から男爵家の庭を覗いていた。


 薄暗くて中が見えないんじゃないだろうか? それより、昨日は門番が居たので普段は警備担当の彼等が注意しているのだろうけれどそれは無さそうだ。今はその場所、屋敷の出入り口に当たる正門付近に在る門番詰め所はもぬけの殻だったからだ。


 騎士団はキルマ男爵の屋敷の正面門前に到着すると、壁際に立つ野次馬達の目も気にせずに、隊長らしき者が振り返り「我々はこのまま男爵家の警護に入るっ! 総員、突入っ!!」と大声で叫び、続いて「おおーっ!!」を部下達が続いて、開け放たれた正面門から怒涛の如く突入していった。


 ……えぇっ、なんで突入!? 警護じゃなかったの? ……つか、いいのかなぁ、こんな無用心で、これって不法侵入だよなぁ。なんて思いつつ、辺りを警戒しながら見張りも門番も誰も立っていない屋敷の正面門から何の障害も無く自分の身体を滑り込ませ中へ入るのだった。


 背景に小洒落た感じの小学校の様な建物が在ると、その庭先はなんとなく校庭に見えてしまうのは自分が根っからのしがない庶民だからだろうか。時折、金属の弾ける、明らかに剣撃の音が聞こえる。高さが大人の胸ぐらい有りそうな植え込みの影に隠れ、百メートルぐらい進むと、やがて現場が見えてきた。


 そこは屋敷の正面玄関だと思われる。家の者だろうか、女性が数人、身なりの良さそうな女性と少女が二人、執事のセースケ氏と数人のメイドさんの姿も視界に入る。玄関に続くスロープに二人の男性が倒れている。それを介抱する数人の女性。少し離れた場所で、男女を抜剣しながら包囲している騎士団。先程、突入した者達の姿も見える。ここでに数人が倒れている。


 一方、取り囲まれている男女。赤を基調とした軍装を纏い顔に仮面を着けた男、レイナード・ゲーノイエとおそらく宮廷魔術師だろう、ゆったりとした黒のローブを纏った魅惑的な雰囲気を醸し出す大人の女性、ルーリエ・セーブルだと思われる。彼女は若干、遠巻きにして見ている感じがした。一応、確認の為、<鑑定>を施してみた。…………。


 流し読みの感じだと、どうやら間違いなく宮廷魔術師ご本人であらせられる。ブリタニア帝国生まれとか、イーシン総督府所属とか、赤い小僧、レイナードの教育係とか、キルマ男爵家との政略結婚で得られる筈の利益が得られなくなりそうだったから、ミイラ取りがミイラになったとか。方針の軌道修正の為、傀儡化するに当たり、ブリタニア帝国工作員が居る盗賊団に襲わせて眷属にするとか、マッチポンプもいい所だ。等等が書かれている。ウチの開拓村が襲われた遠因でもある様だし許せない。最後の文面もツッコミ所が満載な気がする。


<……―――……。七十二歳、レイナードと共にキルマ男爵家へ。その際、キルマ男爵とのやり取りが刃傷沙汰に発展する。その流れでノーセロの騎士団と戦闘になり、運命の歯車に引き寄せられたカノンがレイナードを昇天させるのを見て、カノンを囲い込もうとしてそのまま戦闘になり敗北する>


 いや、まぁ、なんと言うか……、えぇー……。あの魅惑的な女性は七十二歳ですか、そうですか。鑑定結果を見て、思わず二度見、三度見をしてしまったさ。吸血鬼ヴァンパイアだからなのか、魔性の女ってのはこーゆーのを言うのか。……つかさっ、私と戦闘するってどーゆー事だよ!? しかも二連戦だよ、二連戦。って、内容を見るにレイナードは昇天させてるし、ルーリエを敗北させてるし、どうやって二人に勝ったんだよ!? 結果だけじゃなく、戦闘の詳細プリーズ!!


 ……心中荒らしても何も進まないので、気を取り直して、屋敷玄関付近のスロープで倒れている身なりの良さそうな男二人を続けて<鑑定>する。ジャンノート・キルマ男爵と騎士団隊長グンジョーと名前が表記された。プロフィールの詳細は流し読み程度に割愛。二人共、結構な流血をしている様だけれど、まだ息が有る。


 鑑定最後の文に<カノンのポーションで回復した>と在るので特級ポーションを使えばいいのだろう。そう思って介抱している女性達の元に近付き声を掛ける。メイドじゃない女性は先日、広場で私を職質した女騎士だった。取り敢えず、介抱している女性に声を掛ける。


「どーも、通りすがりの者です。何か入用は有りますか、即効性の有るポーションとか?」

「……あ、貴女あなたは!?」

「お、お前は、何処から入ってきた!?」

「無用心にも入り口が全開だったので簡単に入ってこられました。それよりも応急処置しないと死んじゃうかもしれないですよ。さっ、早く患部を出して!」

「私が男爵の衣服を切り裂く。貴女方は衣類が患部に付着しないように持ち上げるんだ」

「え、えっ」

「あ、はい」


 そう言って女騎士はメイドに指示を与え、ずは男爵から斬られた部分の衣服をナイフで丁寧に裂いて広げた。私は血で赤黒く濡れた患部を水魔法で洗浄する。ゴクリと唾を飲む音と男爵の苦悶の声が聞こえるが我慢して貰う。


 背負い袋から特級ポーションを出す風を装い、ストレージから取り出して液体の入った器の口を開けて無造作に流し込んだ。液体の掛かった部分から泡を立て傷口が塞がっていく。部位欠損の再生は出来ないけれど、それでも凄い効果だと思う。


「キルマ男爵っ!」

「……あ、あ、旦那様の傷が」

「えっ、えっ、うそ。傷が、傷が消えて、いく?」

「これで大丈夫でしょう。あとはしばらく安静に療養させて下さい」

「…………」

「あ、ありがとうございました!」


 特級ポーションの効果を見て驚いた所為か、女騎士の言葉を無くし、メイドさんは涙を流しながらお礼を言ってきた。失った血液は戻せないけれど傷口が塞がれば何とかなるだろう。同じ様に隊長さんの治療も行った。


 その作業をひと通り終えると、私は立ち上がり赤い小僧と宮廷魔術師、ノーセロの街の騎士団が対峙する場所に目を向けた。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。


2020/08/29 一部、修正しました。

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