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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇三四話

 ノーセロの街城壁門。入城時は朝六時から夕方十八時までの門限が有るのだけれど、市街地から壁外に出る分には門で手続きをすれば二十四時間何時でも通用門から出られると云う話だ。何時のも好青年は交代の為か居なかったけれど別の衛兵がにこやかに手続きをしてくれた。


 私はお腹を空かせながら、本日の宿<新緑屋>へ向かった。この時間帯で屋台がやっている事に一縷の望みを掛けていたけれど見事に当てが外れて、通りに面した酒場ぐらいしかやっておらず、この年齢でそこへ突入するのも戸惑われたので泣く泣く諦めた。


 一応、ストレージ内も漁ってみたけれど、以前買った串焼きの肉は食べ尽くしており、今朝、家を出る時に用意して貰ったお弁当も昼の時点で完食している。成長期の食べ盛りなのだから仕方が無いなと肩を落として「今日の夜は辛くなりそうだ」なんて思いを抱きながら、到着した素泊まりの宿<新緑屋>のフロントから出る時に貰った木製の割符を渡し、部屋の鍵を受け取り、あてがわれた部屋に戻った。


 三畳ほどの広さにベットが一つと脇に申し訳程度の大きさのサイドテーブルが置かれて、これでパソコンが設置されていたら完璧ネットカフェなんだがなぁ。背負い袋を部屋の隅に於いて、本日二度目、エンヤさんにご降臨願おうと彼女の名刺を取り出しサイドテーブルの上に置いた。天の声を聞くべく、床に土下座する格好で名刺に向かって「如何か、如何か、いま一度その見目麗しいお姿を現界させ、エンヤさんお知恵を貸してください」と口にした。


「絶好のナイトウォーカーの魂確保の機会だったのに、取り逃がしてしまうなんて。あまつさえ床につくばってお願い事とか、カノンさんの今の姿ってとても無様ですよね」


 そう言ってエンヤさんは私の背中にブーツを履いたその足を乗せた。思いっきり下手に出て、赤い小僧と背後にいる吸血鬼ヴァンパイアの倒し方を引き出そうかとこの体勢を選んだけれど、彼女のこの登場の仕方は想定外だった。「だがしかし、乗らなければいけない、このビックウェーブに!」そんな使命感に駆られてしまう。


「ひ、ひぎぃ!?」

「ふふふ、まるで豚の鳴き声ですね、酷い醜態を晒した今のカノンさんに似合っていますよ」


 ……うわぁ、更にかぶせてきたわぁ。


「あ、有り難う御座います、マイクイーン」

「……って、カノンさんはこんなコントみたいな事をやる為に私を呼んだ訳じゃないんでしょう!?」

「いやぁ、最初に始めたのはエンヤさんからじゃないですかぁ。やだなぁ、あははは」


 エンヤさんは申し訳無さそうにそっと足を退けくれ、私を立ち上がらせて、手で背中の踏んづけた辺りの埃を払ってくれる。そっと足を置くような感じだったので痛みも無く、単なるノリなのは判っていたけれど、彼女がこういった一面を見せてくれて、なんとなく以前より少し距離が縮まった感じがして嬉しく思った。補足しておくと、一部の人にはご褒美かもしれないけれど、私にそう云った性癖は無いと断言しておこう。これは、あくまでノリでやった事、なのである。


 さて、改めて場を取り繕い、部屋が狭いので対面で座る事も出来ずにベットの上に二人で並ぶ様に座っている。前世今世を通してソロプレイヤーだった私は、相手が死神とは言え、女性とこんな感じに座る事が無かったので精神的に興奮している。……お母さんや姉さん達は家族だから別口ね。お腹が空いている気分も何処かへ行ってしまった。


 何時も対面で会話していたので、普段と違う体勢に緊張して言葉をしどろもどろにさせながら、標的である彼等の住処すみか、ゲーノイエ伯爵家ノーセロ別邸の場所と食糧確保に動き出す時間帯。それと彼等の倒し方を聞いた所、エンヤさんは快く、恐ろしくピンポイントで出現場所と時間を教えてくれた。


 明日の夕方、宮廷魔術師ルーリエ・セーブルとレイナード・ゲーノイエがキルマ男爵家を訪れる。エンヤさんの話し振りから私もその場に居るらしい。何、この死神。まるで未来を視て来た預言者染みてるんだけれど、これが死神の完璧版未来視も出来るであろうデータベースから引っ張り出された情報なのだろう。


 倒し方としては、宮廷魔術師ルーリエ・セーブルは心臓に木の杭を打つ、銀の弾丸を撃ち込む。から、身体を燃やす、首を切り落とす、死体を聖水やワインで洗う。等等、多岐に渡った。日光に当てるとか、大蒜ニンニクをぶつけるとか、ロザリオをかざす、海に落とす等は単純な嫌悪感を呼び起こさせるだけで倒すまでには至らないそうだ。


 レイナード・ゲーノイエに関しては眷属化でアンデットになっているので、ゾンビ退治みたく銃器類で吹っ飛ばすか、燃やすか、聖水を掛けて浄化するか、等等。赤い小僧の方が、吸血鬼より組みし易いと思われるけれど、両方に言えるのはこの世界は銃器なんて代物は無さそうなので、火属性魔法で燃やす事を主眼に置いて相対するのが良さそうだ。以上の様に幾つかの方法が提示されけれど、如何やって倒すのかは私の課題となった。


 討伐のご褒美として、先払いで少し情報を下さいとお願いしたら、なんとこれも快諾してくれた。と言うか、私が情報を抱えて倒れるか、約束を果たして報酬を得るか、だけの違いらしい。私が逃げ出さない限り情報の開示に問題無いそうだ。既に巡り合わせの歯車に組み込まれ噛み合って回っている感じがした。気分的に全部教えて貰うのは張り合いが無いので材料だけを先に教えて貰って、作り方は成功報酬という形でお願いした。


「この時期だと、そうね……」と言って手元のスマホをいじりだした。何か検索しているのだろう。「明日の朝、市場で砂糖大根、甜菜てんさいかな。……白カブに似た家畜用の飼料ね、それを探して買うといいわ」との有り難い託宣たくせんを頂いた。ついでに開拓村に居る家族へのお土産も準備しようと思った。


 何気無い思考だったけれど、巡り合わせの歯車の部分で引っ掛かりを覚え、ちょっと気になったので聞いてみた。


「エンヤさん。今回、もし、私が絡まなかったら、彼等の想う未来に変っていたのかな?」

「んー、余程の大きな変化のうねりが無い限り、時間にる強制力や修正が入るので、辿り着く先は遅かれ早かれ同じです」


 続けて言う。同じ場所でもいい、離れた場所でもいい。あらゆる方向から同じベクトルを持った人間が多く力を持つ様になれば歴史は少しづつ変化を始め、そのタイミングが合えば誰にも止められないダイナミックな変化が生じる。前世世界、地球ではそれが中世から工業化による急激なブレークスルーが起きて一気に近代、現代まで文明が進歩したけれど、この世界は千年単位でまだ中世時代のまま時間はストップしていると。


 そう云った意味で、今回は、彼等の力が小さかっただけなのだと、エンヤさんは話を纏めた。


 「まだ」、「今回は」と言う事は、何か切っ掛けがあれば地球と同じ様な変化が起こるのかもしれない。或いは魔法が有る世界なので別の方向へ進むのかもしれない。そんな事を考えつつ、改めて明日の夕方、彼等と相対した時にエンヤさんを呼んで一緒に対処する事にして情報交換を終えた。


 私はエンヤさんの存在が消えた部屋で、途端に空腹を覚えてそれに我慢しながら、その日の夜を過ごした。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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