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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇二八話

 次の日の朝。家族と朝食を済ませた私はノーセロの街に向かう事したのだけれど出掛けるまでが大変だった。


「カノン、貴女は女の子なんです。街に行くのだから、少しはお洒落おしゃれに気を使いなさい」


 母さんのそのひと言で、私は家族みんなにいじり倒されてしまった。


 前髪は伸ばしっぱなしで完全に片目が隠れたボサボサの髪の毛を母さんがくしきながらハサミを入れ長さを整えてくれた。連携する様にカレン姉さんが後ろ髪を緩い三つ編みにしてくれた。


 金色の髪の毛がひと房ひと房と切り取られる最中、リアン義姉ねえさんも「かわいい、かわいい」を連呼していたけれど次第に言葉少なになり、しまいには「……うわぁ、綺麗。黄金色の瞳と相まって森の妖精さんみたい」なんて口にしていた。それを聞いて「私の血筋だからね。元々の素材がいいよ」なんてドヤ顔を決めて母さんはやりきった感じで満足そうにしていた。


 マジか! 家に鏡が無いのが悔やまれた。開拓村で姿見や鏡は高級品扱いになっているので、持っている家が有るとすれば村長さんトコぐらいだろう。なので私は自分の姿を顔を洗う時の水面などの歪んだ像でしか見た事が無い。そんな訳で今まで自分の容姿に関してそれ程気にしていなかった。


 ただ、母さんとカレン姉さんの整った顔立ちからそんなに酷いものではないと思っていた。今は鏡が無いから諦めるけれど、そこまで言うのであれば、自分の姿を見てみたい気になってしまう。


 そうだ、父さんの形見のナイフに自分の姿を映して……、まで思考を巡らせ想像の扉を開き掛けた瞬間、うっとりとしながら恍惚こうこつとした表情で刃物を眺める危険な自分の姿がもやっと浮かんできた。「あ、これまずいヤツだ」と思考停止させ、その扉をそっと閉じた。そもそもナイフの表面はくすんでいるから像はちゃんと映らないだろう。


 そんな顛末を挟みつつ、お洒落の一環で、リアン義姉さん監修の元、村祭りで着る一張羅な布の服にカレン姉さんが作ってくれた赤の外套を羽織って、先日とは違い家族に「早く帰ってくるのよ」と、見送られノーセロの街に向かう事にした。ちなみに今回は背負い袋だけである。前回の街に向かう途中、思ったほど危険もなく、弓と矢が邪魔に感じたのでストレージ内に収納していた。


 開拓村を出るまでに何人かすれ違ったけれど私を見て後退りするか固まるかしていた。あの広場の現場で盗賊達の惨状を目撃していた者達かもしれない。そう思っていたけれど、開拓村の外れで村長さんトコの次男坊トマソと若い衆のまとめ役のロイド兄ちゃんにばったり会って村の人達の行動が別な意味を含み始めた。


 互いの姿を視認して朝の挨拶と会話をしたけれど、如何やら二人は街道沿いに在った他の村と同じ様に出入り口で見張りをしていた様だった。


 その会話中、二人の言動が余所余所よそよそしいと言うか昨日と違う言葉遣いだったので、如何してか訊ねてみたら、母さんの施したお洒落の所為で最初は別人に見えたそうだ。挨拶をして私だと判ったけれど、昨日と姿が違い過ぎて萎縮していたとか。先程の村の人達もこの二人と同じ様に感じたのかもしれない。村に見た事の無い少女が居てどうしていいか判らない。そんな感じか。女性ってちょっとしたお洒落で変るモノなんだなと他人事の様に実感した。


 二人と別れて横を流れる小川に沿った街道を南下する。小川が本流の川へぶつかる地点で街道も東西に分かれる。西へ進路を取ると直ぐにトドメキ村東側入り口に到着した。昨日の夕方、心配して村に泊まって行くかと言ってくれた兄ちゃんがいたので、挨拶がてら無事に辿り着つけた事を報告したら、最初は誰だか判らなかった様だった。ひと言ふた言話してようやく気が付いたらしく凄く驚いていた。なんかクセになりそうだ。


 トドメキ村を抜け、通行人の姿が見えない場所で魔法で風を起こして、それを背に追い西進する。途中でカレン姉さんに作って貰ったお弁当を食し、幾つかの村を越え、太陽が西に大きく傾いた頃、夕日をバックにノーセロの街の影が見えてきた。


 思わず心の中で「ノーセロの街よ、私は帰ってきた! 主に外見をパワーアップさせてーっ!!」と叫び両腕を横に広げた姿をイメージした。誰も居なければ本当にポーズを決めていたかもしれないけれど、流石に人通りの多い往来で実際にやる勇気を持ち合わせてはいない。


 街道を往来する人の数が徐々に増えてくる。大きな荷物を背負い歩く行商人や複数の馬車も見える。他にも冒険者風の小さな集団も幾つか歩いてノーセロの街に向かっていた。逆にこちら側へ向かってくる身軽そうな荷台を引いる者も多数居た。きっと市場で野菜とか売っていた人達だと思われる。皆が皆、自分の領域に戻る時間帯なのだろう。


 先日宿泊した<新緑屋>に部屋を取った。まだ時間的に余裕が有りそうだったので、フロントにひと言告げて冒険者ギルドへ顔を出す事にした。


 ノーセロ市街地東門前。色々な職種の人達が列を作って並んでいる。その様は夕方のラッシュ時の駅の改札を思わせる盛況振りだった。身分証明が有る人は提示して、無い人は入城料を払って次々に門の中に消えていく。門番の衛兵も人数を増やして対応に当たっていた。


 列の後ろに並び心の最後尾看板を掲げようと思ったけれど、間を置かず私の後ろに行列が出来る有様だ。しかも前の列の消化が早く、入城者を本当に確認しているのか怪しい感じもしたけれど、そんなに時間も掛からず自分の番が来たので、その考えは横に追いやった。対応に当たってくれたのはいまだに名前の知らない例の好青年だった。


「この街に来たのは初めてかい? 中に入るには一律五ダラーの入城料が必要だけど……」

「はい、これが有ると只では入れるんですよね」

「あ、ギルドカードを持っているのかい。では拝見……って、えっ、あれ!?」


 好青年は受け取ったギルドカードを手に持って確認する。そして私の顔を見て一瞬固まる。そのまま私の顔とギルドカードに二度三度と視線を往復させた。他意は無かったけれど、私は好青年に対し悪戯いたずらが決まった風を装って笑顔を返した。


「ああっ、君だったのか、やられた! 見違えたよ、その姿。まるで森のエルフみたいだ、とても可愛いね、似合ってるよ」


 彼はそこでようやくく私に気が付いた様だった。結構驚いた様子だったけれど、それをおぎなう流れる様なリップサービスが出てくる時点で「さぞ女性におモテになるんだろうな、好青年」って思ってしまった。


「ギルドカードも確認したから通っていいよ。気を付けてね」

「あ、有り難うございます」


 私はギルドカードを返して貰い人の流れに乗って門を抜ける。振り返ると好青年は次の人の応対をしていた。彼の後姿を見ながら、他人から褒め言葉を面と向かって言われると嬉しい反面、恥かしいものなんだと改めて思った。


 ……あっ、また名前を聞くのを忘れた。もう面倒臭いから彼の名前は好青年でいいか。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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