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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇四幕 死を刈る者
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第〇二六話

 スッパーンといい音を響かせほほを叩かれた私は横に吹っ飛ばされた。周りの人達はその音に顔をそむけたり、しかめたりしている。頬の張られた部分はジンジンとしびれ、衝撃で耳も聞こえなくなった気がする。私はふらつきながらも何とか立ち上がったけれど物理的と精神的な痛みで涙目になる。頬に手を添えて呆然としていると、おこり顔の母さんからおもむろにふわっと抱きしめられた。


「カノンの馬鹿っ、今まで、今まで何処に居たのよ……」

「お父さんとアルタを亡くして貴女あなたまで居なくなったら私は……」

「悪魔憑きになったとか、盗賊の残党にさらわれたとか……貴女だけ何処にも居なくて……」

「みんな、みんな心配していたんだから……」


 声を押し殺す様に母さんが耳元で何か言っている様だがよく聞こえない。盗賊に襲われた夜から数えて五日目の夜、家族との、母親との物理的な痛みで涙を伴いながらの再会である。抱きしめられ呆ーっとした視界の向こう側では、カレン姉さんとリアン義姉ねえさんも瞳に涙を浮かべ喜んでいる様に見える。あの時ほど怖がっている素振りはなかった。


 ここまで送ってくれた若い衆のまとめ役のロイド兄ちゃんと先触れで母さんの所へ来ていた村長さんトコの次男坊トマソ二人に、母さんとカレン姉さん、リアン義姉さんがお礼を言ってしきりに頭を下げている。私も無言で母さんに頭を手でつかまれ下げている。二人は「カノンが見つかってよかったね」「俺達もこれで戻るわ。後で話を聞かせてね」なんて言って立ち去っていった。


 姉さん達が先に家へ入っていく。私は母さんに連行されてその後に続く。家に入った全員はカレン姉さんを除き、居間に有るテーブルの何時もの自分の席へ座った。カレン姉さんが少し遅れてお茶の入ったカップをテーブルに並べていく。今は誰も座っていない、父さんと兄さんの空いている二席の前にもそっと置いていた。


「……それで、カノン。貴女あなたに色々と聞きたい事が有るんだけれど、何か言い訳は?」


 頬に涙の跡を残した母さんは鬼の形相ではなく、真面目な顔をして私に問い掛けてきた。お茶の入ったカップに視線を落とす。私は逃げ出したのだ。言い訳なんて無い。ただ、信じては貰えないかもしれないけれど、これまでの事を話そうと思った。


 生まれてからの記憶持ちだと気持ち悪いので、三つ四つの辺りで魔法の力に目覚めた事にして話す。それから樹海内で採取や探索の傍ら誰も見ていない所で魔法の鍛錬や訓練をして火、風、水、土をそれなりに使える様になった事を一気に話す。


「カノンがギフト持ちって、うぇぇ……」

「……あれが、魔法の力、なの」


 と、カレン姉さんとリアン義姉さんは小さく呟いていたけれど、母さんは至って真面目な顔をしていた。薬草を煎じる手伝いで込められた魔力で予感は有ったのかもしれない。


 続けて私は語る。それでも時間が経つと他の誰かに魔法の力を知られると怖がられるかと思って、その事を濁す為に父さんと兄さんに弓の使い方と狩の仕方を教えて貰った。けれど、それは結局、役には立たなかった。


 あの日の晩。父さんと兄さんが目の前で殺され、母さんが背中から斬り付けらたのを見て私は逆上して盗賊達を魔法で焼き殺した。そのまま村の中央広場へ行き、村の人達を拘束していた残りを行動不能におとしいれ、その時の村の人達の恐怖心をたたえた目から逃れる様にその場を離れた。家屋内で女子供を甚振いたぶなぶっていた男達を八つ当たり気味の半殺しの目に合わせ、そのまま当ても無く村から逃げ出した。


 姉さん達はつばを飲み込んでいた。多分、その後の村の惨状を目の当たりにしたのだろう。母さんは再び一筋の涙を流していた。


「……もっと母さんを、家族を信用して欲しかった」

「……ごめんなさい」

「それで、今まで何処で何をしていたの?」

「湖のほとりに有る秘密基……あ、の、ノーセロの街に行って、ぼ、冒険者ギルドに登……ろ……く、してきた。きちゃった」

「えっ?」

「えっ!?」

「……ちょっと待ちなさい、カノン。貴女、私達にまだ話していない事が有るわね。ここで一切合切いっさいがっさい全て白状しなさい!!」


 これまでの事を話しているつもりで、村から逃げ出した後の事を普通に口から出してしまった。カレン姉さんとリアン義姉さんがなにそれ? と驚きを見せて、母さんは目を細め全部話せと威圧してくる。


 その眼力に押され開き直って話し始めてしまった我が所業。小さい頃からの採取、探索を理由に村の狩場最奥、滝の更に奥まで分け入ってたら湖が在って、そこのほとりが気に入って掘っ立て小屋っぽいログハウスを建てた事。


「狩場の更に奥って……父さんと兄さんは危険だって……」いやぁ、魔法ゴリ押しで行けたのですよ。

「……この娘、本当に女の子なのかしら? 男の子なんじゃないの?」精神年齢六十過ぎのお爺ちゃんなんです。思考言動は十四歳ぐらいの中二病発症者みたいなモンですが。

「カノン、今度そこに私達を連れて行きなさい」姉さんの言う通り危険な獣が多いんで道中危険ですが……。その目は私の否定的な心読んでますね、お母さん本気と書いてマジですね。

「あ、はい。直ぐには無理ですが冬前には獣の動きも鈍ると思うので近いうちにでも……」

「明日は駄目なんですか?」

「冒険者ギルドの依頼を受け持ってるんで、それが終わってからなら……」

「そう、ですか」

「カノンさん、カノンさん。どんな依頼を受けたんですか?」


 母さんは少し残念そうにお茶の入ったカップを口元に持ってくる。その横からリアン義姉さんがやたら食いついてきたので、渋々依頼内容を告げると母さんが口に含んだお茶を噴出した。「お母さん汚い」と言ってカレン姉さんは布のナプキンを手渡す。


 今の時期、魔力茸なんて手に入らないですもんねぇ。なんて思いつつ「これなんですがね」と床に降ろした背負い袋に手を突っ込んで取り出した振りをして掴み取った魔力茸をテーブルのれていない場所に載せた。母さんは布のナプキンで口元とテーブルの濡れた部分を拭いていた。


「うわっ、グロ」

「む、蟲の背中から茸が生えてます」

「か、カノン……貴女のそれって何時採取したんですか!? もしかして別のギフトも持っているんですか!?」

「魔法で異空間庫みたいのを造ってですね、そこに仕舞ってるのです」


 現物を見た二人の姉さんは渋い顔をしていた。ここで母さんに別のギフト、<ストレージ>を勘ぐられたが魔法で異空間庫を持っている事にして誤魔化した。ついでに魔法と弓の練習に樹海内で狩った獣の種類と数の事も話した。その話を聞いて家族は終始あきれた顔をしていた。そして、異空間庫ストレージはここに居る家族以外へは口外無用の秘密となった。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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