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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇三幕 塩買う者
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第〇二五話

 屋台村が並ぶ市場を歩いている。人々の往来激しく、売り子の威勢のいい声がいたる所で聞こえ、中々の活気を見せていた。


 近隣の農村から引いて来たであろう台車を、店頭の売り場台として活用しながら色々な野菜や狩りで手に入れたのか肉類が並べられ、それを手に取り吟味し値段交渉をする買い物客と、採れたて新鮮をアピールする売り子のやり取りもそこかしこで見える。


 私は目的の塩を捜し屋台村の通りに足を進める。途中、肉を焼く香ばしい匂いが漂ってきたので釣られる様にその場所へ向かい、お腹も空いていたので我慢出来ずに何本か串焼きを購入してしまった。その内の一本にかぶり付きながら、ついでに串肉を焼く店主に塩は何処で手に入るか訊ねてみた。


 そんな事も知らないのかい? みたいな顔をされながら、一般的に塩は市場等の個人では扱えず、国が直営販売している店舗か、商業ギルドに登録している専売的な店舗から購入出来ると話してくれた。お上とそれに準ずる組織が取り扱っている様だ。そういえば中世の時代は塩も戦略物資の一つになるんだっけ。


 最後に市場の向こう側で塩を扱っている店舗が有るからそこで買えばいいと教えてくれたので、私は店主にお礼を言って再び市場の通りを歩き始めた。


 食べ物ばかり扱っている店ばかりかと思っていたけれど、よくよく見ると衣類や小物、アクセサリー等、更には武器や防具なんかも扱っている店も散見された。なんとなく夏祭りとかの出店でみせっぽい雰囲気だなとを思ってしまった。


 気になる即席屋台の前で商品の物色して再び歩を進め、また気になる屋台を見つけては足を止めて物色する事を繰り返しながら少し時間を掛け市場の端まで歩いていく。屋台村の途切れた辺りにそれらしい店舗が在った。


 店舗前には荷台を引いた商隊の馬車っぽいのが幾つも並び、ガタイのいいおっちゃんや兄ちゃんが建物裏から運んできたで有ろう荷物をせっせと荷台に載せている。表の入り口には大きな背負い袋を担い、見るからに行商人っぽい人達が出入りしていた。


 串焼き屋台の店主が教えてくれた塩を扱っている店舗だと思われる。と言うか問屋っぽい。小売してくれるんだろうか?行商人っぽい人に紛れ店舗の中へと入り込む。店舗を見回すと棚が並べられ作業着や農具、日用雑貨品が幾つもの置かれていた。一通り廻り壁際まで進むとカウンターが在って、そこから店員らしきおっちゃんに声を掛けられた。


「やあ、嬢ちゃん。お父さんお母さんのお遣いかな? それとも何か探し物かい?」

「あ、あの、お塩欲しいんですが、小売ってしてますか?」

「おう、してるぜ。何が欲しい? 岩塩か、海水塩か?」

「一キロ欲しいですが、どっちの方が安いですかね?」

「そうだな、安いのは岩塩だな、キロ十五ダラー、海水塩だとキロ二十ダラーになるな」


 壁に立て掛けられている黒板、何度も消しては書かれた跡の在るやや白く霞んだ板を眺めながらそう言った。一キログラム当たり、海水精製塩は日本だと百円から二百円の間ぐらいの値段だった、かな。海水塩が昨日の宿代と同じくらいと考えると、こっちの世界では結構が張るのかもしれない。当然、私は安い岩塩の方をチョイスした。


 お金を渡すと「ちょいと待ってな」と言われ、店員らしきおっちゃんは壁に据えつけられた扉から奥の方へ消えていく。そして再びカウンターに戻ってくるとゴトリと巾着っぽい布に包まれた塊が置かれた。「コイツだ、確かめてみるかい?」と聞かれたので、縛っていた紐を緩め中を確認すると茶色っぽい石の塊がいくつかゴロゴロと入っていた。


 中に手を入れて指で触ってこすり取る。それを舐めてみると紛れも無く塩だった。ニコリと笑みを返すと店員のおっちゃんもニコリと笑って「毎度」と言葉を貰った。背負い袋に塩の入った巾着袋を入れて、既に次のお客さんの相手をしていた店員のおっちゃんにお礼を言って店を出る。


 建物の陰に隠れ岩塩の入った巾着袋を<ストレージ>に入れ直す。これで取り敢えず、当初の目的は達したので開拓村まで戻る事にした。「急げば夕方ぐらいには着くだろうか?」そう思いながら昨日通って来た道を戻った。


 街道、村と村の間は魔法で起こした風を背中に受け走って村の手前辺りで息を整えつつ歩きに代え通らせて貰う。いくつかの村を越えトドメキ村を過ぎた辺りで陽が地平に付き始めていた。


 トドメキ村を通り過ぎる際、出入り口の見張りをしていた兄ちゃん達に「今の時期、陽が沈むのが早い。夜の山道は危険だから村に泊まっていくか?」心配されたけれど「訳有って今日中に次の村まで着かないといけないので」と無理を言って通して貰った。心配そうな顔が印象的だったので、明日、またノーセロの街に向かう時に安心させようと思った。


 開拓村から流れる川と本流がぶつかる地点。東へ向かう橋は渡らず北に向かう道を曲がる。そこからラストスパートが如く風魔法を使って背中に追い風を生んで走ったけれど、開拓村の一番外れに在る畑近くまで辿り着いた辺りで陽は樹海覆う大地に沈み始め、周囲はたちまちその影が広がり薄暗くしていく。「ここからだと湖の秘密基地までは時間的にキツイな」なんて思っていると街道の横から不意に声を掛けられた。


「おいっ、お前こんな時間に何してる?!」

「……あ、あれ、アランさんとこの……か、カノンじゃないかっ!」

「えっ、あ、わ、私……ひっ」


 まずい、見つかってしまった。薄暗くて判りづらいけれど声からして村長さんトコの次男坊トマソと若い衆のまとめ役のロイド兄ちゃんだ。警戒しているのか農具を持っている。盗賊襲撃の時にみんな集められた広場で一緒に繋がれていた。その時に作り出した惨状とあの時自分に向けられた村の人達の恐怖した眼を思い出し、少し後退あとずさりしてし身構える。


「か、カノン、待てっ! 待ってくれ、取り敢えず俺達の話を聞いてくれ!!」

「そ、そうだ、それに今まで何処にいたんだよっ!? みんな心配してたんだぞっ!!」

「…………」

「おい、トマソ。カーヤさんを呼びに行け!」

「ああっ」


 トマソが走っていく。ロイド兄ちゃんは「ちちちっ」とか「ほぅら、怖くない、怖くない」とか言って警戒しながら私に手を差し出してくる。犬扱いかよ。と言うか、どっかで観た気がする。あれは、肩に乗ったキツネリスだったか……その指かじってやろうか。ってニヤリとしたらロイド兄ちゃんは思いっきり手を引いていた。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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