第〇二四話
私は騎士団に所属する女騎士に職務質問を受けている。私が顔を引き攣らせていると、緊張を解そうとして優しそうな笑顔を湛えて、一つ一つ質問をしてくる。何処の出身なのか? 名前は? 両親は居るのか? 何が目的でこの広場に居るのか? 等等。
名前の知らない辺境の村出身で、カノンという名前。片親しか居らず、姉が居る。ノーセロの街まで来たのは、冒険者ギルドに登録をして塩を買いに来たのが目的だと答えた。一応、先程手に入れた身元証明代わりの冒険者ギルドカードも見せた。
質問の最中にチラリと冒険者ギルドの方を見ると、後から出て来た同業の方々が私の方を指を差してなんか噂しているっぽいし、どんどん距離が離れていってる感じがする。
女騎士は私の答えを聞き顎に手を当て少し思案して「盗賊達に何か知っているのか面通しさせればいいか?」なんて恐ろしい言葉を呟く。犯罪者の目の前に連れて行くとか有り得ない。しかも、その所為で身バレしてしまう。そんな二重の絶望感が心から溢れ出し顔を歪ませてしまう。
「そうか、盗賊達が怖いのか。開拓村を襲って村人を殺めて娘達を襲った連中だ。怖くない筈はない、か?」
……あれ? 私の顔を見ていい方に勘違いしてくれた様だ。このまま上手く行けば適当な所で離脱出来……
「でも私が付いている。近くに他の騎士達も居るから怖い事なんて無いぞ。そうだね、やっぱり彼等に顔を確認して貰おうか。さぁ、こっちへおいで」
……ませんでしたー。……如何しよう、如何しよう? なんて、あれこれ思案している最中も、そんな事しても無意味だと言わんばかりに事態は着々と進行していく。私は女騎士に腕を引かれ、目の前の人垣は見えない壁で押し退けるが如く割れて通り道が作られていく。
私は成す術なく女騎士に依って盗賊達の前に連れて行かれた。恐慌を起こしていた盗賊達が私を見て大人しくなる。彼等とは約四、五日振りの再会である。女騎士がハスキーボイスで盗賊達に問い掛けた。
「先程、お前達はこのお嬢さんを見て騒ぎ出した様だが、何か心当たりでも有るのか?」
私は現状を作った彼等に対し、女騎士の後ろから「私の事をしゃべったら如何なるか判るよね?」っていう念を込めて暗く恨みがましい笑みを浮かべてみせた。
「…………っ!!」
「な、なんだ、似ているだけじゃないかっ、あの悪魔はこんなモンじゃないっ!!」
「俺は、何も知らないっ、何も見ていないし、何も言ってないっ!!」
「お、お前等、み、見ず知らずの、こ、こんな小娘連れてきて、俺達に、何するつも、つもりだーっ!!」
「ひぃっ、すみません、すみません、すみません」
盗賊達は再び声を荒げ叫び出し身振り手振りで取り乱す。中には謝る者までいる始末。そんな盗賊達を横目に女騎士も他の騎士達も如何していいか判らず私の方を見ている。周りの人達も興味津々で事の成り行きを見守っている。
しっかし、盗賊達の演技も酷いなぁ。私の送った思念は読み取ってくれた様だけれど、そんな反応や言い方じゃ私が限りなく黒に近い真っ黒じゃないか。……うん、黒だな。いっその事、黒の樹海の魔女でも名乗ってみるか。それは聞かれた時にしよう。なんとなく自称って痛そうな気がする。どんどん思考が逃避して行く。
折角、冒険者ギルド内で絡まれるイベントはやんわりと回避し出来たと思うけれど、外に出たら別方向からガッツリと絡まれイベントが発生した感じだ。いや、自分の好奇心で首を突っ込んだ結果、か。「好奇心、猫をも殺す」なんて言葉も有るくらいだから迂闊な行動は出来ないな。
私は女騎士に「もう行ってもいいですよね?」みたいな視線を向ける。もう少し詳しく問い質そうか、それともこのまま手を離して行かせようか、と言った感じの微妙な表情をしていた。隊長さんらしき人が近づいてきて女騎士に「今は盗賊達の護送で手一杯だから、その娘は行かせてやれ」みたいな事を言ってくれた。
女騎士は「隊長、いいんですか?」なんて顔をしていたけれど、再度「瞳の色も赤じゃなく黄金色してるし、似てるだけだろ。いいから行かせてやれ」と言って手で追い払うような仕草をした。ただ、無罪放免だと云った訳でもなく、隊長さんの鋭い視線は「あくまで今回だけだからな。何か有れば直ぐにお前さんの身柄を確保、拘束するぞ」って語っていた。私は執行猶予付きみたいなモンだと考える事にした。下手な事をしない様に気を付けよう。
そんな視線に思わず足の踵を付けて右手をこめかみの辺りに持っていく警察官や自衛隊みたいな敬礼をしてしまった。当然、隊長さんらしき人は顔にクエスチョンマークを浮かべていた。限りなく怪しいけれど隊長さんの鶴の一声で恩赦が出たので速攻でその場を離れる。
これ以上、変な事に巻き込まれないように今朝入ってきた城壁の門へ向かう。出入り口で例の好青年の兄さんが門番をしていたので冒険者カードを見せて報告した。
「色々有ったけれど、なんとか無事に冒険者ギルドに登録出来ました」
「そうかい、そいつはよかった」
「ホロホロ鳥を買い取ってくれたお陰です。有り難うございます」
「そうだ、今度から入城時に冒険者ギルドカードを提示すると特典で入城料金が只になるよ、ははは」
門番の好青年とそんなやり取りをして城外へと出る。
屋台村の市場に行って塩以外に何か目ぼしい物があるかウィンドウショッピングでもして必要なものが有ればその都度買い足そう。そう思い市場の方へ歩き出す。
明後日までノーセロの街に滞在してストレージから出せば良いかとも考えたけれど、買い物した後はやはり一旦、開拓村に、湖の畔の秘密基地に帰る事にした。
更新は気分的に、マイペースに、です。
我が妄想。……続きです。