第〇二二話
採取系の、しかもランクFにしては依頼料が高額。だけれど依頼票の色褪せた感じから誰も剥ぎ取った気配も無い。
こちらの世界で言う魔力茸は虫草、或いは冬虫夏草。虫や動物の死骸に生える茸の事。冬場から春に掛けて生物に寄生して宿主の活力を吸い取り、夏場に命が尽きた宿主の身体に自生すると言われる非常に珍しい薬剤の材料である。今の時期で探すと厳しいかもしれない。そこら辺が依頼の敬遠された理由だろうか?
実は以前、薬剤師の母さんの手伝いで一緒に樹海を探索していた時に偶々発見し採取した事が有る。そして、その後の樹海内ソロ探索で運よく、幾つかこれを見つけていて自分用にマジックポーション、魔力回復薬を作ろうかとストレージ内に確保していた。これは使えるんじゃないかと思い至った。
意識を戻すと、いまだ目の前で固まっている少年が居た。彼に対し、改めて一瞥をくれると言葉無く彼は腰を抜かしてその場に崩れた。近くに居た友人か仲間だと思われる少年少女が何事かと近づいてきた。うーん、状況から見るに私が悪く見えるから絡まれそうな気がする。
「おはよう、見ない顔だね。ウチの馬鹿が迷惑掛けてごめんね」
「お前、また新しい子にちょっかい出したんだろ、何やってんの?」
「こいつ、悪気が有った訳じゃないんだけど、可愛い子見ると何時もちょっかい掛けるんだ」
「ち、ちげーよっ! 新人にここのルールを教え様とだな……」
「……で、絡んでいったら返り討ちにされた、と。ホント何やってんの?」
「お前、何時もそんな事やってるから他の女子に嫌われんだよ」
「私等依頼決めたから行くわ。じゃあねー」
「ちょ、ちょっと、俺の話はまだ……」
「いい加減にしないと怒るよ」
「……はい」
絡まれなかった。むしろ少年の態度は何時の事らしい。仲間であろう少年少女達は和気藹々と私に絡んできた少年を窘めていた。直接関わってきた少年以外は、私の後ろに立った彼の死神の重圧感に気が付いていない様だった。
修羅場の経験が不足してるからなのか、依頼票を物色していたからなのか、ただ単に鈍感だからなのか、そして子供達は一通り騒いだ後、少年に対しみんなが文句を言いながら彼を囲う様にして依頼票片手に去っていた。ちなみに彼の死神は私が依頼票を剥ぎ取った時に消えている。
私も気を取り直して依頼票を持って受付カウンターの列に並ぶ。誰か最後尾の看板プリーズ! って、まだ言うかっ!! なんて一人ツッコミをして一人で寂しく並ぶ。なんとなく、さっきの死神の登場の影響で諸先輩方から少し間を取られ指差されているし、同じ歳ぐらいの少年少女達も何かを察したのか遠巻きに見ている感じがする。
「……なんだ、普通の小娘じゃん」はい、開拓村出身の普通の女子です。
「さっきのアレ、ホントにこいつだったのか?」それはたぶん死神の気配でしょう。私はしがない田舎者でスローライフを目指すただの女の子です。
「こいつなんかヤバクない?」えーっと、何がヤバイんでしょうか、それに付いて小一時間程お尋ねしたいですね、魔法使いっぽいお姉さん?……あ、目を逸らさないで。
「なかなかやりそうだな。年季明けなら俺らのパーティーに誘うんだが……」年季明けってのはニュアンス的に見習い的なランクF、EからDへの昇格していればって事かな? でもゴリマッチョなおっさんしか居ないパーティーは謹んでご遠慮致します。等等。
並んでいる最中にこちらをチラ見してそんな会話をする諸先輩方の声が聞こえているので心の中で返事を返した。そんな噂をしている諸先輩方に「陰口は当人のいない場所でお願いします」なんて気持ちを込めて愛想笑いを向けてみたら少し引いてた。中には「アレ? ちょっと可愛いかも……」なんて声も少し聞こえ若干自尊心が擽られ溜飲も下がった。
「あの子さっきの……、先輩方が遠巻きに噂してんだけど、あんた何か知ってる?」
「か、可愛い子だったから、気を、気を引こうとちょ、ちょっかい掛けたら睨まれただけだよっ。お、俺は何も知らない!」
「気に障る事でもしたんじゃねーの?」
「ホントだよ、何もしてないし知らないよ!!」
ちなみに先程の少年少女達も話しをしている様で声も大きいです。駄々漏れで聞こえてきます。……あぁ、この世界でもソロプレーヤー確定かな。ぼっちとも言う。……ショボーン。
自分の所為じゃないけれど、居た堪れない気持ちで「早く順番来ないかな」なんて思いながら列に並んで暫く経つけれどなかなか順番がこない。何をやっているのかと後ろから前の方を覗いてみると前の兄ちゃんが受付のお姉さんを口説いている感じだった。仕方がないのでここでちょっと覗き見を……あ、コイツ駄目だわ、根っからの女好きだ。
順番を早く譲る様に催促の心算で後ろから兄ちゃんの背中をポンポンと叩いたら、「ああん? ションベン臭さうな餓鬼に用は無いんだよっ!」とか、不機嫌そうな顔をしながら悪態を付いてきた。こうゆう時こそ「死神の先生やっちゃって下さい」張りで出現して恐怖のどん底に落として欲しいのだけれど、出て来ないんだよなぁ。彼の糸目の死神先生。
「食事処<東雲亭>看板娘のミケーヤさん。道具屋<懐古主義>店員のテリアさん。色街<陽娼館>キアラさん、セリアンさん。<三頭楼>メモ……もがっ!」
「ちょ、おまっ! ど、何処まで知ってるやがる!?」
突然口を塞がれ小声で問い詰めてくる兄ちゃん。鑑定で略歴に出た女性の名前をずらーっと読んだけど、本人の知らない隠し子までいるとか色んな所で種巻いてる碌な男じゃない。口を押さえているので目で笑ってみせる。
「……ぐっ、薄気味悪い餓鬼だぜ」
受付の姉さんを口説いていた兄ちゃんは捨て台詞を吐いて去っていった。そのうち誰かに後ろから刺されない事を祈る。
「カノンさん、ありがとう。どんな魔法を使ってくれたのかしら? あの人、最近しつこくて困っていたのよ」
口説かれていたのはさっきギルド登録で応対してくれた受付の姉さん。無料なのに百万ドルの笑顔もかくや、と言わんばかりの笑みを瞬間的に作り、依頼票を受け取り応対してくれた。プロって凄ぇ。
読んで頂き有り難うございます。
我が妄想。更新は気分的に、マイペースに、です。
構成を考えず直感で自己満足しながら楽しんで書いているので面白く読めるかは判りません。
120%の適当加減さ。中途半端な知識を妄想でブレンドして、勢いと雰囲気だけで誤魔化そうとしています。
読み手に対する時間泥棒な作文です。読み辛い部分が多々有ると思いますが、そこは平にご容赦を。