第〇一六話
綺麗に輝く満天の星空が覆う湖の畔。打ち寄せる波に合わせ焚き火の炎が一つ揺らめいている。傍には二つの影。私、カノンと死神のエンヤさん。彼女のお陰で沈んだ気持ちは幾分か持ち直し、三日ぶりの食事でお腹を満たしていた。
彼女の提案に乗り、明日は街のなんちゃらギルドへ向かってみよう。開拓村を抜ける際、遠目に様子などを確認して、騒ぎも起こしたくないのでみんなに見つからない様にこっそりと行こうと思っている。
提案に対するお礼を言うと、「上司に言われたので致し方が無く、しょうがなく貴女の面倒を見るだけですからね」と、つっけんどんな言葉を返してくれた。
アフターケアの件もそうだけれど、なんだかんだと言いながらエンヤさんは面倒見がいいと思う。実はツンデレなんじゃなかろうか?
「サボれる理由があるって最高っ!!」
……違った。私を出汁にサボる気満々だった模様。そうはさせじと、私はここでカードを切る! 人差し指と中指に名刺を挟みニヤリと不敵な笑みを浮かべエンヤさんに問いかける。
「何か有ったらこの名刺に念を込めて召還すればいいんですね」
「えっ? 名刺に召還機能なんて無いですよ。ポケベルの呼び出しみたいな感じですよ。ネトゲのフレンド登録ぐらいの繋がりしかないです」
「えっ?」
ポケベルの呼び出しって、ネトゲのフレンド登録って。いざって時に召還出来ないの? ……エンヤさんを呼び出して色々と厄介事を押し付けようと思っていたのに当てが外れてしまった。
「……この名刺って真名が刻まれた召還使役用アイテムじゃなかったの?」
「何言ってんですか。そんな事が出来るようになれば、私はエロ魔人のカノンさんに、イヤンな命令されて問答無用で好き勝手されちゃうじゃないですかー」
「しねーよ! やらねーよ! そもそも今の私の身体は女性体だし!!」
エンヤさんより胸も大きいし!! と、心の中で叫んでみた。言葉にすると大変面倒臭い事になりそうだと自制した。私、頑張った。
「世の中にはそう云った需要があるじゃないですか。謹慎中に暇潰しでこっそりコピーしておいた貴女のPC内にあった動画を拝見しましたが、幼い少女風なエロ動画、エロ画像の他に女性同士が絡んでるのも有りましたよね?」
「…………」
……おうっふぅ。頑張って自制した心の中の叫びにカウンターを入れてきた。なんて恐ろしい娘! つか、お前の方こそ何をコピーしてんだよ!? 問答無用警察かよっ!! エロ魔人呼ばわりとか酷過ぎじゃね? あー、もう、これ結構なダメージあるわぁ。……明日の朝早いし、気分転換にさっさと寝るか。
「なんか有ったら名刺に念を込めて連絡するので今日はもう寝ます。おやすみなさい、エンヤさん」
「……一応こっちでも様子見に来るから、その、なんか、ごめんなさい?」
「いや、疑問系で謝られても困りますんで、それに私の前世の業、自業自得なんで気にしないで下さい」
そうこれは自業自得なのだ。「気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだ」そう心に言い聞かせ、食べきれず残っていた手付かずの串焼きを回収してストレージに収納する。ちろちろと炎が揺れる焚き火を水魔法で消火して、エンヤさんを置いてトボトボとログハウスに戻る。後ろから声を掛けられた。
「……か、カノンさん、おやすみなさい。よい夢を」
やっちゃた感のある申し訳なさそうな声だった。後ろを振り向かずに右手を上げ左右に振って答える。こういったのは寝て気持ちにリセットを掛けるに限る。前世もそうだった。
さすがに今回の開拓村盗賊襲撃事件は何も出来ないまま身内の人死にも有って精神的に応えて逃避する様に三日間寝て過ごしていた。明日、開拓村に様子を見に行った際、父さんとアルタ兄さんの墓前に手を合わせに行こう。そう思って夜空を見上げると、星が一つ線を引いて流れた。
太陽がまだ顔を出していない早朝、払暁を迎えた湖は放射冷却の所為か、湖面に霧が立ち込め幻想的な光景を生み出していた。冷えた空気は幾分湿気がも高く肌寒い。顔を洗う為に手を突っ込んだ湖の水も冷たく眠気を覚ますには充分だった。
街へ出掛ける準備。弓を小脇に抱え、十数本の矢を入れた麻の背負い袋と以前暇潰しで作った草編みの籠を持って、秘密基地のログハウスの戸締りを済ませ、湖から開拓村まで流れる小川を辿り下流へ向かう。
途中途中で、黒の樹海に潜む獣を避けながら、所々に生えていたキノコや薬草類を採取しながら歩く。滝を降りる為のわき道に入り、崖を迂回して再び小川に出る。ここまで来たら風魔法で追い風を発生させ背に受けて川沿いを下り開拓村近くまで駆け抜ける。
黒の樹海の切れ間、四日ぶりになるだろうか、遠くに実家が目に入る。朝ご飯の準備をしているのか、家の竈の煙突から煙が見えた。そっと近づいて中を探ると三人の気配がした。母さんとカレン姉さん。それにリアン義姉さんか。新居の方だと落ち着かないのかもしれない。
後ろめたさもあって顔を出しづらい。草編みの籠に先程採取したキノコや薬草類、ホロホロ鳥を突っ込んで入り口の扉横に置いておく。なんかゴン狐っぽいし、籠の中も鍋物セットみたいになってるし、「か、カノンお前だったのか」なんて台詞が頭に過ぎって思わず苦笑いしてしまう。自己満足だけど、こうして置いとけば家の誰か気が付くだろう。
そっと実家を離れ、村の人に遭わない様に開拓村の外れにある共同墓地へ足を踏み入れる。真新しい木の杭で出来た墓が幾つも並んでいた。その中の二つ。父さんとアルタ兄さんのお墓を見つけ手を合わせ黙祷する。
共同墓地を抜けて村の外縁に沿って大きく迂回する。暫くすると白っぽい砂利が敷き詰められた街道に出た。エンヤさん曰く、道なりに進んで右に曲がればそのうちノーセロの街に出ると言っていた。この世界へ転生して初めて開拓村の外へ一歩踏み出す。では行ってみますか。
読んで頂き有り難うございます。
我が妄想。更新は気分的に、マイペースに、です。
構成を考えず直感で自己満足しながら楽しんで書いているので面白く読めるかは判りません。
120%の適当加減さ。中途半端な知識を妄想でブレンドして、勢いと雰囲気だけで誤魔化そうとしています。
読み手に対する時間泥棒な作文です。読み辛い部分が多々有ると思いますが、そこは平にご容赦を。