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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一一幕
132/132

第一三二話

 ざわっ……、ざわっ……。


 周りの冒険者達がザワ付き始める。


 そして、再び時は動き出す。や、実際は止まってないんですがね。衝撃の光景に空気が止まったと言いますか、なんと言うか。


 剛拳を振り下ろしたオーガは手応えに疑問を覚えたのか、傍から見た感じ頭に疑問符を浮かべながら己の手を色々な角度に変えて確認している。


 この状況を好機と見て軽歩兵隊も、一所懸命に手の確認をしているオーガの周りから、殴りかかられ呆然と立ち尽くしている軽歩兵を引っ張っりながら離脱を開始する。騎馬隊も状況を把握する為なのか、足を一旦止めて手に持った突撃槍ランスを点検しながら隊列を整え始めている。


 そう言えば、死者の近くに姿を現す死神が見えなかったのは、彼の命が奪われる事を見捨てられず助けられると、私の心情的を見越しての事なのか。……や、これは自意識過剰だな。


 取り敢えず、私自身ちょっとした閃きの思考から意識を戻して周りを確認する。オリガさんとクリスさんとイーサさんは何時も通りの呆れ顔で見てるし、サブのギルマスとトーメさんは目を見開いて私を凝視してるし、少し離れた場所で観戦していた冒険者達は、下でなにが起こったのかと若干困惑気味に騒いでいる。


「カノン。今のはお前だな?」

「この距離からの魔法の発現、か……凄まじいのひと言だな」

「そうですねぇ。本来は、ありえない距離ですねー」


 クリスさんとイーサさんはノーコメント。やっぱり魔法の発動距離として破格なのか。私の中に在る魔王級の魔力が成せる業か。


 さて、【アンチマジックシールド】を使って成功させた事で心に余裕が出来たお陰か、ちょっとした閃きが起こったのでオリガさんに話してみようか。一応、今までいいトコ見せてきた騎士団の面子メンツも考えての確認だ。


「オリガ様に、提案があるのですが」

「……どうした、またなにかやらかすつもりなのか?」


 んー、まぁ、上手くいけばやらかしになるのか、な。


「説明が面倒臭いの手始めにあのオーガを倒したいのですが宜しいですか」

「どうせまた土魔法の槍で串刺しするんじゃないの」

「……あれはあれでエグイかったのです」


 オリガさんが答える前にクリスさんが第五砦の事を思い出したのか串刺し発言をして、イーサさんはそのオーガを思い出しているのか顔を顰めている。


「オータム殿。今からカノンに騎士団の援護をさせたいのですが?」

「あ、ああ、どうせなら倒して欲しいのだが、貴殿のパーティの魔法使いのお手並みを拝見したい。騎士団にも伝令を飛ばす。おいっ、そこの……レぇーンチぃ、騎士団のトコまでひとっ走り行って来い!!」



 サブのギルマスにレンチと呼ばれた若い冒険者がひと言ふた言会話を交わして崖下の騎士団の所まで駆け下りていく。現状、リアルタイムで情報の伝達は出来ないから、事後報告の形になっちゃうんだけどね。


 己の拳を眺めているオーガの意識が回りに向く前にさっさと始めますか。と言う事で、前方に腕を伸ばして手の平をオーガに向けて、これから魔法を行使しますよって、それらしいポーズを取ってみる。


 まず、本当に行けるかお試しとして上オーガの片足、膝の裏に【アンチマジックシールド】を発生させる。次に座標をずらして膝カックンの要領でバランスを崩してその場に倒す。……よし、上手くいった。ここで広げていた手の平を握りって拳を作る。


 その周りでは急に訳も判らないまま背中から倒れこんだオーガに慌てふためく撤退途中の軽歩兵達の姿。まぁ、動きを止めて自分の拳を眺めていたオーガが急に倒れりゃびっくりするわな。なんて思考が脳の片隅をぎる。


 そして、倒れたオーガの全身を支える様に大き目の【アンチマジックシールド】を五枚の厚さで発生させて……。私は拳から人差し指と中指の二本指を突き出してを上に向けて勢いよく振り上げた。


「うおりゃーっ星になれーーーーっ!!」


 私の掛け声を共にオーガの巨体が宙に高く高く打ち上げられた。


 恐らく直前に居た軽歩兵達にはオーガの姿が突然消えたと錯覚したのだろう。何事が起きたのか判らないといった感じで、きょとんとした表情をしたままその場に固まっている。


 遠くで軽歩兵隊の離脱を眺めていた騎馬隊や、この場にいるサブのギルマスとトーメさんを始め冒険者の方々は、ぽかーんとした表情で空高く飛んでいくオーガを見上げている。


 横からは、オリガさんとクリスさんイーサさんの視線がジト目となって私に突き刺さってくる。ふへへ。


 それに気が付かない振りをして私は上に視線を向けた。


 上空にキラリと星が瞬いた訳ではないが、高度五百メートルぐらいまで持ち上げられた【アンチマジックシールド】が魔力行使の範囲外になったのか淡い粒子となって霧散して消えた。


 足場……オーガは仰向けになった状態だけれど、それが消えた所為で、その巨体が今度は重力に従って自由落下してくる。


「……弾ちゃーく、今ー」


 私の発した言葉と共に、ズドッパーンと大きな音を立てながら軽歩兵隊と騎馬隊の中間辺りに、オーガの巨体が地面をへこませて、僅かにクレータを作って墜落した。


 その身体の四肢が肉片となって周辺にバラバラに飛び散って、地面との衝突の激しさを物語っていた。大人しく地面に土の牙を生やして串刺しの方が良かったのか、思った以上にスプラッタな現場が出来上がった。出来上がってしまった。


 隣に居たクリスさんとイーサさんが、あとトーメさんや何人かの冒険者が茂みの影に駆け出してケロケロ戻していた。オリガさんに頭を小突かれる。……うん、ごめんて。


 そんな遣り取りをしていると、落ちてきたオーガに驚いて動きを止めていた騎士団の所へ、伝令に出ていた冒険者の若者が辿り着いて説明していた。なんか騎士団の偉そうな人に怒鳴られている。そっちはサブのギルマスにお任せしよう。


 ここまで来ると面倒事は確定なので、ついでにこのままオーガを打ち上げて掃討しようかね。


「オリガ様。このままだと日が暮れてしまいます。残りも全部ってしまっていいですか?」


 ニコリと笑ってオリガさんに尋ねる。彼女はサブのギルマスの方を見やる。あ、今サブのギルマスがビクッとした。顔も若干強張っているように見える。


「……オータム殿。ウチの魔法使いがこう言ってるのだが、許可は貰えるだろうか?」


 オリガさんの言葉にサブのギルマスは返事が出来ずただ頭を縦に振るだけだった。


「だ、そうだ。カノンお前の好きにしろ」

「イエス! アイ、マム!!」


 私はいい笑顔をしたまま、足のかかと同士を当ててカツンと音を鳴らして、右手の指をピンと伸ばした状態で額の横辺りへ持っていき、挙手注目の敬礼した。


我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

地味に覗きに来ている方がいる様で感謝致します。

更新は気分的に、マイペースに、です。

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