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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一一幕
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第一三〇話

 トーメさんの話し振りから絶賛彼氏募集中の気配はするけれど、中々お眼鏡に適う男性は居ないらしい。まぁ、その語尾を延ばす話し方や仕草から子供っぽいのだけれど、それを許容してくるれる素敵な出会いが有ると良いですね。ニッコリ。


「あー、天使ちゃん、今なんかな感じで笑ったねー、んもー」


 彼女は両腕組んで顔を横に向けて頬を膨らます。なんとも面倒臭そうな姉ちゃんだな。そう思っていると、


「……ねぇ、カノン。私達あっち行っていいなかな?」


 後ろに居たクリスさんが、こそこそと耳元で囁きながら石垣の方を指差して尋ねてくる。イーサさんも頷いている。トーメさんとの会話より、騎士団の戦いぶりが気になるらしい。自分も彼女をほっぽといてそっちに行きたい。


 ……とは言えない。現状でトーメさんにロックオンされているのは私なのだから。それに、どうせ高みの見物だから危険は無いだろうし、石垣も近場なので大丈夫だろう。なので、了承するする。そして、二人はいそいそと石垣に向かっていき崖下を眺め始めた。


 そんな二人を横目に私は頬を膨らませたトーメさんに改めて向き直る。彼女がこっちへ狙った様に来たって事は私に何か用件があるのだろう。


「トーメさんはここに何か用が有って来たんですか?」

「えーっと、おっぱいさんが来たんでー、もしかしたら天使ちゃんも居るかなーって。今度は逃がさない様に慌てて走ってきたのー。えーいっ!」


 そう言ったかと思うと、トーメさんは私にいきなり抱き付いてきて「あはぁー、かわいいー、癒されるー」なんて言葉を吐き出しながら頭をグリグリと撫で始めた。


 ギルド職員の制服越しから頬に当たる胸の微妙な柔らかさを感じながら、トーメさんは受付でよっぽどストレスでも溜めてるのだろうか? つか、おっぱいさんってなんだ? なんて思考が脳内に流れたが、役得なのでちょっとの間堪能する。


「あーんもー、ほんと流れの魔法使いじゃなかったらよかったのにー」


 トーメさんにハグされて気持ちが若干弛緩しかけた時、彼女からそんな言葉が漏れ聞こえた。魔法使いという単語。商隊キャラバンメンバーやあの宮廷魔術師以外で、何故、ここのギルド職員である彼女はその事を知っているのだろうか?


 私は思わず危機感を抱いて、身体を沈みこませ頭を撫でている手と撒きついている腕から逃れて距離を取った。トーメさんはやり場を失った手と腕を中途半端に広げたまま、きょとんとした顔をしてこちらを見ている。


「あっれー、如何して逃げるのかなー、天使ちゃん。……って、あーそっか」


 そして、何か思い至ったらしい。


「天使ちゃんってー、第五の砦でー、オーガを蹴散らした魔法使いなんだよねー」


 続けて語りだすトーメさんの言葉を聞くに、如何やら先行してここに撤収してきた地元冒険者達が、ここに出張ってきていたサブのギルマスに報告した様だ。


 曰く、おっぱいさんがリーダーの流れの四人パーティで参加。その中の金髪少女の魔法使いが、第五の砦で魔法の大岩落としでオーガを倒した事。しかもそれ以外に六体も倒している。それは、今まで成し遂げられなかった画期的な事らしい。


 ちなみにトーメさんは、サブのギルマスのお供でここまで来たとの事。


「……ちょっとした横槍が入った所為でサブのギルマスとここに出張る事になりましてー」


 ちょっとした横槍って……主に変なやる気を出して崖下で戦っている騎士団ぐらいしか思い浮かばないのだけれど。


「オーガの事は俺達が熟知している。帝国の助けなどいらん!!」

「帝国の精鋭に掛かればオーガ如き魔獣など恐れるに足らん!!」

「我が騎士団は最強だ!! 地元の地形も把握出来ていないよそ者なんぞ宛てにならん!!」

「我々は最新の武器を装備している!! 我々の手に掛かれば赤子を捻るようなもんだ!!」

「なにおー、もやしの分際でこしゃくなー」

「てめーら、やろうっていうのかーおらー」


 等等。どうやらオーガ討伐で、ペンタグリムの騎士団と宮廷魔術師の留守を預かっていた帝国正規兵が主導権争いをしていて、互いが互いの面子メンツで引けなくなった所に、ニッパーゴ村から伝令がやってきて主導権争いどころじゃなくなった帝国正規兵が一歩引いた形になったそうだ。


 ところが、ペンタグリムの住人を観衆を前にして、騎士団も強く出ていた手前引っ込みが付かなくなり、流れのままオーガ討伐をに対応する事になって第三砦まで出張ってきた。ただ、普段はペンタグリム周辺でおいしい所取りをしているので、こっそりとギルドの方へ助言を求めてきたらしい。


 ……おやおやおやまぁまぁまぁ。


「それで見た目素人っぽい受付窓口のお嬢さんがこんなとこまでお供ですか」

「天使ちゃん酷いー。こんなでも一応それなりに戦闘経験はあるんですよー」


 思わず口に出してしまったけれど、トーメさんは気にした風もなく、両腕をシュッシュと前後に繰り出して、格好よくファイティングポーズを取っていたのだけれど、腰に佩いた剣は飾りですか、そうですか。


 ……話を戻して、第五の砦から次々と撤収してくる冒険者達の中におっぱ……オリガさんを見つけて、彼女がサブのギルマスに状況報告と確認している隙にこちらまでやってきたのだそうだ。


「でもねー。オーガを倒せるほど強力な魔法って聞いて事がないんだよねー」


 えっ、そうなん!? ……嘘ぉっ!?


 トーメさんは続ける。魔法の威力は精々狩りに使える程度で、頑張ってゴブリンやグレイウルフを一撃倒せるぐらいで、大型の魔獣や野生動物に至ると魔法を何度も当てて削り倒すしかないのだとか。


 ただ、魔法を使えるギフト持ちも少ない為、数を揃えて押す事も出来ず、弓矢と同じ遠距離バックアップ要員として前衛のサポートに徹するそうだ。


 それでも魔法を使える特殊技能を持っている強みで色々なパーティから誘いが来るらしい。もしくは、どこぞの貴族領主に仕官していくそうだ。へー、そうだったのかー。


 ……って事は、ダーニッチ某の隊が使っていた魔杖って、簡易魔法使いの数を揃える為の武器だったんだろうな。


「だからー、魔法のギフトを持ってる人達ってー、ひと旗上げようってみんな領都とか大きい街に行っちゃうんだよねぇー。どうせ天使ちゃんもその口でしょー?」


 どうやらトーメさんの中で、私も都会に憧れている田舎育ちの魔法使いになってしまった様子。まぁ、オリガさんに誘われてシスイ侯爵の領都イヨムロに行くんですがね。……あながち間違いでもないか。


 魔法使いの存在は稀少で、恐らくマチルダ嬢は治療専門らしいけれど後天的なギフト持ちと思われるが、それ以外で魔法使いに会う事すらなかったので……ああ、宮廷魔術師達は除く、ね。どんなものか知らなかったけれど、これはいい情報を聞けたと思われる。


 結局、私が魔法使いって事は商隊メンバー以外のみんなに知られてしまったし。まぁ、でも、他にも魔法使いは存在している様だし、いい加減隠すのも億劫になってきてたから丁度いい頃合なのかね。


 ……一応、オリガさんに確認してみよう。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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