第一二九話
第三の石垣が在る崖下で、ペンタグリムの騎士団がオーガと対峙していた。その戦闘を横目に、私達は第三の石垣上へ向かった。
そこでは、この場所に割り当てられた地元冒険者達が、合間合間にバリスタで援護しながら、騎士団の戦いぶりを観戦していた。
時折上がる冒険者達の「いいぞ、騎士団もっとやれーっ!!」なんて歓声が聞こえてくる事から、如何やら騎士達は善戦している様子だ。
石垣上の広場に到着して直ぐ、オリガさんは現在の状況を聞く為、私とクリスさんとイーサさんをこの場に残して、現場責任者を探しに行った。
この場で待っている様にと言い付けられた私達だったが、先程から聞こえてきている冒険者達の歓声に惹かれる様にして石垣へ近付いて、彼等と一緒になって騎士団の戦いを観戦し始めた。
騎士団は崖下の手狭な空間で馬を巧みに操って、バリスタの矢弾を身体中に受けて緩慢な動きをしているオーガに対し、突撃槍を持った先鋒隊が左右に分かれて、すれ違いざま足元へ連続して刺突していく。
流石のオーガもこれまでに蓄積されたダメージが大きいらしく、それまで振り回していた得物を落として地面に両手を付けて跪く。そこへ後続の長剣隊が、狙い易くなった急所等を狙って斬り付け追撃を加えていた。
馬を駆った騎士達は、標的となったオーガへ幾度か吶喊を繰り返した。そして最後は軽歩兵と言うのだろうか、馬に乗っていない騎士達が倒れたオーガに群ってザックザクと止めを刺していた。
眼下で繰り広げられる戦いは、ペンタグリムの騎士団達による、「誰にも美味しいトコ取り騎士団なんて呼ばせない!!」そんな意思を感じさせられる、それでいて確実にオーガへダメージを与えて撃破する手堅い戦いが繰り返されていた。
騎士団は後続のオーガに狙いを定めて粛々と、それでいて勇猛果敢に吶喊していく。
現状、冒険者という体で引率しているオリガさんも騎士団所属らしいけれど、時と場合に由っては彼等と同じ様に戦う事になるんだよなぁ。
当然、オリガさんの従者であるクリスさんとイーサさんも。そんな思いを抱いて横で観戦している二人を見ると、無言のまま眼差しは真剣で、石垣の胸壁に置かれた手はギュッと握られていた。そこ等辺は二人共理解している様子だ。
「あーっ、天使ちゃーん!! ここに居たんだーっ!!」
……誰だ、後ろで場にそぐわない不穏当な叫び声を上げているヤツは!?
声のする方へ振り返ってみると、他の冒険者達を掻き分けて、冒険者ギルドの制服を着て、腰に剣を佩いた娘さんが、鬼気迫る笑顔で勢いよく走ってきた。
その姿に、振り向いたまま固まっている私の前で急停止をして、彼女はいい笑顔をしたまま、両手を掴んで握手をして激しく上下させる。
「天使ちゃんやっぱ居たんだぁ!! また会えて嬉しー!!」
天使ちゃんとか……ああ、そういえば先日冒険者ギルドを覗いた際、気配を消しながら依頼票をチラ見してさっさと出て来たけのだけれど、あの時私に気付いて叫んでいた受付嬢はこのお姉さんだったかぁ。
騎士団の雄姿を観戦していたクリスさんとイーサさんも突然の出来事にこちらを見ている。つか、周りの冒険者達も興味深々にこちらを窺っている。……なに、この凄く目立ってる感は。と、取り敢えず何か会話を……。
「えっ……と、どちら様で?」
「ああ、急にごめんねー。お姉さんはー、トーメって言ってギルドで受付やってるんだけどー、先日ギルドのロビーで天使ちゃん見たのよー。でも、ここ等辺で余り見かけない娘でしょー。しかも何もしないまま出て行っちゃったじゃない。もしかして近隣の集落から来た新規登録者で、ロビーの雰囲気が怖くって出て行っちゃったのかなーって……」
つか、ほぼ初対面に近いので何者かと尋ねてみたら、語尾延ばしまくりで自己紹介とギルドで私に目を付けた顛末を話し始める。少し落ち着け、私に名前を名乗らせろ。と思っていると、横から茶々が入ってきた。
「トーメさん酷いなぁ、俺たちゃーそんな強面かねぇ?」
「お前、その髭面じゃ山賊にしか見えないやなぁ」
「ああん。なに言ってる? そいつそんなナリでも家に帰れば綺麗な嫁さんと娘が居るんだぞ」
「そうだぞ。お前こそもーちょい身なりを整えて嫁さん貰う努力しろよ」
「そこの髭面よりマシだと思うんだがなぁ」
「俺から見ればどっちもどっちだよ。そこの髭みたくトーメさんに頼んで紹介して貰えばよー」
「よし、俺、今回のオーガの行進が終わったらトーメさんに素敵な嫁さん紹介して貰うんだ!!」
「おいおい、変に気合入り過ぎて死ぬなよー」
「そうだそうだ、俺達巻き込まんでくれなー、あははは」
周りに居た中肉中背で髭面の冒険者の一人が声を被せてきた。それに伴い似たような体格をしたパーティ仲間であろう数人の冒険者達が、下で頑張っている騎士団の活躍もそっち退けで、更にトーメさんや私達を置き去りに会話を始めた。その隙にトーメさんの腕を引っ張ってここから少し離れた場所へ移動し、改めて会話を再開する。
「改めまして、カノンです。後ろに居るのがクリスさんとイーサさんです」
私は自己紹介とクリスさんとイーサさんの紹介をした。それに伴い二人は軽く会釈をする。どうやら会話に参加する気は無い様だ。むしろ、騎士団の戦いが気になるのか、視線が石垣の方へチラリチラリと動いている。
「……んで、お見合いを斡旋する近所の小母ちゃんみたいな仕事をしているトーメさんが何の用でここに?」
「何気に天使ちゃんは失礼ですねー。私の仕事はギルドの受付嬢なんですー。しかもー、まだギリ十代でー、一番美味しい時期で食べ頃なんですよー? ギルド一の美人さんなんですよー、みんな見る目無いですよねー?」
プンスコと頬を膨らませるトーメさん。そんな同意を求められても困る。しかも、私が名乗ったにも関わらず天使ちゃんとか言ってくる辺り、彼女の中で既に、私はその認識で固定されてしまったとのだと思われる。
我が妄想……続き、でした。
読んで頂き有り難うございます。
更新は不定期でマイペースです。