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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一一幕
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第一二七話

 冬の期間、開拓村では積もった雪の所為で外作業は殆ど行えず、各家庭は家の中で出来る様々な内職をする。


 我が家も母さんが薬剤師と云う事で、仕事場である薬剤調合部屋で私もよく作業を手伝っていた。ちなみにカレン姉さんとリアン義姉さんは居間で内職の一つである衣類を繕っていた。


「ゲンキニナーレ、ゲンキニナーレ、アトオイシクナーレ、モエモエ、ズキューン」


 そんな言葉と共に母さんは、手の指を合わせる様にハートマークを作って、煎じている最中のポーションの元に向かってポーズを決めた。


 前世メイド喫茶で、御主人様の食事を美味しくする為の儀式的な調味魔法を参考にして、言葉にアレンジを加えポーズをやって見せて教えたのは確かに私なのだけれども、母さんには日本語を魔法の呪文と偽って教えているので、至って真面目な表情をしている。


 自分としては意味を知っているだけに、隣でその姿を見ていて結構クルものがある。もっと別の言葉とポーズにすれば良かったと地味に後悔をしている。


「……ねぇ、カノン。本当にこれで効果あるの?」


 やってみた母さんも、こんな事で本当にポーションの効能がアップするのかと、言葉やポーズに半信半疑といった感じでいぶかしんでいる。


 はたから見ていたら、指でかたどったハートの部分から薄っすらと魔力が放出され、少しずつポーションに馴染んでいって効能をアップした、様な気はする。


「うん、少し魔力が篭ったから効果は上がってる……筈」

「筈って。……後で検証しないと駄目ね。でも、魔力を込めると効能が上がるなんて、もっと早く知りたかったわぁ」


 この後の検証で、母さんが以前作っていた物より、若干品質が上がって効能も上がっていた。母さんはその結果を確認して「これからポーション作りが捗るわぁ」なんて言ってたっけ。


 さて、モノローグは終了。


 鍛冶屋の親父には、私が出し渋った所為もあって、特級ポーション三本を相場の二倍の値段で渡す事になった。


 特級ポーションを欲した理由はこの現場で怪我人が出た時の応急処置用として必要と判断したからで、お金は後で経費として騎士団に請求するのだとか。


 後ろに居た冒険者達が聞き耳を立てていた様子だったなので、欲しければノーセロ街に出回っているカーヤ印のポーションを買うといいって宣伝しておいた。


 そんな遣り取りをしている最中、オリガさん達は他の冒険者達と一緒に辺りの被害状況を確認していた。


「オーガが登ってくるぞ!!」


 その中にいた冒険者の一人がそれに気が付き声を上げる。


 オーガは傷付いたその身体で崖に手を掛け登り始めていた。目標に向かって前へ進む事しか頭に無い様だ。


 しかし、バリスタの設置された崖下は死角になっていて攻撃出来ない。ここで手の空いた冒険者達が、破壊された石垣の破片や内側に積み上げられたひと抱えも有る岩石を担ぎ上げて、崖下のオーガ目掛けて落とし始めた。


 オーガは、瓦礫や岩石が当たる度に低い唸り声を上げて一瞬動きを止める。でもそれだけで、そこから下へ押し戻せない。むしろ傷だらけの身体ではあるけれど、空いている方の腕で落下物を鬱陶しげにガードしながら、その強靭で頑強さという力技をもって徐々に崖の壁面を上り詰めて来る。


 冒険者達も並んで作業的に瓦礫や岩石を落としている。なんと言うか、前世記憶に漫画やアニメ、ラノベ等の創作物にある攻城戦染みてきた。内容は違うけれどゲームも在ったな。ビルを登ってる途中で鳥の糞や植木鉢、鉄アレイなんかが降ってくるヤツ。……鉄アレイ、なぁ。


「後続が来たぞ! バリスタはそいつ等をぶっ飛ばせっ!!」


 冒険者達が下に居るオーガの対応にかまけていると、指揮に戻った鍛冶屋の親父が叫んだ。それを合図に、木々の合間から現われたオーガに向かってバリスタの矢弾が射出される。


 石垣のある高台に居る全員が、オーガの対応に追われている。オリガさん達も瓦礫をお腹の辺りに抱えて冒険者の列の最後尾に並んで自分の順番を待っていた。こうなってくると、私だけのん気に観戦している訳にもいかない。


 周りを見回し誰もがオーガに集中しているのを確認して、剣鉈がそそり立っている場所を中心に散乱している瓦礫やなんかを<ストレージ>に入れていく。ついでに高台の外れにあるひと際大きな、大人が数人掛かりでロープや梃子の原理を使ってなんとか動かせそうな岩も回収して、なに食わぬ顔をしてオリガさんの後ろへと並んだ。


 オリガさんは、私が後ろに並んだ事に気が付いて声を掛けてくる。


「カノン。お前は瓦礫が重過ぎて運べ……ん、まさか魔法を使う気か?」


 流石オリガさん。私が何も持たないで並んだ意図を察したらしい。前に並んでいたクリスさんとイーサさんは「コイツ、また何かやるつもりか?」といったジト目でこちらを見てきた。


 まぁ、魔法と言うか<ストレージ>に入れた瓦礫類を落とすつもりなんだけれど、ここは土魔法って事にする。


「ええ、土魔法を使ってオーガに大量の瓦礫を降らせようかと」

「いいのか?」

「ここで出し惜しみしてたら余計な被害が増えそうですので」

「……そうか」


 オリガさんはそう答えると、列から離れ先頭に並んでいる冒険者達の所まで行ってなにやら声を掛けている。そして、一分もしない内に手招きされた。


「魔法使いが居るって?」

「なんだ、さっきのポーション娘か」

「本当にこの嬢ちゃんが?」

「ウチのパーティーの後衛だ。……カノンやってくれ」


 先頭にいる冒険者達の興味津々といった視線を浴びながら、そんな彼等に睨みを利かせたオリガさんと一緒にオーガが登ってきているであろう場所ポイントまで進んだ。金色の前髪が風に撫でられ横へ流れる。


 石垣に身を預け下を覗き込むと、岩場の出っ張りに手を掛けている登ってくるオーガの黒く濁った目と視線が合った。場所を確認した私は、正面に右手をかざして<ストレージ>から瓦礫を呼び出した。


「おおっ……」

「これが魔法か。凄いな」

「石がどんどん出てくるぞ」

「む、無詠唱、だと?」


 周囲の冒険者達の感嘆と感想を余所に、私は右手から次々と瓦礫が吐き出して、下のオーガ目掛けて落下させる。


 冒険者達の緩慢な瓦礫落としと違い、絶え間なく連続で落ちてくる瓦礫にオーガも流石に嫌になったのか、崖の壁面に張り付く様に身を寄せ動きを止めた。そこで落ちてくる瓦礫をやり過ごす魂胆らしい。


 ならばと瓦礫と一緒に回収していた剣鉈を取り出して落とす。流石のオーガも、鉄製の刃物を身体に受けて無事では済まないだろう。一応、風魔法で軌道修正掛けるつもりだし。


「ちょ、おまっ!?」


 横でオリガさんが草を生やしそうな奇声を上げた。……恐らく土魔法で生み出せそうにない剣鉈を見たからだろう。でも、これは土魔法括弧仮だから大丈夫。


 剣鉈は風魔法の影響を受けながら、オーガの頭部目掛け落下していく。しかし、それが当たる瞬間、オーガは身をよじって右腕を使い剣鉈を払い除けてガードした。


 頭部へのダメージは避けたものの、右腕はもう使い物にならないだろう。更にその反動でバランスを崩したらしく、辛うじて支えていた左手が離れて、張り付いていた崖の壁面から滑落した。


 私は好機と見て、追撃とばかりにひと際大きい岩を取り出して、瞬間、周りからどよめきが聞こえ、それを耳にしながらオーガ目掛けて落とした。ただの大岩だけれど、気分はメテオストライク。


 五メートルぐらいの灰色の巨体が地響きを上げて崖下へ落着したのに続いて、大岩がオーガの上半身付近に覆い被さる様に落下した。直後、轟音と共に土煙が激しく巻き上げられ周辺の視界を遮る。


 冒険者達は石垣に身を乗せ下を覗き込んだまま無言。鍛冶屋の親父やバリスタを操作していた冒険者達も手を止めて崖下を見ている。その崖下に現われた後続のオーガ達も動きを止めている。


 辺りは静寂に包まれ、時間が止まった様な錯覚を起こさせる。


「……や「言うなぁ!!」っ!?」


 今絶対にオリガさんは「やったか?」って言うつもりだったろう。それ敵や攻撃対象が無傷か多少のダメージを負うも健在で、結果的に倒す事が出来なくて無意味に終わるフラグだから、その言葉を口にしちゃ駄目!!


 私の唐突な叫び声に、若干顔を強張らせていたオリガさんは、直ぐに気を取り直したのか、表情をふっと緩めて私の肩に手を添えて、改めて言葉を口にした。あ、二度目があるとか想定外。


「やったなカノン」


 ……なんてこったい。オリガさんが言おうとしていたのは、倒した事を疑問視する方じゃなくて肯定する方だった。


「……ん、そんな顔して如何した?」


 うぅ、恥かしい。如何やら「やったか!?」フラグに気を取られ過ぎた私の早とちりだった模様。


「それよりな、カノン。後で落ち着いたら話を聞かせて貰いたいんだが?」

「えーっと……何の事でしょうか?」


 思い当たる事が有り過ぎて黙秘を行使したいのだけれど、肩に置かれた手に力が込められた。い、痛い。また取調室で喉元に剣を突きつけられる予感しかない。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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