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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一一幕
126/132

第一二六話

「斉射よーい! ぇっ!!」


 ダスンッ! ダスンッ! ダスンッ!


 そんな音と共にバリスタから次々と矢弾が一斉投射される。目標は眼下を歩いている灰色の巨人オーガ。


「次弾装填! ほらそこっ、キリキリ弦を巻き上げろ!!」


 鍛冶屋の親父連中の声が響き渡り、その声に従ってバリスタを操作する冒険者。今のところオーガに対して危なげなく、倒し切れてはいないけれど、それなりに一方的なダメージを与えている様子。


 私とオリガさんは休憩所でクリスさんとイーサさんと合流した後、他の休んでいた冒険者達と一緒に再び砦の石垣が組まれた一番高い場所へ戻ってきた。現在はバリスタによる攻撃を観戦している。


 矢弾となった槍を身体中に生やし、至る所から出血をしながらもオーガは活動を続けている。その瞳は槍の射出点であるこちらを睨み付け、辺りの空気を振動させる程の大きな咆哮を上げていた。


 そばにいるクリスさんとイーサさんはそれを目の当たりにして恐怖の為か身体を縮ませている。その姿はなんとも歳相応の女の子っぽい。


 そんな彼女達を横目に、私は「このままバリスタの攻撃だけで終ってくれれば良いなぁ」なんてのん気に考えていたのだけれど、そうは問屋も卸してくれず、オーガ自身唯一の武器である手に持った出刃包丁みたいな剣鉈をこちらへ向けて投擲してきた。


 質量を持った鉄塊が唸りを上げて高速回転をしながらバリスタが並んでいる石垣に向かって飛んでくる。かさず、現場指揮を執っている鍛冶屋の親父が大声を張り上げた。


「そこから離れろっ!! 退避っ、退避ーっ!!」


 それを聞いて、観戦していた私達と冒険者達は石垣から一目散にその場から離れる。観戦者の一部とバリスタを操作していた者達は、そこへ留まり石垣の影に身を潜め隠れた。


「っ!? 三人共伏せるんだ!!」


 オリガさんの声に私とクリスさんは反射的に、他の冒険者も何人か、地面へ伏せた。ただ、イーサさんが少し戸惑ったらしく、オリガさんにかかえられる様にして地面へ伏せた。


 少し遅れて激しい破壊音と共に石垣と近くに有ったバリスタが瓦礫となって弾け飛ぶ。その衝撃は凄まじく、地面に伏せず前方を走っていた何人かが石垣の瓦礫を背中に受けて転倒していた。


 私はその場に伏せたままで石垣付近を見ると、石垣の影に隠れた者達を巻き込んで、辺り一面が爆発したかの様に崩壊していた。私達はオリガさんの機転のお陰で、その破壊をなんとかやり過ごす事が出来た。


「……みんな無事か、怪我はしてないな?」


 ゆっくりとオリガさんは身体を起こして、辺りを確認しながらみんなに声を掛ける。


「私は、大丈夫……です」

「……お陰様でなんとか無事です」

「…………」


 クリスさんは頭を抱えながら地面に伏せて大丈夫宣言している。私も何処も怪我せず無事だ。しかし、イーサさんの反応が無い。そう思って先程の光景を思い出してオリガさんの方に目を向ける。


 イーサさんは起き上がったオリガさんの腰に抱き付いたまま、この緊迫した場にそぐわないKY(空気読めない)な顔をしていた。KY(危険予知)すら出来そうにない至福の顔と言い変えるべきか。ちなみにオリガさんは一所懸命引き剥がそうとしている。


 私は何も見なかった。そう心に言い聞かせ、クリスさんと共に他に怪我人がいないか見て回る事にした。


 まず、前方を走っていた冒険者達。瓦礫の破片を背に受けバランスを崩して転倒したとか、運良く当たり所が防具の上でちょっとした打撲で済んだとか、そんな感じで大した怪我は負っていなかった。唾でも付けとけば治るだろう。


 そして、石垣付近は酷い有様だった。一人は石垣の瓦礫に押し潰され足を骨折している。一人は右腕にバリスタの破片が突き刺さり貫通している。二人は見るからに重症だ。他にも数名が呻き声を上げて倒れている。着弾地点には出刃包……剣鉈が己の戦果を誇示するかの様に、そそり立ち突き刺さっていた。


 私の持っているポーションで骨折は治せない。素人に出来るのは精々患部に添え木を当てて固定するだけで、それだって正しい位置に骨接ぎしてからの方がいい。早目に専門医が居るであろうペンタグリムへ後送するしかない。


 ……そういえば、マチルダ嬢の治療魔法って、打撲や切り傷に対応していたようだけれど、骨折に対応しているんだろうか?


 まぁ、それは置いて、骨折の彼はクリスさんに任せて、右腕をバリスタの破片が貫通している冒険者の所に行く。


 冒険者に声を掛けると青い表情をしながらもしっかりと返事をしてくれた。患部を診ると、矢と破片の違いではあるけれど、昨日の私の状況と似ている。幸い、破片は骨を避けて貫通しているので、それを抜いてポーションで治療する事を伝える。


 流石に青かった表情が更に白くなって強張っていたけれど、有無を言わせず、その顔に……と言うか口に木の切れ端を噛ませる。腰に巻いたベルトを借りて、これ以上の出血を抑える為、右腕の根元をしっかりと縛った。


 破片の抜き方を考えて、抜く方とは逆の出っ張った部分を風魔法で挟む様に切断する。その震動が傷口に響いたのか木の切れ端の隙間から空気が抜ける様な「ふぐうっ」なんて悲鳴が上がった。


だろ、ちょっとやそっとの痛みぐらい我慢しろ!!」


 言葉の勢いに任せ、同時に右腕に突き刺さっている破片を抜く。その瞬間、冒険者は目を大きく見開き涙を流しながら、噛んだ木の切れ端の所為もあってか悲鳴にならない悲鳴を上げる。右腕の根元をベルトで縛っていたので出血は少なかった。


 そのまま、問答無用で水魔法で傷口を洗い流し、<ストレージ>からこっそりと取り出した特製ポーションを患部へ振り掛けた。傷口を細かい気泡が覆って、シュワシュワと音を立てながら、逆再生のスローモーション映像が如く、怪我をした部分を修復していく。そして、五分もすると右腕の傷は怪我をした部分が判らなくなるぐらい再生出来た。


 取り敢えず、この冒険者はこれで大丈夫か。他に治療の必要な……あれ、なんか周りのみんなが注目してるんだけれど。


「うわぁ、カノンのポーション凄「オイ、嬢ちゃん! そのポーション他にも持ってないか? 俺に売ってくれ!!」」

「特級ポーションだろ、何処で手に入れた!?」

「最近市場に出回ってないから諦めてたんだ。何処で買った?」

「俺、オーガの行軍が終わったら買いに行くんだぁ」


 おい、最後。変なフラグ立てるな!! つか、担架を持っているクリスさんの声を掻き消す様にして周りの冒険者達が私のポーションをめぐって騒ぎだした。……煩いなぁ、これは私の自給自足な非売品だよ、非売品。


「お前等黙れ!! 今はポーションより怪我人の介護と目の前のオーガに集中しろ!!」


 離れた場所で指揮を執っていた鍛冶屋の親父がこちらへ向かって一喝した。彼は他の冒険者達と無事だったバリスタを使ってオーガに対して反撃をしていた。鍛冶屋の親父さんナイス!! 今はポーションどころじゃないですよね。


 私の周りでポーションを欲していた冒険者達が、渋々ながら自分のやるべき仕事へ戻っていった。鍛冶屋の親父が「ったくよぅ」なんて言いながら入れ替わる様に近付いてくる。


「オイ、小娘。幾つポーションを用立てられる? 場合に因っちゃ相場値以上で買い取るぞ?」


 ……鍛冶屋の親父よ、お前もか。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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