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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一一幕
124/132

第一二四話

 私は、オリガさんの駆る馬に相乗りして魔法を放ちながら、後頭部に彼女のふくよかな胸クッションが感じられる至福の時間を得られると夢想していた。


 しかし現実は、ペンタグリム近くの森の中と言う場所柄、馬の走りやすい場所も無く機動力を生かせないので、徒歩で移動する事になった。そのお陰で、イーサさんの私に対する嫉妬心がおさまっていたのでヨシとするか。


 そして、奥から這い出てくる野生動物や魔獣をオリガさんを始めクリスさん、イーサさんの三人で見敵必殺サーチアンドデストロイして片っ端から倒していく流れになっている。


 隊列は先頭をオリガさんが進んで、続いてクリスさんとイーサさん。


「クリス、イーサ側面からゴブリン二!!」

「イーサ、左お願い!!」

「はい、ですの!!」


 朝から何度目かの会敵。森の奥から飛び出してきた五体のゴブリンの内、二体をクリスさんとイーサさんに任せて、残り三体をオリガさんが対応している。ちなみに私は後衛を勤めている。


 オリガさん曰く、クリスさんとイーサさんに魔獣を相手取った歩兵戦闘の経験を積ませたいらしい。二人が危なくなったら後ろから手助けして欲しいと言われている。


 確か去年、ウチの開拓村裏手に在る黒の樹海で訓練と称してホーンラビットを狩っていたけれど、内容的にはボーイスカウトに毛が生えた感じのレクリエーションだったからね。それに先日のマスロープ村の一件で、馬上で疲労困憊になりながらゴブリンと戦った経験もあってなのか、二人共中々に落ち着きながら剣を振るっている。


「やあっ!!」

「せいっやぁ!! あ、……!?」

「イーサ!!」


 クリスさんは上手くゴブリンの急所を捉えて倒したけれど、イーサさんの方は残念ながら一撃で仕留められなかった模様。傷を負いながら反撃を試みるゴブリン。クリスさんがフォローに入ろうとするが一歩間に合わない。


 私は空かさず、ゴブリンの足元へ土魔法を発動させ、小さな窪みを造ってバランスを崩させた。その一瞬でクリスさんが間に合ってゴブリンに止めを刺した。


「イーサ大丈夫?」

「く、クリスありがとなのです!」


 二人は声を掛け合って、直ぐに辺りを警戒しながら状況を確認していた。そして今、オリガさんは危なげなく最後の一体を倒したところだった。これで、今回の戦闘は終了。非常時に付き、魔石回収は無し。倒した獲物も放置でオーガの脅威が去った後で、目に付いた物は燃やしたり埋めたりして処理する、らしい。


「……ふぅ。二人共よくやった。先に進むぞ」


 再びオリガさんを先頭に、次の獲物を求めて森の中を下草掻き分け、所々にある残雪を避けながら歩き始める。その背中を眺めるクリスさんとイーサさんの瞳は少女漫画のキャラクターの様に目一杯星を湛え、憧憬を伴ってキラキラと輝かせていた。


 こんな感じで、私の出番は殆ど無い状態だ。余裕があるのでつい朝食時に聞かされた話を思い出してしまう。


 ペンタグリムと要所に配備されているバリスタは対オーガ専用武器で、大きな横置きの弓……機械弓クロスボウみたいな感じのヤツだ。当然、矢弾も兵士が持つ槍並みに大きく威力もある。オーガの侵攻ルートはその巨体から移動する場所がほぼ決まっているそうで、要所を押さえてキルゾーンを設置しているのだとか。


 私達の今回の仕事は、オーガに因って森から押し出された野生動物や魔獣が、バリスタの設置場所へ近付いたり破壊しないように、冒険者達が付近を索敵して駆逐する。所謂いわゆる、露払いみたいなモノらしい。


 ちなみに、昨晩遅く……私がニッパーゴへ様子を見に出た後、ペンタグリムの屯所から、地元の騎士達と<赤服>の主導権争いは別にして、ザキセルオンとシューロクロスへ援軍要請の伝令を走らせているそうだ。


 あと、明け方近くにニッパーゴ村の住人が避難してきたそうだ。やはりと言うか、途中で魔獣に出くわしたらしく戦闘になったのだとか。数人の怪我人が出たけれど、持参したポーションで治療済みとの事。


 諸々の情報は、私が戻ってきた時に出払っていた商隊キャラバンのお偉方が屯所や冒険者ギルド、街の商人達の下へ出向いて仕入れたモノで、オリガさんとサツキさんが私の持ち帰った情報を纏めて、椅子に座って仮眠していたところに帰ってきたんだと。


 自分達の情報とオリガさん達の情報を元に話し合い、ペンタグリム防衛戦に参加を決めて、彼等は午前中を使って仮眠してオーガの到着に備えるのだそうだ。<明星一番>はリーダー抜きで活動。私達と同じく森に入って露払いをしている、と思われる。そして、偉い人達の代わりに今度はサツキさんが、屯所と冒険者ギルドへ情報交換の為に行ったとさ。


 なお、<赤服>の動向とエルフの話、魔杖の話は、直近で必要ない情報だからなのか、朝食時の話題に上らなかった。等と、思い巡らせていると、私の<気配察知>に今度は野生動物の反応が引っ掛かった。これは……流石に群れるのが好きな動物だ。


「オリガ様、グレイウルフ、数……十七!!」

「ああ、察知した! クリス、イーサ! 自分の身を守る事だけを考えろ!!」

「えっ、あ、はい!!」

「は、はいなのです!!」


 ただ、数が多い。オリガさんも気配を察知したのか二人に防御に徹しろと声を掛けて臨戦態勢に入った。しかも魔獣のゴブリンより強い野生動物のグレイウルフ。オリガさん一人で受け持つにしては荷が勝ち過ぎる。……如何動く?


「カノン、幾らか減らせるか!?」

「オリガ様の剣の一振りで半分以上は行けます!!」

「おい、やめろ!!」

「今ですオリガ様!! 横薙ぎに剣を振ってください!!」


 私に振ってきたので、当然の様に彼女の持つ剣を振るうように返事をして、<気配察知>で補足済みの、森の奥からやってくるグレイウルフの先頭集団目掛けて、風魔法の<ウィンドカッター>を発動させた。オリガさんの振るう擬似魔法剣。マスロープ村の再現である。ふはははっ。


 風の刃は、先陣を切って走ってきたグレイウルフを上下に両断したのを皮切りに、風魔法の効果範囲を扇上に横へ広げながら後続のグレイウルフを巻き込んで、その命を狩っていった。


 残念ながら、最後方からやってきた群れのボスらしき、他のよりひと回り大き目の体躯をした灰色の狼……恐らく群れのボスとそのお供らしい数匹は無事だった様子。その場に足を止めて唸り声を上げながら警戒する様にこちらを睨んでいる。


 しかし、なんと言う事でしょう。私の期待虚しく、オリガさんは剣を振ってくれず、臨戦態勢で中段に構えたままこちらをじっと見ていた。


「ここには私達しか居ないんだし、カノンが魔法を使える事を隠す必要は無い、だろう?」

「……まぁ、そうなんですが。なんと言うか様式美? みたいなのを求めてみたんですよ」

「それにしては凄く不服そうな表情をしているんだが?」

「オリガ様の気のせいですよー」


 クリスさんとイーサさんも、グレイウルフ惨状を目の当たりにして、ゆっくりとぎこちなくこちらへ振り向いてくる。


 この場に居る者全ての視線を浴びながら、私は残った群れのボス狼とお供の狼に目を向けて、八つ当たり気味に土魔法を発動させた。


 狼達は、魔素の気配を感じたのか、警戒の為に体勢を低くしたけれど、ソレは悪手だった。私の狙い通り、地面から土で出来た牙が垂直に生えて、狼達の下腹部へ突き刺さる。


 地面から足が離れて身体が持ち上げられ、ある瞬間、下腹部を貫通して背中へ突き抜け串刺し状態になった。暫く悲鳴の様な呻き声を上げながら四つ足をバタつかせもがいていたけれど、徐々に動きは鈍くなり、最後は痙攣を起こして息絶えた。


「か、カノンの魔法は相変わらず凄いな……」

「あ、あんなに居た狼が一瞬で……」

「エグイ魔法……怖いのです」


 そんな狼達の死屍累々な惨状を見て三人が言葉を漏らしていた。


 つい、カッとなってやってしまったけれど、後悔はしていない。ただし、八つ当たりは短慮過ぎると反省だけはしておく。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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