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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
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第一二一話

 ダーニッチ某と<赤服>……帝国正規軍とオーガの戦闘の一部始終を観戦した場所から少し先に行った所。エルフの朽ちた祠跡の上空付近。


 あわよくばゲーノイエ伯爵長男のレイモンドとその一行がここに居ればいいなと言う淡い期待を元に来てはみたけれど……。


 隘路に黒々と広がる森の中に一本だけ頭どころか胴体まで曝け出すぐらいに飛び出した巨木。


 森の上空を夜光虫の如く薄く光る魔素が漂っていて、遠くからはそれが観光地のランドマークを、根元の残雪がレフ板代わりに、下から照らして闇の世界にほんのりとその姿を浮かび上がらせていた。その幻想的な光景に心惹かれながら、巨木の直上を旋回する。


 よくよく観察してみると、その巨木の足元になっている岩場の下辺り、魔素の濃さと残雪の相乗効果も有ってか他の場所より明るくなっている。そして、魔素はそこから止め処なく湧き出していて、陽炎の様にゆらゆらと空へ立ち上って森に拡散していた。


 その一部は巨木の幹へ馴染む様に染み込んでいる。きっと魔素を摂り入れて他の木よりも大きく育ったのだろうと想像する。私は油断してしばしその光景に魅入っていた。


 ヒュン……。


「!?」


 その音で意識が現実へと引き戻される。慌てて辺りを見回すも、星空と薄っすら漂い揺らめく魔素以外は夜の闇が覆っていて何も見えない。私は危機感を抱き最大限に警戒して索敵……。


 シュッ。


 今度は風を切る音が耳元を通り過ぎていった。聞き慣れた矢の風切り音。徐々に狙いを修正してい……。


 ……ボスッ。


「……ぐっ!?」


 ……いってぇーっ!! 痛い痛い痛い!! つか熱い熱い熱い!! 矢刺さった、外套越しに矢が刺さった!! 左腕に刺さった!! いってぇーっ!! いてーよっ、もう、なんだよちくしょー!! なんなんだよ! なんだよこれっ!? ……くそっ、何処から、何処から飛んできた!?


 大慌てで足場にしている<アンチマジックシールド>を乱数回避させて更に高空へと退避する。左腕に痛みの他に痺れを感じた。致死性の毒……じゃなく麻痺毒、か? <ストレージ>からハンドタオルを取り出して左腕の根元部分を右手と口を使ってきつく縛る。


 そして、矢を抜いて刺さった部分を、袖を捲くり上げむき出しにして、傷口から毒を吸い出す。……あぁ、虫歯がなくてよかった。


 それを何度か繰り返し、最後は傷口にポーションを掛けて治した。一応、これで暫くは大丈夫な筈。ただ、ここまでしても完全に毒は抜けていない。矢の当たった左腕から先がまだ痺れている。毒関係は対応している解毒剤を服用してから、大量の水を飲んで毒素を尿として出さないと、一晩は安静にしていないと駄目だ。最悪、一日中安静になる。


「……致死性の毒じゃなくて良かった。と言うべきか」


 その間も絶え間なく、普通の矢は届かない高空だと言うのに、易々と近接してくる。射ってくる矢を注視してみると、僅かに魔素の光を引きながら直線的に飛んでいるので簡単に回避は出来ている。……魔法で、誘導されている様子はないけれど、ブーストが掛けられているっぽい。


 何度か飛んでくる矢を観察して、射出元に視線を這わせる。巨木の根元に人影が見えた。期待していたレイモンド一行の姿ではなく、代わりに知らない女性が居たのでござる。


 私の推察からはっきり申し上げると、特徴的な長く尖った耳のメリハリの少ないスレンダーなボディをした、森の妖精エルフさん。衣類の上から胸当てや肘当てなどの急所を守る軽装を身に付け、森の中で活動し易そうな格好をしている。


 頭部に付けた羽っぽい髪飾りと一緒にセミロングの金髪がなびかせながら、その姿を堂々と晒け出して、弓に矢をつがい構えながら、こちらを睨んでらっしゃる。現状で敵と見ていいのか。


 物理攻撃には<アンチマジックシールド>は用を成さない。左腕に痺れな無ければ応戦したモノを……魔法で反撃……あっ、折角だからアレを使ってみる? この魔道具がどのくらいの射程と威力を持っているかお試しだ。駄目なら駄目でさっさと逃げる。


 そう思ってさっき拾って<ストレージ>に突っ込んでいた、<赤服>が使っていた魔杖を一本取り出した。片手で扱うに少し重いか……祭りの射的の屋台で使った空気銃みたく構えて、一発くらいならなんとかなるか、な。


 気持ち的に鹵獲を優先したからよくその形状を見ていなかったけれど、なんと言うか、木製で真っ直ぐな刃渡りで凄く長い鉈……みたいな形をしている。持ち手根元辺りに人差し指を入れるのであろう引き金の付いた丸い穴が空いている。


 その近くには丸い赤珠と黒珠が嵌っていた。……商隊キャラバンのサツキさんにチラっと見せて貰った魔石と同じ感じのヤツだ。赤は魔素が感じられるけれど、黒は何も感じないので色で使用前と使用後みたく残弾数が判る様になっているのだろうか。三つほど赤い。


 こうしている間にもエルフの娘さんから何度も矢を射られている。魔杖も重いからさっさとお試ししてみよう。空中を乱数移動しながら、射的の屋台で景品を狙う様に、巨木の根元に居るエルフへ狙いを付けて、魔杖を構える。


 シュッ……。


 近距離を矢が飛んでいった。巨木の目元に居るエルフへ狙いを定める為に乱数回避が甘くなった。けれど、次が来る前にこちらが撃つ。ぶっちゃけ魔杖が重い。


 魔杖の引き金を絞ると杖先に魔法陣が展開した。その中心部より十センチ……ソフトボール大の炎が生み出されて、次の瞬間、それが彼女へ向けて撃ち出された。


 ……うわぁ、目に見えて弾速が遅い。野球のピッチャーが投球したぐらいの、その気であれば簡単に避けられるスピードだ。しかも五十メートルを越えた辺りで炎がしぼみ始めた。着弾しても大した威力は発揮しないだろう。まだ自分の魔法で撃った<ファイアボール>の方が速さ、距離、威力共にマシだと思える。


 ただ、エルフも初見なのか慌てて回避行動、巨木の陰に隠れた。そして大した威力も発揮しないまま着弾ナウ。


 ダーニッチ某の使っていた魔杖とはまた違う、劣化版みたいな感じだけれど戦列歩兵が隊列を作って中距離を数で攻撃する分には威力を発揮するかもしれないな。次を警戒しているのかエルフは巨木の影に隠れたまま出て来そうにない。


 帝国正規軍の戦闘と予想外の、オーガの他にエルフの登場と敵対行動。鹵獲品の魔杖も試射出来た。残念ながらゲーノイエ伯爵の長男レイモンドとその一行は発見出来なかったけれど、それなりの情報も得られたと思う。左腕の痺れを治療したいからとっととこの場から撤収するか。


 そう考えて私は今のうちにペンタグリムへ戻る事にした。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

今年最後の投稿。こんな有様ですが来年も宜しくお願いします。

更新は不定期でマイペースです。

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