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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
120/132

第一二〇話

 ニッパーゴ村より更に東側に在る森の中。殆ど役立ってない松明の薄明かりの元、歩きにくいフィールドで帝国正規軍の<赤服>と獣人達はよく動いている。


 異世界モノの定番ならここ等辺でオーガじゃなくてくっころ女騎士も交えてのオークの集団、かな。もしくは逆に幾つも上のランクなワイバーンとかドラゴンとかと死闘する燃える展開になったりすると思うんだけれど、その点オーガって中途半端だと思うのは自分の偏見だろうか。


 帝国正規軍とオーガの戦闘を見下ろしながらそんな事を考えていると、そんな私の心のつぶやきが聞こえたのか怒りを顕わにしたオーガの雄叫びが辺りにこだました。


「おぉぉぉおぉおぉおぉおぉおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「がああぁぁあぁあぁぁぁぁあああっぁぁあぁぁぁ!!!」


 どうやら私の心の呟きに反応した訳ではなく、どうにかこうにか一体のオーガを倒した<赤服>の部隊に向かって、新たに後方から出現した二体のオーガが、自己主張の激しい雄叫びを上げながら襲い掛かっていた。


 <赤服>と獣人達の戦列が吹き飛ばされ蹂躙されていく。彼等が体勢を立て直せないまま戦闘を継続していると、援護する様にオーガに対して、幾つもの魔法が連続で着弾してその身体を抉っていた。私は飛び散ったその欠片から使用されたのは土魔法の<石礫>と推測した。


 上半身に傷を受けたオーガの視線は、被弾した痛みと仲間の敵討ちを邪魔された怒りに満ちて、魔法の発生源である宮廷魔術師ダーニッチ某を捉えている。ヘイトがダーニッチ某に移ったのを見て、<赤服>と獣人達は動ける者同士、互いに身体を支え庇い合いながら後方へ下がっていく。


 二体のオーガは帝国正規軍からダーニッチ某へ標的を変えて歩み始めるが、標的となった彼はその場から退かず、自分が持つ長い魔杖をオーガに向けて魔法陣を発現させた。杖先には幾重も大きな魔法陣が積層されていき、更に外周へ小さな六枚の魔法陣の羽を広げる感じでゆっくりと回転していて、なんとも中二心をくすぐる絵面になっている。


 一番先頭の魔法陣が高速回転を始めた。それを見たオーガは一瞬怯んだ様子だったけれど、それだけでダーニッチ某への歩みは停まらなかった。


 オーガが数歩進んだ所で、ダーニッチ某の魔法が発動する。魔法陣の中心から連続して<石礫>が射出され、その度に外周を回っていた六枚の魔法陣が一つづつ消えていき、最後の一枚が消えると大本の魔法陣も消失した。


 そして、杖先に積層されていた次の魔法陣の回転が速くなり、六枚の魔法陣が展開し再び同じ<石礫>を射出する魔法が行使された。それが一つ射出される毎に、外周の小さな魔法陣が一枚消えていく。


 さしずめ土魔法、<石礫>の弾込め不要の回転式銃みたいな感じか。まぁ、肉眼で弾体がそれと判断出来る速さなので、銃弾ほどの速度は出ていないだろう。


 ただ、それは杖先から絶え間なく撃ち出され、一撃一撃が重いのか的になったオーガの身体は徐々に削られていった。しかも、よく見ると外れるコースを飛んでいた<石礫>が誘導弾の如く、軌道修正して曲がりながら着弾していた。


 的になったオーガが苦悶の呻き声を上げながら地に膝を突き沈黙すると、ダーニッチ某はもう一体の方へと杖先を向けて魔術を行使する。十数秒後、残った方のオーガも同じ運命を辿っていた。ダーニッチ某は二体のオーガを倒して、その場を離れた。


 上空からダーニッチ某の向かった方を見下ろしていると、森の木陰に見える人工の小さい明かり、帝国正規軍の使っている松明が、一箇所に集まり始めていた。隊の建て直しとこの場から移動するのか。


 局地的にオーガを倒せても森全体に広がったオーガをモグラ叩きみたく倒すのは至難の業だろう。ペンタグリムが周期的にオーガに襲われているって話だから撃退する方法は在るのだろうけれど、今の私が考える事じゃないか。そう思い直して、今し方戦闘の有った場所へと降り立った。


 辺りを見回すと薙倒された木々とその原因のボロボロになったオーガの死体が転がっている。


 他には何人かの、五体満足じゃない、普通とは在り得ない方へ曲がりくねった身体や、一部押し潰され、四肢を欠損させた獣人の死体が戦闘の激しさを物語っていた。……<赤服>の死体が無いのは優先的に回収されたからか。


 ふと、そんな獣人の死体近く、頭の辺りに黒い影が浮かび上がった。


 全身が黒で統一された色合いで丸い形の帽子、牧師や神父が着る黒い礼装。ボロの外套を纏い、眼鏡を掛けた特徴の無い顔。そして、エンヤさんに近い雰囲気を持つ男。……ここに派遣された死神、か。


 死神は獣人の頭部に近い場所へ移動して、両手で何かを振るう仕草をしながら言葉を発していた。


「灰は灰に、塵は塵に、塵は土とり、魂は魂の坩堝るつぼへと還る。永劫の刻を越え、再誕するその時まで安らかに眠れ」


 静寂が支配する中、私は幾度か唱えられるその言葉を耳にしながら、彼の仕事を邪魔しない様に瞑目しする。


 遠い異国の地まで奴隷として連れてこられた獣人の生活がどういったものだったのかは判らない。接点も何も無い彼等に対して偽善だろうけど、次に生まれ変われるのなら幸せな人生を送って貰いたいと、冥福を祈った。


 幾度か繰り返された死神の言葉も途切れ、一分ぐらい経っただろうか。耳が痛くなるほどの静寂から、木々の擦れる音が聞こえ始める。


 目を開けると既に死神の黒い影は無く、辺りには獣人の死体とオーガの死体だけが残っていた。


 獣人の死体をそのままにしておくのも気が引けたので、私は土魔法で穴を掘って獣人の亡骸を埋めた。そしてオーガに蹂躙された時に手放したのであろう、<赤服>の使っていた魔杖が何本か転がっていたので、ここぞとばかりに<ストレージ>へ回収しておいた。


 ついでにボロボロになったオーガの胸の辺りを風魔法で切り開いて見ると、案の定、ソフトボールほどの大きさの魔石が採れたので、それも<ストレージ>に回収した。


 私は用事が済んだとばかりに<アンチマジックシールド>を足元に発現させて上空へと浮かび上がった。


 そこから見た帝国正規軍は、再編成が終わったのか、西へと移動を開始していた。ニッパーゴ村……或いはペンタグリムまで撤退するのか。いずれにしろ現状がある程度把握出来たので私もペンタグリムへ帰還しようと思った。


 その前に、折角ここまで来たのだから、観光……って訳でもないけれど、ライトアップされている感じに見える巨木の上空を巡って、エルフの朽ちた祠跡が在ると云われる場所を見て戻ろうと考えて、私は<アンチマジックシールド>の進路を巨木の在る東へと向けた。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。


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