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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
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第一一八話

 空から見下ろした夜の城塞都市ペンタグリムは、先日まで宿泊していたザキセルオンの夜と同じイメージを持っていた所為もあってか、ギャップの差が有り過ぎて思っていた程明るくは無かった。城壁に沿って幾つかの篝火が焚かれているけれど、それが城塞都市の全体を照らすのかとなれば不十分な灯りだった。


 城壁内に配された集落も、中心に在る広場を除いて、所々に点々と人の営みを示す明かりが灯されているぐらいで、完全に真っ暗と云う訳でもないのだけれど。……それとも、広場に人が集まっている所為で明かりが少ないのかな? なんて考えてしまう。


 視線をニッパーゴの方へ向ける。ペンタグリムから東に走っているオクロウマン街道は、街灯といった人工の明かりが皆無で、夜の闇の所為で全てが黒一色に染まっている。


 取り敢えず、地面にぶつからない様に高度を取り、極北星の位置を頼りに、東に在るニッパーゴへ向かってサーフィン形式で飛んでいく。


 満天輝く星空の明かり。逆に山々は黒い陰となって地に横たわっている。そのきわは、星空を背景に黒く浮き出て山々の形がはっきりと見て取れる。地面の方は木々に覆われている筈だけれど、人間の生活域から完全に外れている所為もあり、全てが闇に覆われ黒く暗い。


 ……いや、よくよく目を凝らして見ると、青や赤。黄に緑。……他、様々な色の薄い光が幻想的に揺らめき波打つ感じで漂っていた。……きっと魔素の光、なのだろう。まるで、前世の夜の海で見た夜光虫の儚い光みたいだ。


 そんな遠い記憶を思い出しながら観察していると、所々で力強い光の塊が点々と或いはひと所に固まって見えた。全く動かない光。激しく動き回る光。その力強い光全てが、魔素の塊、魔石を体内に宿す何かしらの魔物なのだろうと想像出来てしまった。うーん。今後は夜に活動する場合もありそうだから暗視装置的な魔法を考えてもいいかな。


 そして、東の方へ目を向けると、そこにはひと際明るい場所が見える。人工の光。昼間、ニッパーゴに降り立った時に目印になった、山際の森から突き出てそびえ立つ石組みの砦の辺り。遠目にそこからは狼煙の灯りが見えて、白い煙も立ち昇っていた。


 徐々に石造りの砦へ近付いていく。やはり屋上部分でニッパーゴのシュコー村長を始め何人かの村人達が狼煙を焚いていた。昼に来た時は砦の入り口付近は残雪に埋まっていたから、一所懸命に除雪したのだろう。


 私は彼等と話す為、黒い外套をひるがえし屋上の淵に在る胸壁へ降り立った。


「やぁ、シュコー村長。さっきぶりー」

「っ!?」

「……!!」


 突如現われシュコー村長に話し掛けた私に対し、村の男達は驚きながらも手に持った農具を身構え臨戦態勢になった。よく訓練されている。


「……く、黒い影!?」

「お、お前は昼間の? また来たのか!!」

「……森の妖精殿。何故、どうしてここにいらしたのか?」


 シュコー村長は村の男達が発した言葉を手で制止して、私に何故ここにいるのかと尋ねてきた。


「森のざわめきを聞いて。そこに貴方が狼煙を上げた。つまりは、オーガの氾濫ですね?」

「お、おぉ。やはり貴女様はまことに森の声が聞こえる妖精殿であったか!」


 私は前以まえもって知っていた情報から、意味有りげな感じの台詞せりふにして返した。すると彼は私に対し両膝を付いて拝み始めた。それを見ていた村の男達はシュコー村長の行動に思考が付いていけないのか目を白黒させている。


 違うっ! 森の声なんて聞こえない!! 軽いノリのつもりで返したけれど、ちょっとした冗談だから止めてっ!!


「……こ、コホン。えーっと、シュコー村長?」

「ははぁーっ! 私は貴女様の下僕です。なんなりとご用命下さい!!」

「…………」

「…………」

「えー、あー……、えぇ……」


 げえっ、本気でシュコー村長に変なスイッチが入ってる!? ……あんまりな状況に村の男達も沈黙している。……仕方が無い、彼等が余計な茶々入れてくる前にシュコー村長から現状の話を聞いておくか。


「げ、原因に心当たりはありますか?」

「あ、はい、森の妖精殿。実は……」


 今朝、東に向かった筈の帝国の伝令が日暮れ前、恐らく時間的に私と入れ替わりで、馬を駆って慌てて戻って来たらしい。その伝令が持ち込んだのはオーガの出現情報。


 始まりの時間は昼を少し過ぎた辺り。ニッパーゴとカミュコーニを結ぶ街道の途中から森の奥へ入った場所、朽ちた祠付近から突如としてオーガが湧いてきたそうだ。


 帝国の兵隊が朽ちた祠を調査中だったのと、場所が森の中と見通しも悪く、地形的に形勢不利だと判断して、一旦オクロウマン街道まで撤退。朽ちた祠へ通じる道の出入り口を押さえて隊列を組み直し迎撃をする事にしたそうだ。


 ところが、オーガの群れはその巨躯で木々を薙倒しながら、街道から離れた森の中を東西へ侵攻を始めた。幸いなのはここら辺の地形が少し幅の在る渓谷なので、その隘路に沿ってしか移動出来ないのだと、山津波みたいに木々を倒して移動するのは何時もの事だとシュコー村長が付け加えた。


 現在は帝国の兵隊達が、街道を使った先回りで側面から攻撃を加えながならニッパーゴへ引き返しているけれど、侵攻速度を遅らせるだけでオーガの硬さの所為で中々数を削れない状況なのだそうだ。


 ここにきて隊長が、付近の集落……ニッパーゴとカミュコーニへ、避難を呼び掛ける為の伝令を走らせたそうだ。自分はその一人だと言っていた様だが、その事を村人に伝えるとそのまま倒れ込んだのだとか、彼も相当に疲弊していたらしい。


 私は、帝国の兵隊が朽ちた祠の調査中だった。の部分に引っ掛かりを覚えた。恐らくレイモンドを捜索していたのではないだろうか。彼も現地調査フィールドワークで騎士達を連れて来ていた筈だけれど、何処に消えた?


 ちなみにシュコー村長曰く、カミュコーニへ至る道は、オーガの巨躯では抜けられない、岩壁の隙間を通る細い道になっており、何時もであれば、オーガはそこから引き返して第二波の形でくるのだそうだ。向こうへ走った伝令は、まぁ、無駄ではないけれどお疲れさん、との事。


 今、シュコー村長から聞いた帝国の兵隊さん……<赤服>の伝令から齎された情報で、オーガの出現が確定したと見ていい。この狼煙がイベント開始の合図なのか。取り敢えず、更に奥深くまで確認しに行ってみるか。


 私の目標であるスローライフから掛け離れていってる気がするんですけれども!! ……どちくせう。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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