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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
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第一一七話

 カンカンカン……。カンカンカン……。


 私は、シガートさんの部屋を辞退して今日の晩御飯を得ようと宿の廊下を食堂へ向かって歩いていた。その途中で、外から激しく叩かれる鐘の音が聞こえてきた。


 <五砦>に宿泊している他のお客さんが何事かと廊下の窓の扉を開けて宿の外を見ている。


 私もそれにならって窓から顔を出し音の鳴る方を確認した。鐘の音は東の城門の辺りから聞こえている。広場の方へ目を向けると同じ様に鐘の音を聞いたのか、ペンタグリムの住人達も外にわらわらと出てきていた。


「警鐘の音?」

「いや、まさか……」

「オーガが出た、のか?」

「……まだ当たり年じゃないだろう」

「誤報、じゃないか?」


 それぞれの顔に驚きや強張った表情、緊張感を含んだ表情をしながら、オーガの出現が信じられないと言った感じで話し合っている。しかし、これは現実なのだと言わんばかりに、警鐘の音は鳴り響いている。


 シガートさんの部屋から、会議と言う名の飲み会を開いていた商隊キャラバンの面々も、警鐘の音に惹かれて廊下に出てきて窓の外を見ている。


 そんな中、東の城門の方から、私がニッパーゴへ行く時に城門で対応してくれた衛兵が必死な形相で走ってきて、広場へ辿り着くと息絶え絶えになりながら大声で叫んだ。


「に、ニッパーゴで、狼煙が、上がっているっ! 当たり年外の、オーガの、襲来だっ!!」


 その叫び声に広場に集まった住人がザワめき始める。それは宿の廊下で外を眺めていた宿泊客達も伝播し、次第に彼等も騒がしくなってくる。


 そんな中、商隊の面々も小声でなにやら相談している様子だった。そして、私の視線はオリガさんと重なった。彼女はそのまま私の方へ近付いてきて周りに聞こえない様に小声で囁いた。


「……カノン。悪いが魔法でひとっ飛び行って現状を確認してきて貰えないか?」


 恐らくオリガさんから、と言うか商隊の面々から、私がニッパーゴへ行って戻ってきた速さを買っての、御指名なんだと思う。


 ……ただ、私は、腹が減っている。晩御飯を食わせて貰えてないのだけれど。なんて不満に思っていると、それが顔に出ていたのか、もしくは心を読んだのか、目の前に飲み会の席にあった腸詰や干し肉、豆のツマミが乗っている木皿を差し出された。……あ、左手にお酒の杯を持っている。のに気が付いた瞬間、後ろへ引っ込められた。


「……酒は渡せないがこれを行き掛けの腹の足しにしてくれ」


 オリガさんはそう言って、真剣な表情をしてツマミの乗った木皿を前面に押し出してくる。え、えーっと……この騒ぎにあっても自分のお酒とツマミの乗った木皿を確保して廊下に出てきてたのかこの人。思わず、アルコール中毒でも患ってんじゃね? って、心配になってしまうんですが。


 つか、木皿を渡されても持って走るとか持って飛んで行くとか、食パンを咥えて走るより難度が高そうなんですが!! まぁ、私もお腹が減っているので有り難く受け取りましたけどね!!


「カノン。出来るだけ早く正確な情報が欲しい。お前の機動力に期待して頼む!」

「……はぁ。オリガさんがそこまで言ってくれるのであれば是非も無しです。ちょっと行ってきますね」

「こっちもその間に準備を始めておく。カノン、判っていると思うが無事に戻ってくるのが大前提だ。駄目だと思ったら直ぐに戻って来い」

「イエス! アイ、マム!!」

「!! ……っ!?」


 私は足のかかと同士を当てて、カツンと音を鳴らして、右手の指をピンと伸ばした状態で額の横辺りへ持っていき、挙手注目の敬礼した。うん、履いている木靴がまたいい音を出したわ。……左手に持っている木皿がアレだけど。


 多分、この世界で聞いた事の無い言葉、見慣れない敬礼に、オリガさんはビクッと身体を震わせて、これに対し如何反応すればいいのか判らないでいた。思わず勢いとノリでやってしまった。一度やってみたかったんだよね。こーゆーの、ふひひ。


 ただ、私にも多少の羞恥心が有ったので、敬礼を解くとサッときびすを返してオリガさんに背を向けて早足で歩き出した。照れ隠しで左手に持っていた木皿から腸詰をひとつ摘み掴んで口に入れ、宿の外に出た。


 広場にはペンタグリムの住人が溢れ返り、<五砦>の対面に在る冒険者ギルドには冒険者らしき個々で武装した人達が集まり始めていた。


 逆に、隣接する駐屯所は、レイモンドが騎士達を連れて行った所為か人手が足りなさそうで、ここに残留していた<赤服>とも纏まりが欠けているのか、互いに主導権を握ろうとしているのか、時折怒声や罵声が聞こえていた。この状態でペンタグリムを守れるのか不安になってしまう。


 私は木皿に乗ったツマミが無くなるまでパクつきながら、人通りの少なさそうな場所へ移動して、空になった木皿を<ストレージ>に収納する。


 改めて周辺に人の目が無い事を確認して、足元に<アンチマジックシールド>を発生させて、夜の空へと舞い上がった。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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