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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
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第一一四話

 私はペンタグリムの冒険者ギルドを後にして、東の城門から冒険者ギルドカードを提示して外へ出た。


 オリガさんには申し訳無いけれど、冒険者ギルドを覗いただけじゃ満足出来なかったのだよ、ふはは。


 黒い影がうごめいているって話は、恐らくエンヤさんの同僚の事だろう。会えるか判らないけれど、もしかしたらそこから情報が貰えるかもしれないという淡い期待も有ったりする。期待外れのブラックベアだったら八つ当たりする。


 ある程度ペンタグリムから離れた辺りで、足元に<アンチマジックシールド>を展開させて、空に舞い上がる。


 眼下には春の息吹を感じさせる地勢の全てを覆い尽くさんばかりに育つ木々に覆われた山々が広がっている。一部黒く見える部分は針葉樹林だろうか。それは良いのだけれど、その所為で街道が隠れてしまって何処を走っているか判らない。


 空から街道沿いに進めば簡単にニッパーゴ辺りまで行けるんじゃないかと安易な考えをしていた私を小一時間程問い詰めたい。


「……まぁ、渓谷沿いに東へ進んでみれば何かしらの集落が見えてくるかもしれないな」


 白い街道が森の中へ消えている場所。数百メートルの幅の在る谷間たにあいになっているので、それに沿って進んでみればなんとかなる、かも? ある程度の高度も保っているので谷間の森から街道が逸れたりしていたら簡単に発見出来るだろう。


 しかし、それまで<アンチマジックシールド>の上に立ちっぱなしと言うのは……サーフィンやスノーボードに乗っているみたいで格好いいのだけれども、なんか疲れるなぁ。って、いっその事バイクや車みたく座れば楽出来そうだと思った。……で、体勢を色々と変えてみて楽な格好がどれになるか試してみた。


 結果、巡航時……時速四十キロぐらいで<アンチマジックシールド>の上に胡坐を組んで座る形に落ち着いた。楽だから。


 その気になればもっと速度は出せるだろうけれど、空気抵抗を防ぐ為に魔法で風防なんかを造るとかしないと大変な目に合いそうなので、緊急時以外はそのぐらいの速度で飛ぶ事にする。そんな自分ルール。


 次点で腹ばい状態。地面を下に望んで鳥になった気分が味わえて、何より空を飛んでいる感が凄くて気持ちいい。……のだけれど、私の膨らみかけの小さな胸が擦れて痛い、長時間の運用がキツい。前世の様な無様な贅肉じゃない、少女の可憐な蕾なのにっ! 改めて女の子の身体ってデリケートなのな!! ……大事な胸の保護の為にブラを造ろうか?


 あと、ネタとして涅槃ねはんのポーズもしてみたけれど、落ち着き過ぎて魔法の発動を忘れそうになったのは笑い話になるだろう。楽なんだけれど……怠惰に堕落はしたいのだけれど!! それで墜落はしたくない!!


 ……等等。彼是あれこれと試しながら四、五十分ほど空を進んでいると、山際の森から突き出てそびえ立つ石組みの砦を見つけた。麓の方に視線を滑らせると、少し森が拓けていて木々に隠れる感じで集落が見える。あれがニッパーゴの村だろうか。


 このまま勢いに任せて集落の中へ降りると人目を引きそうなので、かと言って集落に続いている筈の街道も木々に隠れて見えないので、取り敢えず石組みの砦近くに降りた。


 砦の下半分は残雪に埋もれていて、ここ最近人が立ち寄った形跡は無い。冬場は閉鎖されているのだろうか? 辺りを見回すと直ぐに集落へ続くだろう、細い丸太を杭で押さえただけの簡易階段がしつらえられた、下り坂を見付ける事が出来た。ただ、残雪の所為で徒歩で下るには厳しいかもしれない。


 人に見付かる前に消せばいいかと、<アンチマジックシールド>を下り坂に沿ってエスカレーターの動きをさせて降る事にした。


 降ってるいる最中、ここ暫くは馬車にばかり乗っていて足を余り動かしていなかったな。<アンチマジックシールド>に乗る事を覚えたら更に歩かなくなったよな。なんて、前世で例えれば、数百メートル先に在る近所のコンビニへ車で買い物に行く感覚になった気がして、思わず苦笑いしてしまった。


 所々で急勾配になっている、九十九折つづらおりになった、残雪と泥に塗れた木造りの階段を降って行くと、やがて木々の陰から木造の家々が見えてきた。足元の<アンチマジックシールド>を消して、階段から続く小路を抜けると少し大きめの道へとぶつかった。


 集落を覆い尽くす様に生えている大きな木の所為で、家の敷地と道の境目が曖昧だけれど、結構な頻度で使用されている生活道だと思われる、そこを集落の様子を観察しながら、<気配察知>を使って人気の多そうな方へと向かって歩く。


 庭先で椅子に座り細々と手作業をしている女性。春から始まる農作業の前準備だろうか? 近くではやんちゃ盛りの小さい男の子達が木剣でチャンバラごっこを繰り広げている。その横で赤子をあやす私ぐらいの女の子が彼等に何か文句を言っている様に見える。そんな長閑のどかな光景を眺めながら通り過ぎていく。


 そして、人気の多そうな場所。少し大き目の家の前を通りかかると、男達が集まって何かの話し合いをしている様子が見られた。軒先ではそんなの興味無いぞと言わんばかりの気だるそうな欠伸あくびをする猫。……やべぇ、この世界に猫が居るのか。こっちに来て初めて見た。ネ、ネコちゃーんって吸い寄せられてしまいそう。


「なぁおい、あれ……」

「く、黒い影か!?」

「とうとう村までやってきやがったっ!!」


 ……あん、黒い影だって? 人がネコに吸い寄せられそうになっているのをいい事に何を言っているんだ君達は……って私の事か!?


 家の前に居る男の一人が私を指差している。それに釣られた周りの男達もこちらを見始めて、そこから剣呑が雰囲気が漂い始める。


「……おお、森の妖精がりよるわ。何十年振りじゃろうか、懐かしいのう」


 しかし、剣呑な男達の影から聞こえてきた声に因って状況が変わった。男達の間を割って年季の入った眉毛がやたらと目に付く禿頭とくとうの人物が出てくる。ちなみに、私としては何十年振りの再開どころか、今回が初見である。


「村長っ、そいつは森の妖精じゃねぇ、黒い影だ!」

「そうだそうだ! 村に不吉を呼ぶ黒い影だ!!」

「そいつの所為で帝国の奴等がやってきたんだ!」

「村の食料も大分持ってかれちまったんだぞ!!」

「……みな落ち着くんじゃ!! 見るからにとうかそこらの小娘に当たるでないっ!!」


 男達の怨嗟の声が庭に響き渡る。それを禿頭の人物が一喝してくれた。


 ゲーノイエ家の長男を追いかけている<赤服>連中はここを通って食料も現地調達したのか。と言う事は長男はこっちまで逃げてきたのかな。何をやってるんだ?


 つか、私の所為じゃ無いと思うんだけれど、なんとも居た堪れない感じがする。


「……ふむ、その身に纏うは黒い外套……か。一応訊ねるが、森の妖精よ、もしやヌシが黒い影の正体じゃったか?」


 禿頭の人物、村長と言われた老人は片眉を上げて、隠れていたグレーの瞳で力強く、私を見据えてきた。


 その瞳に感じるモノがあって、私は他人に余り使いたく無かった<鑑定>を発動させた。……結果を流し読みをした限りでは、この老人の前で嘘を付くのはよく無さそうだ。


「まず、私は森の妖精では無い。先程話に上がった帝国の連中に関連する情報を得る為にペンタグリムからやってきた冒険者だ。村長、詳しい話が聞きたい」

「……ほっほっほっ。森の妖精では無い、か。それにしてもこれだけのいかっている男達を前にしても堂堂としてるのぉ。ヌシ、本当に小娘か? 歳は幾つじゃ?」


 数十年前、鉄鉱石探しで迷った森の中、居る筈の無い森の妖精エルフを見つけ、追いかけていった先でその祠を発見した人物。山師シュコー。


 現ニッパーゴ村長のシュコーは、そのグレーの瞳で私を見定めながら、己の顎を撫でながら片方の口角を上げてニヤリと笑っていた。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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