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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
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第一一三話

 都市の周囲を十メートルほどの高さが有る城壁で囲まれた、城塞都市ペンタグリム。数年周期で襲ってくるオーガの群れを撃退する為に造られた都市で裏街道の要衝としても機能している。と、サツキさんの談。


 商隊キャラバン一行は、先行していたオリガさん達の斥候達と城門前で合流して、商隊隊長のシガートさんが門前に居る衛兵さんの所へ行って、入城手続き済ませてペンタグリムの西門を通過した。


 城壁内は城塞都市と名を冠している割にはとて簡素な、それこそノーセロやザキセルオンより見劣りしてしまう、村の規模を少し大きくしてみました的なこじんまりとした木造家屋がメインの街並みだった。


 サツキさんのご当地情報に曰く、周りに木材が豊富で石造りより木造りの建物が多いそうだ。その事を示すように、ニッパーゴとカミュコーニへ抜ける街道の途中から逸れた場所に、森の妖精エルフ達が祭っていた祠跡が在るのだそうだ。


 なんでも小川脇の土気の無い巨大な岩の上で無理矢理に根を張って育った巨木が存在しているらしく、遠い昔ここ等辺に住んでいたエルフ達が自然信仰を対象とする聖域を示した祠を造り祭っていたと噂されていた土地であったらしい。


 そして、数十年前に鉄鉱石探しの山師がその岩場の影で朽ちた祠跡を発見して、それ以来隠れた観光名所的スポットになっていると言う話だ。


 ついでに鉄鉱石探しの山師と言う単語が示す通り、ペンタグリムの近隣の山からは良質な鉄鉱石が産出されているので、城塞都市の南東側を中心に腕のいい鍛冶屋も沢山居るのだそうだ。


 西側の城門から木造の日用雑貨的な商店やら武器防具屋、食事処兼飲み屋らしき建物、食べ物の屋台が並ぶメインストリートを抜けて、城塞都市の中心部であろう広場脇に在る本日の宿<五砦>に辿り着いた。


 その向かい側には申し訳程度の大きさの冒険者ギルド建屋とペンタグリムの駐屯所らしき立派な石造りの建物が見える。ただ、二日前に来ている筈の帝国正規軍<赤服>の気配が感じられなかった。


 オリガさんとイーサさんは宿の入り口で馬から下りる前から、クリスさんが先日の狩場みたいに<赤服>を見て不意を突いて駐屯所へ吶喊とっかんして行かない様に、彼女と駐屯所の合間に位置取りをしながら行動を制限していた。


 三人が厩舎で馬の世話をしてから宿のフロントロビーに戻ってきた際は、オリガさんがクリスさんの襟首を片手でガッチリと掴んでいた。以前、私もやられたヤツだ。


 クリスさんも流石に何度も注意をされていた所為もあってか理性的ではあったけれど、オリガさんとイーサさんの行為があからさま過ぎて羞恥の為か顔を赤く染めて俯き加減で連行されていた。横でイーサさんはとても羨ましそうにして見ていた。


 そんな三人の姿は大変に微笑ましかった。と、心の中で追記しておく。


 さて、隊長のシガートさんが宿<五砦>で宿泊の手続きを済ませて午後もひと回りぐらいした時間帯。彼の指示で、馬の世話や荷物の確認を終えた商隊のメンバーは城塞都市ペンタグリムの各所へ情報収集に散っていった。恐らくはゲーノイエ伯爵家の長男レイモンドの居場所と、先に到着している筈の帝国正規軍<赤服>の動向を探らせに出したのだろう。


 私は久しぶりに単独行動である。


 まぁ、オリガさん達はクリスさんを取り合って仲良く行動しているので私は一人あぶれてしまっただけなのだけれど。折角三人でかしましくやっているのだ、そこへ無理に絡もうと無粋な事はしない。


 それに、宿の目の前に在る冒険者ギルドに顔を出してくると言ったら、オリガさんはイーサさんと問題児クリスさんの面倒を見ているので一人で行っておいで、と簡単に言われてしまった。冒険者ギルドを覗きに行くだけなので、それほど問題は無いだろうとの判断もあるのだろう。


 結局、私はここに至るまでオリガさんに、オーガがメインのモンスターパレードが起こるって話の相談出来なかった。何故そんな事を知っているのか、言い訳の出来そうな理由が思い浮かばなかったので、少しでも有意義な情報が無いか冒険者ギルドで探してみるつもりだ。


 広場を横切る最中、隣接する駐屯所をチラ見してみたけれど、ゲーノイエ伯爵家の騎士や衛兵の姿は見えても……つか、気持ち騎士や衛兵の数が少ない気もするけれど、それ以上に<赤服>の気配は殆ど感じられなかった。別の場所へ移動しているのだろうか? そんな疑問を胸に冒険者ギルドへ突入する。


 時間帯の所為もあるのか、冒険者ギルド内は閑散としていた。


 雑談している数組のパーティーらしき冒険者の姿。受付カウンターは冒険者相手に窓口業務をこなしている嬢が一人。あとは奥の方で何人か書類の処理をしている嬢が居るぐらい。


 私が、変に絡まれるのを嫌って気配を殺して入った所為もあるのだけれど、フロントロビーへ突入した事に誰も気が付いていない様子だった。これ幸いと依頼票が張り出されている掲示板の場所へと移動して、歯抜けになった依頼票を流し読みしていく。


 畑作業の手伝い。キノコ薬草類の採取。鍛冶場の補助と荷物運び。手紙の配達。等等。ついつい自分に合ったランク帯の票を見てしまう。……ん?


 ランクC以上三~五組。<近隣の集落の若い衆が一週間ぐらい前から怪しげな黒い影を見かけると話を上げてきた。ブラックベアの可能性もある為ランクC以上の冒険者パーティー複数組求む。村や集落になにかしらの被害が出る前に調査して欲しい。依頼料、一人頭日当で三百ダラー、プラス出来高制。依頼主、ニッパーゴ村長シュコー>


 ……これ私のランクじゃ受けられないヤツだ。しかもこの黒い影って、エンヤさんの仲間じゃね? 仕事前の現地状況の確認かね。人死は避けられないのか、だな、もう……。


 この依頼は受けられないけれど、台風が来てるからちょっと田んぼの様子を見に出てみましたって感じで、現地までひとっ飛び見に行ってみようかね。って、不謹慎、且つぐう死亡フラグ。


 街道沿いに高度を上げて移動すれば簡単には気が付かれまい。そんな事を考えながら、こそっとフロントロビーから出ようとしたら、冒険者の応対を済ませた受付嬢と目が合ってしまった。私は愛想笑いを浮かべてさっさと外へ出る。


「……えっ、ちょっ待って! あなた誰っ? 何処から来たの!?」

「んー、誰か居た? トーメの気のせいじゃないか……」

「居たっ! とってもかわいい、天使が居たの!!」

「えっ、マジで!?」


 ……うーん。ここでも天使呼ばわりされるのか。気配を消していたのが裏目に出てしまった。


 中から受付嬢と冒険者の遣り取りが聞こえてきた。二人共声がデカイ所為で中に居るみんなも注目しているっぽい。誰か出てくる前に移動してしまおう。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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