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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一〇幕 司り見る者
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第一一二話

 翌日の午前中は、サクッと出発準備を終わらせて、オリガさん達とザキセルオンの冒険者ギルドへ狩りの許可証の返却に行った。


 たまたまカウンター付近で暇をしていたギルドマスターが応対してくれたけれど、先日の納入した大量の肉とゴブリンの討伐の事もあってか、暫くここで活動して欲しかったと残念がっていた。


 冒険者ギルドを後にして、昼まで時間も有ったので四人でウィンドウショッピングしながら宿<新港>へ戻った。昼前にゲーノイエ伯爵領都シューロクロスからマチルダ一行が帰ってきた。


 その後、昼を跨いで商隊キャラバンの主要メンバーが集められて報告と会議をしていたのだけれど、結局、意見が纏まったのが午後も中途半端な時間だった為、この日の出発は見送られる事になった。


 ちなみに私は何時出発してもいい様に幌馬車の中で弓と矢の手入れをして、ついでに<ストレージ>の中身を確認して待機していた。……ああ、何時になったら大量の鳥や兎、あと熊を捌ける事が出来るんだろうか。


 夜、就寝前にオリガさんから報告と会議の内容を教えて貰った。


 先日のオリガさんとサツキさんの東へ向かうブリタニア帝国正規軍の報告から、ペンタグリムに向かって迂回ルートを取るよりも警備が手薄と思われるシューロクロスを抜けてトカミツカへ向かう案が出たそうだ。


 ただ、マチルダ嬢が面会したゲーノイエ伯爵家の次男バーニッツから挨拶のお返しと受け取ったお土産の中に隠された手紙が入っていたそうで、その内容を読むとペンタグリムに落ち延びた長男レイモンドの保護を頼んだものらしい。軟禁されている現当主の花押があったのだとか。


 彼是あれこれ意見を出し合って、最終的に商隊の一部をシューロクロス経由で先行させシスイ侯爵領イヨムロへ向かわせる。本体は当初の予定通りペンタグリム経由して長男レイモンドと接触を図って、状況に依っては保護をしてイヨムロへ向かう算段になったそうだ。


 ブリタニア帝国正規軍が出払ってる現状、シューロクロスを抜けた方が安全性が高いと思われるが、そうしたルートを選ぶって事は恐らく手紙には何かしらの取引が書かれていたのだろう。


 問題はダーニッチ某。ブリタニア帝国正規軍の<赤服>も同じ目的でがペンタグリムへ行ってる筈なので、昨日の狩りの時みたくかち合うのは避けられないと思われる。しかも既に二日の出遅れである。あと例のアレ、オーガのモンパレが如何絡んでくるか、だな。


 次の朝、オリガさんの話していた通り、商隊は一部を分けてシューロクロス経由でイヨムロに向けて進発させた。私達が居る本体はペンタグリムへ向かう事になった。


 私はサツキさんと幌馬車の馭者ぎょしゃ台に座っている。隊列は何時もと同じでオリガさん達や馬を持っている冒険者達が斥候や護衛を勤めている。


 今回は確実に<赤服>と接触すると思われるので、クリスさんは先日みたいな事が無い様にと言い含められていた。「今度同様の事したら従士から外して侍女として扱う」と。本人も神妙な表情をしながら理性的に行動すると言っていたけれど、やはり多少の不安は残る。


 そんなこんなで、ザキセルオンから出発して小石交じりの白い街道を東進していると、先日ダーニッチ某と会敵エンカウントする羽目になった場所へと差し掛かった。南の方には狩りをしていた森が見えている。


「まさか<赤服>の連中の後追いするなんてな。レイモンドが無事だといいんだが流石に二日先行されてると厳しいな」


 サツキさんも先日の事を思い出しているのか、南の森を見ながらそんな事を呟いた。商隊の主要メンバーも<赤服>連中の目的も同じなのだと推察した様だ。ゲーノイエ伯爵長男レイモンド。ペンタグリムで上手く立ち回ってくれてればいいのだけれど。今はそう願うしかない。


 商隊は東へ進む。


 ザキセルオンから見晴らしのいい野原を貫いた街道も、山間やまあいに差し掛かる頃になると、街道脇は少しづつ木々に覆われていき、その合間には黒い泥を被った残雪が散見された。緩やかなカーブとアップダウンが続く坂道になっていて、雪解け水が流れ出してきて至る所で道を汚して、街道の右手を流れる沢に注いでいた。


 山の谷間を進んでいる所為か、見上げれば街道の木々の枝が幾層にも重なって空が覆われて、まるで森のトンネルを移動している感覚に陥ってしまう。


 そして、そんな谷間の薄暗い街道の幾つかの坂道を超えると、突然森が途切れて視界が開けた。


 街道の先には、森を切り開いて開墾したのだろう農耕地に囲まれた、十メートル程の高さが有る石造りの城壁が見えた。


 サツキさんが「あれが城塞都市ペンタグリム。その城壁だ」と教えてくれた。


 石造りの城壁以外はとても牧歌的な光景だった。


 城壁よりも圧巻なのが、ボーチュー山系の山々。標高が有る所為かその頂き付近には雪が残っていて白く染めている。


 この城塞都市を基点として、ちょっとした間道を抜けて行くと北はフノヌツイ。開拓村から南下して東に進んだ所に在る村、だったか。南はトカミツカで事が済んだ後に商隊が進む予定の村。みたな具合に幾つもの隘路が存在する。


 そのうちの一本、例のモンパレ。オーガの進行ルートと思われる隘路は東北に向かう街道でニッパーゴとカミュコーニに至るのだそうだ。


 一応、何箇所かに砦が造られているって話だけれど、近くに住む集落の人間が狼煙を上げる要員としている。今は発生周期が外れているから見られないけれど、狼煙が焚かれる時はオーガの大群から逃げる祭りの始まりみたいなノリらしい。と、サツキさんの談。……何処ぞの牛追い祭りかよ。


 商隊は開けた光景を眺めながら、サツキさんと談笑してゆっくりとペンタグリムの城壁まで進んでいく。


 斥候として動いているオリガさん達は既に城壁の入り口付近へ到達して商隊本体を待っている状況だ。


 取り敢えず、ペンタグリムまでは無事に辿り着けたらしい。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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