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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇九幕 使と笑う者
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第一一〇話

 ザキセルオンの南東に位置する狩場の森。今は昼休憩を挟んで午後を回った辺り。


 私とサツキさんの二人で広場脇の池付近に陣取って、それなりに確保出来た獲物の血抜きをしながら、バラした方がお金になりそうなのを優先的に解体作業をしていた。


 内臓や血を捨てる穴を掘った際、サツキさんが「ほー、魔法って便利なもんですな」と感心してくれた。むしろ商人的な金儲けの匂いを感じたのか、何故黙っていたのかと言われたぐらいだ。如何やら魔法への忌避感は無いらしい。


 オリガさんはクリスさんとイーサさんを連れて、森の奥へ魔物を狙って狩りに行った。と言うか、狩りを名目にしたクリスさんの、大分毒気は抜かれていた気もするけれど、ガス抜きなんだと思う。八つ当たりとも言う。


 行く前に、オリガさんがイーサさんに「解体と狩りとどっちがいいか?」と訊ねていたけれど、その答えに「オリガお姉様の傍がいいです」と言って付いて行った。今頃は悲鳴上げてるんじゃないかな。


 私は解体作業を続けながら、昼休憩の時に聞いた話を改めて脳内で反芻はんすうした。


 クリスさんの出身が東州の没落貴族の長女だった。から始まり、帝国貴族一員として領地運営と伸び悩む税収に苦慮しながらも、近隣の貴族達と連携して如何にかやりくりしながら慎ましやかに生活していたらしい。


 ところが十数年前の自然災害が原因で領地の財政が徐々に逼迫していき、当時の領主であったクリスさんの祖父と近隣貴族達が連名でイーシン総督府に税制の緩和や物資の融通、復興補助等の陳情書を提出したのだが、逆に帝国への不忠と反乱を企てたと、有りもしない理由で叱責をされた。


 祖父は隠居を命じられ、クリスさんの両親へ代替わりする。他の近隣貴族も似たような有様だった。そして東州では領地運営は財政難で思うように復興が出来ないまま、逆に領地運営改善と治安維持の名目で、当時イーシンに駐屯していたブリタニア帝国正規軍<赤服>が投入された。


 当然ながら、<赤服>の苛烈な植民地政策のノルマ強要と領地運営で、先細りの未来を予見した東州の貴族達はむを得ず反乱を起こした。


 ブリタニア帝国正規軍と腹を空かせた寄せ集めの領兵、傭兵、義勇兵、農民兵では殆ど勝負にすらならず、それでも幾度か要害と言われる地で<赤服>を押し返すも、徐々に主要都市を押さえられて物流も滞っていき、次第に追い詰められていった。


 当初、クリスさんの実家は戦場から離れていた事もあり、後方支援や祖父のつてを頼りに、東北州のシスイ侯爵家と東州の橋渡し役として努めていた。


 しかし物資的な援助を受けたものの人員的な援助が少なかった所為で、東州貴族は情勢を覆す事が出来ずに負け続けて、それ程大勢に影響が無かったそうだ。


 東州貴族の撤退に次ぐ撤退で、やがてクリスさんの実家の領地も戦場と化していく。


 東州を捨てて東北州へ脱出する難民が大量発生して、船で海峡を渡って避難を始めたのだけれど、船の数は少なく往復にも時間が掛かり、難民の避難は遅々として進まなかった。


 その後、撤退途中の東州貴族達や避難民達が溢れている港へ、追撃してきた<赤服>が降伏勧告を出した事に拠って戦闘は終結して、これをってイーシン総督府と<赤服>が東州反乱軍の鎮圧を宣言した。


 表向きは、である。


 その際、命からがら船に乗って逃げる事が出来た東州貴族や難民からの聞き取りから、降伏勧告は行われずに、追撃してきた<赤服>が包囲網を敷きながら、東州貴族達や避難民達を襲い始めて、その所為で港の混乱に拍車が掛かり、船に乗る事も逃げ出す場所も無くなった者達は海へ押し出されて、多数の溺死者が出たらしい。


 クリスさんの両親……父親は最後まで難民の脱出に手を貸して、<赤服>を迎撃する有志を募り、騎士として難民達を守り最後まで勇敢に戦ったそうだ。


 母親は弟を連れて避難船に乗っていたけれど、小さな娘さんを連れた身重の女性難民へ自分の席を譲ったらしい。その際、弟も自ら貴族の息子として、その小さな娘さんに席を譲ったのだとか。幼いながらノブレス・オブリージュ、高貴さは義務を強制する。を心に刻み体現出来る弟だった様だ。


 クリスさんは祖父と共に、シスイ侯爵へ追加援助と難民受け入れの申し出に来ていて滞在中にその報を聞いた。と言うか、その身重の女性と小さな娘さんが海峡を渡りシスイ侯爵領へ逃げて来た後、クリスさんの母親と弟から託された短剣を持ってクリスさんと祖父を探し出して、目の前で土下座をして涙ながらに話してくれたのだそうだ。


 それを聞いた祖父は涙しながら歯を食い縛りその現実を受け止め、自分の中で無理やり納得させていたらしい。クリスさんはショックの余り暫く部屋に篭って居たという。


 最終的に捕らえられた東州貴族と難民は、総督府の権限で貴族はお家の取り潰しと難民は奴隷として罪を問われる事になったのだとか。


 イーシン総督府と<赤服>からシスイ侯爵の方へ逃亡した貴族の身柄引き渡しの要求も有った様だけれど東州の難民以外は居ないと跳ね除けたそうだ。これが五年前の事らしい。


 なお、後々の東州における派閥情勢の変化から東州に多く居た植民地融和派貴族の改易と植民地強行派の転封が目的だったとも言われている。


 ……クリスさんがポツリポツリと話して、オリガさんとイーサさんが補足する感じで話してくれた内容を、大体の時系列で脳内整理したけれど簡潔に上手く纏められなかった。


 サツキさんに聞かれてもいいのかなと思っていたら、東州貴族の反乱は有名な話で商人達も活発に動いていたので、大まかな事は知っていたらしい。


 情報に疎い辺境の開拓村出身の田舎モンで済みません。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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