第一〇五話
昨日は冒険者ギルドでおっぱい大好き冒険者さんに絡まれてひと悶着あったけれど、そんなのはギルドの建物を出た瞬間から光の速度で遠い過去の記憶として忘却の彼方へ追い払った。
狩りの準備と手順を確認する為、速攻でオリガさん達と宿<新港>に戻って、商隊隊長の、多少体調が回復していた様子のシガート氏を捕まえて報告して、彼是と相談や確認をしていた。何時の間にか宿へ戻ってきて話に入ってきたサツキさんも一緒に行動する事になった。
晩御飯になる辺りになると、シガート氏に見慣れない商人さんが面会に来ていたけれど、シューロクロスに向かったマチルダ一行と入れ替わりで戻ってきた、以前からそこで行商をしながら情報収集に当たっていた仲間なのだそうだ。そこからオリガさんを含めた彼等四人で情報交換という名の飲みにケーションタイムが始まっていた。
私はクリスさんとイーサさんの三人は晩御飯終了後、温泉に浸かり湯上りでノリノリなクリスさんと渋るイーサさんにソフトなマッサージを施して英気を養って貰い、私は悶々……テンションが最高潮に張り切ってしまい、なかなか寝付けなかったのはご愛嬌。
と、前置きはこの辺にして、今日は狩りへ出掛ける日なのだ、はっはー。
「ははは、お客さんも好きですね。三日前もゴブリンやグレートボアのキバオウを狩ったでしょうに」
運搬用荷馬車の馭者台に座ったサツキさんが、狩場であるザキセルオンの南東に広がる森へ向かっている最中の会話で、苦笑いしながらそんな言葉を口にしたけれど、馬鹿を言ってはいけない。
あれはゴブリンを相手にしたのであり、狩りでは無く害獣駆除なのだ。そしてキバオウはその不幸な被害者でもあり、商隊やマスロープ村の糧にはなった様だけど、私の糧になってはいない。
エンヤさんの登場で、肉はホンの少ししかご相伴に預かっておりません。はい、とても美味しかったのですが全然足りなかったのです。育ち盛りなのでガッツリ肉食系なのです。大量に<ストレージ>に確保している肉も出すタイミングも調理して食べるタイミングが無いのです。
つか、運搬用荷馬車を用意したサツキさんも結構期待しているんじゃなかろうか。それを引く馬の足取りは軽く、隣を騎乗して歩くオリガさんは凛々しく、同じ様に騎乗したクリスさんとイーサさんはお肌ツヤツヤにそれぞれ会話を交えながら移動していた。
ちなみに、先日の話で出て来た許可証。それが必要な場合とは、冒険者ギルドでの売買時か狩場で鉢合わせになった猟師から誰何された時だけらしい。その気なれば密猟も出来そうだけど、見付かった場合のリスクを考えると、まぁ、そこ等辺は匙加減が、厳密に駄目という人も居れば、これぐらいならって見逃してくれる人が居る感じで、結構人に由ってまちまちで曖昧らしい。なので許可証が無いよりかは有った方が良いそうだ。
私達はザキセルオン南東に広がる狩場の森へやってきた。オリガさん達との、何時ぞやの、開拓村で現地徴用されて同行した、行軍訓練を思い出す。クリスさんとイーサさんに勢子やって貰ったんだっけか。最初は上手くいかなかったけれど何度かやる内に上手く追い立てられる様になったんだよな。
さて、森の入り口広場に荷馬車を置いて、据え付けられた柵にオリガさん達は自分の乗ってきた馬の手綱を括り付けていた。
私は弓を片手に荷馬車から降りて、周囲をザッと見回した。<気配察知>からもこの付近には私達以外の人は居なさそうだ。この森の外周にはここの他にも、狩人達が使っている広場が点在しているらしいので、もしかしたらそっちの方に居るのかもしれない。
サツキさんはここをベースにして、周囲の見張りを兼ねながら近場で山菜やキノコ薬草等の素材を探すそうだ。中途半端ではあるけれど、この森には魔物も出るらしいので、一応お留守番といった感じか。
各々準備が整ったのでいよいよ森の中へ入っていく。
サツキさんから「大物期待していますよ」なんて激励して貰ったけれど、やっぱり彼は大物を期待していた様子だった。
私達は何度も人が出入りした跡がある獣道風小道を突き進んでいく。私が先頭で少し離れてオリガさんが続きクリスさんとイーサさんがその前後を固めていた。なんともまぁ、開拓村の時と同じ並びだった。
ともあれ、私は早速自分の思惑を、<ストレージ>の中身を減らす目的を遂げる為、後ろから付いて来たオリガさん達を手で止まれの合図を出して、弓を構えて森の奥へと矢を放った。そして、徐に走り出した。後方で待機していたオリガさん達も一拍遅れて追い掛けて来る。
若木の枝や下草の生えた森を素早く走り抜け、矢の着弾した位置に駆け寄って、彼女達が近づいてくる前に、素早く<ストレージ>から、以前開拓村で、黒の樹海内で得た獲物を取り出した。刺さった矢を抜く仕草をしてオリガさん達を待った。
間を置かずに、オリガさんは余裕で、クリスさんとイーサさんは息を切らせて、追い付いて来た。そして私の手元でぐったりと絶命しているホーンラビットに気が付いた。
「ほう、早速獲物を狩ったのか、流石だなカノン」
「はぁ、はぁ……か、カノン、獲るの、早過ぎる」
「はぁ、ふぅ、凄いのです、ふぅ……ふぅ」
「……へぇ、まるで秋口に獲れる肥えた兎みたいだな」
ギクーーーッ!? や、確かにそうなんですけどー、その通りなんですけどー、オリガさんの言葉が鋭過ぎるーーーっ!!
「た、たまたまなんじゃないですかね。いま血抜きするので少し待っててくださいねー。は、あははは」
<ストレージ>内は時間が止まっているので、以前狩った際その場で処理せず直ぐに入れていたから獲物の体温はまだ暖かい。腰に差したナイフを取り出して兎の首を切り裂き血抜きを始める。
血抜き作業をしながら自分のアリバイ工作の未熟さを思い知り、<ストレージ>に確保している大量の獲物の消化を諦めた瞬間でもあった。
これだったら狩りは一人で来るべきだったか……や、しかし、開拓村の頃と違って、現状はオリガさんが仮の保護者なので勝手な単独行動は控えるべきだし、旅の目的地であるシスイ侯爵領イヨムロでの生活が落ち着くまで我慢するしかないのか。
こんな有様じゃ今回はもう駄目そうだけれど、ホント兎とか鳥とか如何しよう。熊に至っては何時になったら放出出来るのか。うーん。
我が妄想……続き、でした。
読んで頂き有り難うございます。
更新は不定期でマイペースです。
2021.08.12-2021.08.15
お盆期間中に時間が出来たので、〇一四話から一〇四話までオリガさんの台詞をメインに台詞全般の見直しをして、又、地味に設定や文章の、まだ歪な凸凹はありますが、板金修正をしました。
上記各話の後書きでは修正報告をしておりません。不親切だとは思いますが、ここで一括報告とします。