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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇九幕 使と笑う者
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第一〇三話

 まぁ、なんと言うかテンプレ乙! みたいな?


 異世界にける冒険者ギルドで絡まれるのって簡単便利なテンプレだよなぁ。ノーセロでも中途半端に絡まれたし、この世界の神様には、もうちょっと展開を考えて欲しいの心。


 さて、見えざる力への文句はこれぐらいにして、私は、やんちゃそうな男達に絡まれるのを事前回避しようと、透明な盾<アンチマジックシールド>を張ったのだけれどそれは不発に終わった。彼等は何事も無かった様に、私達の目の前にやってきて、主にオリガさんに対して不躾ぶしつけな視線を向けてきた。雰囲気から察してやる気満々である。


「よう、ここらじゃ見掛けないおっぱいしてんな!」

「ああ、実にけしからんおっぱいしてるよな!」

「新規かナガレか知らんが、俺達が一丁いっちょそのおっぱい揉んでやるぜ!」


 ……如何やら彼等の目にはオリガさんのおっぱいしか目に入っていない様子。判らなくもないけれど……、前世のインターネットで見た「おっぱい! おっぱい!」のアスキーアートを思い出してしまったじゃないか。今となってはインターネット老人会どころか、インターネット前世会になるのか、くっそ懐かしい。


 横に居るクリスさんとイーサさんはこいつ等頭湧いてんじゃないの? って感じの汚らしいゴミ屑を見る視線を送っている。なんだかフレンドリーファイアされてる気分。


「おい、あいつ等またやってるよ、ホントりねぇな」

「領都からナガレて来たんだっけ、仲間欲しいんだろ」

「女ばっか声掛けてるし誘うにしてもあれじゃ無理だろ」

「そもそも因縁吹っ掛けてるだけで勧誘している様に見えないし……」

「あいつ等の所為で最近ギルドも風評被害受けてんだよなぁ」

「パーティー名<ママッパイ>だからな、勘弁してやれよ、はは」

「無理だわ。あとでギルマスに報告と再教育決定だな」


 いや、そこまで言うんだったらこいつ等をさっさとめて差し上げろよ! 周りから聞こえてくるそんな声に心の中でツッコミを入れながら、標的になっているオリガさんを見上げる。


 下からのパースを効かせた戦艦の球状船首バルバス・バウ髣髴ほうふつさせる大きな胸の向こうに、表情を無くした彼女の顔が有った。


 これはこれで素晴らしい見え方だけれど、オリガさんは大分お怒りのご様子ですね。彼等の冥福を祈……あがっ!? 突然視界が暗くなってコメカミの辺りに鈍痛が襲ってきた。そして地面から足が離れる浮遊感……。


「い、痛っ、痛い痛いっ! コメカミ痛いっ、首痛いーっ!」

「なにやらここでも不埒な視線を感じたのたが気のせいか?」

「か、カノンさん!? いったい何を……」

「今のカノンの視線には情状酌量の余地無しのエロさがあったのです。有罪、ザマァなのです」


 じ、ジタバタ身体を動かすと反って痛みが増す。こ、ここは、大人しく、力を抜こ、ぅ。やー……、い、意識が、暗転し、そー……。…………。


 ……目を覚ますと、私とクリスさん、イーサさんはギルド建物の裏庭にある訓練場で休憩用に据え付けられた椅子に座っていた。と言うか、私はクリスさんに介抱されていた。


 私達の他にもフロントロビーで暇を持て余していた冒険者達が訓練場で開催されているイベントを観戦していた。ただし目の前の惨状を見て全員声を無くし口元を押さえ静かになっている。静寂を保っている冒険者達の反対側にギルド職員を偉そうな人が立っているのが見える。多分ここのギルドマスターかな。


 そしてオリガさんの手にって模擬訓練と言う名目の精神注入で、先程絡んできたやんちゃな男達三人がぼろ雑巾の様にボコボコにされて土の地面に転がっていたていた。辛うじて動いている所を見ると生きているっぽい。


 オリガさんは騎士爵を持っているので、準貴族として先程の一件は下手すれば不敬罪に問えるんじゃないか、と思わなくも無いけれど、兎にも角にも、現役の騎士様だ、容赦が無い。伊達におっぱいがでかいだけじゃない。あ、やべっ、こっちを睨んできた。ちっ、さっきといい勘の鋭い騎士様だよ、ホント。


 私はコメカミの辺りに右手を添えた。オリガさんからアイアンクローを受けた場所に痛みが残っている。クリスさんが言うには、まだ赤く手の跡も残っているそうだ。


 私が意識を手放していた時、オリガさんは私を片手に軽々持ち上げた状態で、絡んできた男三人を「そんなにおっぱいがいいなら母親ママのおなかからやり直してくるんだな!」と一喝し怯ませて、傍観していたギルド職員と冒険者達に抗議を入れたのだそうだ。


 そこで黙っていなかったのがやっちゃなそうな男達だ。今の状況に至る引き金を引いたらしい。


「け、けしからんおっぱいを見せ付けておいて、そんなの横暴だ!」

「ば、馬鹿にしやがって! 俺んのかーちゃんは貧乳なんだよ!!」

「おいっ、裏の訓練場までそのおっぱいを貸せや! 俺達が滅茶苦茶にしてんでやる!!」


 おっぱい思考のまま、逆ギレしてそんな言葉を吐いたそうだ。別な意味でおとこらしいわ。


「……矯正が、必要……だな。さっさとその訓練場とやらまで案内しろ。……ああん? ……して、くれるんだよな?」


 それを聞いたオリガさんは地獄の底から聞こえてきそうな低い声で呟いて、意識を失っていた私をクリスさんに預けて、その絶対零度の冷淡な声に底知れぬ恐怖を感じたのか、やんちゃそうな男達は途中からガクガクと足を振るわせ歩く事もやっとな感じで訓練場に案内したそうだ。可哀相にオリガさんから相当の殺気を当てられたのだろう。


 ただ、なんと言うか、事後現在、土の地面に転がる彼等を見ると根性を叩きのめされた割に若干喜んでね? って感じがする。


「……あぁ、我がおっぱいに一片の価値無し」

「お、俺生まれ変わったらおっぱいになるんだ」

「……たゆんぷるんたふん」


 震えながら手の平を御椀型に広げ右腕を天にかかげる男。顔を両手でおおい来世に夢見て期待する男。イってますわコレな痙攣を起こしている男。……彼等は新しい扉を開いたのか、或いはご褒美だったのか、そんな気配がここからでも感じられて、性根叩きのめし精神矯正をはかった筈のオリガさんも少し後退あとずさりながらドン引きしている。


 そのまま彼等は、ギルド職員が汚物を扱うような最小限の接触でって担架に乗せられて、何処かに運ばれていった。推定ギルドマスターがオリガさんに近付いて頭を下げてなにやら遣り取りしている。見世物が終わったと冒険者達も訓練場から撤収して行った。


「そもそもカノンはギルドに何か用事が有って来たのですか?」

「一応ご当地ギルドの顔出しを、と思いまして。それと、どんな依頼票が有るのかと、場合に寄っては小遣い稼ぎが出来ればと思いまして……」

「ああ、なるほど。確かギルドにはそう云ったルールが有りましたね。都市や街に拠って依頼が変わる事も有るでしょうから情報収集は大事ですね」

「はい、ただ私もまさかこんな事態になるとは思ってませんでした」

「カノンはー、普段のおこないが悪いんじゃ、ないのですか?」

「イーサ姉様は突然何を……」

「そ、そうなのです! 何時も私とオリガお姉様の邪魔ばかりしてるクセに! 今日だって本当は二人っきりのデートに誘う筈だったのにですよ……とばっちりもいいところなのです! オリガお姉様と私に謝ってくださいなのです!!」

「え、えーと、イーサ姉様、それとクリス姉様もご迷惑をお掛けしました。申し訳有りません」


 ここは二人に頭を下げて素直に謝っておく事にする。頭を上げたら、イーサさんは腕を組んだまま頬を膨らませ激おこプンプン丸なポーズである。クリスさんは苦笑いを浮かべていただけでそれ程気にしていない様子だった。


「……オリガ様への謝罪は戻ってきてから、ですね」


 そのオリガさんは推定ギルドマスターとこちらに向かって歩いてきた。さっきのおっぱいの件も含めて謝ろう。

2021.07.27

第一〇二話の最後の部分を修正しています。


我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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