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「マドリード戦記Ⅱ・女王動乱編」  作者: JOLちゃん
第一章
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「御前会議」1

「御前会議」1



諸国、動く。

その動きに巻き込まれようとしているマドリード。

アリアは珍しく即断せず、重臣たちを集め御前会議を開く事となった。

アリアが御前会議を開くのは初めてのことだ。


ここに、マドリードを担う若き有能な重臣たちが集う。


***



 パラ暦2337年 5月13日。



 ザムスジル帝国軍が、ガエル共和国北部を完全に併呑……さらにトメイル王国北部グドーメン地方に攻め入った。兵力は凡そ10万、戦艦を三隻有している。


 もはやガエル共和国はザムスジル帝国にとって脅威勢力ではない。


 ガエル共和国は国内18の領地に分かれ、その領主たちが議会を作り国家を運営している連邦議会制の国家だ。政治形態が大陸連邦に近いのは、元々200年前大陸連邦を抜けた冒険者スデニー=フォルセットが開拓して作り上げた国家だからだ。クリト・エ大陸で唯一共和制度を採っている国だが、200年のうちにクリト・エの文化に染まり領主は貴族となり奴隷制度も取り入れた。今では各領主たちが議会政府の統制に従わず、帝国派と反帝国派に分かれ紛争状態だ。


 その間隙をザムスジル帝国は突き、瞬く間に北部8領を制した。


 中部と南部の10領が未だ抵抗を続けている。


 首都サラデンを有し議会と国軍を握るアウトレイト=バムス宰相は老練な政治家で、親帝国寄りの現状維持派だ。ザムスジル帝国と交渉を続け、国土を切り売りしながらなんとか首都圏の維持に努めている。だがそれは抵抗とはいえず余命を削って生き延びているに過ぎない。


 しかしレコード=ザドールスは違う。

 この男は南部1領の領主で国軍の将軍だが、彼は反ザムスジル帝国軍の急先鋒としてガエル共和国内で反対勢力を築き上げ、自分に従う南部4領を支配に置き徹底抗戦を唱えている。が、その兵力は5万。けして多くはなく、数年に渡る抵抗が疲弊し、いつ消滅するか分からない状態だ。


 そしてその副将であるコルテンド=クゴーンは、若く、反帝国の意志強く、柔軟な頭脳を持つ優秀な軍人だった。


 コルテンドは悪化する現状の打破を、国外に求める事を決意し、特使を派遣する事にした。救援先は同盟国であるトメイル王国と、これまであまり接触はもたなかったマドリードだ。



 コルテンドは政治と軍事が分かる男だ。



 同じ帝国の脅威を受けているトメイルには大きな期待を持たなかった。

 トメイルも自国の防衛が優先で救援どころではない。


 彼が再起の同盟者として希望を託したのは、新生し東クリト・エで唯一ザムスジル帝国と交戦していないマドリードだ。


 最初コルテンドはマドリードをよく知らず眼中になかったが、トメイル国宰相オルゼ=レイ=クラーレンからアリアの革命戦の戦略と巨大な機動軍の存在を聞き関心を持った。そしてアリアの高等戦略と政治力を知った。さらに現在多くの機動部隊を保有している事、交戦こそしていないものの昨年の革命戦ではザムスジル軍を撤退させることに成功した。



 時同じく……マドリードに対し触手を伸ばした者がいる。


 バルド王国を介し、<クグスの流民>がマドリードに亡命を申し出てきたのだ。


 <クグスの流民>……カルマル王国の武装難民で、元カルメル王国将軍クヌリウス=ジ=アリエウスが率いる2万3000人の武装難民だ。パタデクト王家第一王女メスリン=ラン=パタデクトもこの中に入っている。直属軍は2万3000だが、旧カルマル王国の亡命者や難民に影響力があり、それを考えると10万以上の勢力を背景に持っている。



 そして最後に……ザムスジル帝国政府から、マドリードに対し外交使節を派遣したい旨がコクロス王国経由で入った。



 その三つの報は、ほぼ同時であった。



 このタイミングだ。何者かの暗躍があることは間違いない。


 そして、アリアはその三つの難題に対応する事になる。



 アリアの本格的な外交デビューは、この時から始まる。






***





 この三つの報がマドリード政府に正式に届けられたのは5月19日から21日であった。


 アリアはどの案件に対しても、珍しく即答しなかった。どれも即時回答を求められなかったからでもあるし、即答できる内容でない事でもある。もし、仮に即答を、という事であればアリアは全ての案件を拒否しただろう。


 アリアはこの三つの案件を重臣、上級軍部指揮官に伝えたが回答を即断しなかった。


 しかし意見は言った。



「私の基本方針は変わりません。マドリードの平和です。戦争ではありません」


 だがマドリードだけの平和を望むわけではない。

 いや、一点に限り、アリアは自分の政策として責任がある。


 アダと奴隷の解放と、それに連なる難民問題だ。


 アリアは国内政治としてクリト・エ諸国で唯一アダ奴隷制度を廃した。

 当然、周辺諸国は反応する。


 周辺のアダや奴隷にたちにとって、マドリードは唯一人権が得られる自由の土地となった。当然難民はマドリードに押し寄せる。その対処をするのが、制度を廃したアリアの責任だ。それはアリアも考えていた。だから開拓と開墾を進め食料を集め、飢える事だけは防いでいる。それは成功した。


 だが、今……マドリードを目指しているのはただの難民ではなくなった。



 戦争が、そこに伴っている。



 アリアは、5月22日の午後19時……初めて御前会議を開くと宣言した。



 各大臣、各部門長、各軍上級司令官が全員集う会議だ。



 普段の会議と違う点は、これは公式に記録されるもので、そして全員正装で参加する特別な会議だ。場所は王宮大会議室である。



 アリアは特別元帥服に身を包み王座に座している。



 ミタス、ナディア、ザールの三人はマドリード軍元帥服。三人が元帥服の袖に手を通すのはアリアの即位式以来だ。他、シュナイゼン少将、ペニトリー少将、レイトン大佐、レイス大佐、カルレント大佐、ミレイク=フォン=クリストフ親衛隊隊長中佐……これが軍部の参加者だ。


 重臣はグドヴァンス内務大臣、ガレット大蔵大臣、サザランド地方再生大臣、ナイレック=ウードル開拓大臣。ナイレットは革命戦後見出され抜擢された大臣で、庶民の出である。彼らは貴族用の公式正装で参加している。


 この13人が、現在のマドリード政府の重職にある者たちだ。


 書記官としてユニティア宮廷長、スファーリ=キドガン内務省書記官、スアレス=フォン=バードン軍務参謀少佐。この三人も宮廷、政治、軍事それぞれの高等官だが、公式会議では発言権はない。



 御前会議が始まった。



 通常御前会議の進行であり議長役を務めるのは宰相職なのだが、現在マドリードには宰相が置かれておらず女王執政だ。だからアリアが議事進行役も務める。


 まずアリアが御前会議の開催を宣言し、三つの案件を説明した。



 そして最初の諮問となった。



 通常、最初の意見を述べる栄誉を受けるのはもっとも信頼されている者かもっとも上位の立場にある者……ということが普通だ。


 三元帥か、それとも内務大臣のグドヴァンスか、大蔵大臣のガレットか……アリアが今一体誰を重視しているか……重臣たちは、アリアが誰を指名するか、密かに注目した。



 が……アリアが指名した人間は、上記の五人ではなく、意外な人物であった。



「グレントラ基地司令レイス=フォン=クロトクル大佐。卿は諸国の事情にも通じている。今回の三件に対して何か意見はありますか?」


「俺……ですか?」


 まさか最初の諮問に選ばれると思わなかったレイスは、驚きの表情で周囲を見回した。


 レイスは革命戦に参加したのは最後の最後で、新参組だ。能力はある。軍人ではあるが外交も出来る男で諸外国の情報にも通じている。このレイスとガレットは革命軍には属していないが元々持っていた能力によってアリアに引き立てられた。今ではその期待に負けない忠誠心と愛情をアリアに持っているが、それでも縁でいえばアリアと強い結びつきがあるわけではない。


 レイスは度胸の据わった男だ。すぐに「自分の知る限りの話ですが」と前置きし、説明を始めた。


 カルマル王国とバルド王国同盟関係は長く、その友好関係は100年以上続いている。カルマル王国がバルド王国を頼るのはさほど意外なことではない。そしてバルド王国はザムスジル帝国に次ぐ歴史ある大国である。とはいえザムスジル帝国の1/3ほどの国力しかないし、バルド王国自体もザムスジル帝国と国境を接し、敵対関係にある。しかし他の諸国と違って、バルド王国だけはまだそこまでザムスジル帝国に国土を荒らされていない。



「とはいえバルド王国もギリギリといったところでしょう。先年貴族評議会と結託したかと思えばアリア様に対しても友好の態度を見せているのは、帝国の脅威が軽視できんところまで来ている現われでしょう。だから今のバルト王国に、カルマル王国の難民を受け入れる余力はない。ザムスジル帝国にカルマル王国関係者を差し出さないのは、カルマル王国領に未練があるのでしょうな」


「バルド王国もまた、我がマドリードの力に期待しているということですか?」


「だと思います。<クグスの流民>の中渡しをすることで、バルド王国はマドリードとの関係を修復し同盟関係を結ぶ糸口を見つけたい……というところでしょう。カルマル王国は滅亡しましたが、無碍にはできんでしょう。多くの難民がバルド王国に流れ込んでいると聞いております。その数は30万とも言われています。これを敵に回したくないといったところでしょう。扱いを悪くすれば、この30万は途端にバルド王国を脅かす反国家勢力になります。下手をすれば旧カルマル王国80万の住民が全て敵になりかねません」


 バルド王国は先のマドリード貴族評議会宰相レミングハルト侯と通じていた。だが革命戦にあたりレミングハルト侯の援護や助力に動かなかったということは、マドリードのレミングハルト侯と結びつきたかったというわけではなく、単純に後方の安全を確保することが第一で、ザムスジル帝国こそが真の敵であると考えている事は明白だ。その方針は変わらない。


 バルド王国としては、レミングハルト侯が散ったのであればアリアの政権と連携できればと考えているのだろう。だからアリアの即位式にもバルド王国は友好の使者を出している。


「バルド王国だけは老練にして政治力をまだ残しているというわけか」


 ミタスが腕を組み呟く。

 バルド王国は国力もあり国の歴史も500年と長い。優秀な政治家や外交担当もいるのだろう。


「ですが元帥閣下。バルド王国はカルマル王国の亡命政権を受け入れるほどの度胸もない。だから一足飛びにマドリードに引き受けろ、という意図であると考えます。マドリードは体の好い番犬役といったところです」


 レイスは容赦なく言い放つ。



 しかしそれが現実だろう。



「御前会議」1でした。



御前会議編の前半です。

アリア様は軍議や意見交流会は頻繁に行いますが、女王執政制を執り、事実上宰相も兼ねているので、この手の御前会議はあまり開きません。通時は原則即断し、相談したい時は個人的に重臣たちは語り合い考えるタイプですし、重臣たちとの交流は頻繁にしています。なので全員集め、公式な場で意見を問う御前会議は今のマドリードでは珍しいコトです。ちなみにアリア様が師と仰ぐフイルさんも似たタイプですが、大陸連邦は定期的に会議があります。ただフィルさんはアリア様より寝技の政治が得意な天才です。


さて、着実にクリト・エそ大陸は戦乱に向かっていっています。

マドリードはどう道をいくのか。


平和が終わり、時代が動こうとしている!


不定期更新ですが、これからも「マドリード戦記Ⅱ」をよろしくお願いします。

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