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「マドリード戦記Ⅱ・女王動乱編」  作者: JOLちゃん
第一章
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「隣国の王子」

「隣国の王子」


アリアはこの日、隣国の王子と会食していた。

ログレスは隣国トメイル王国の第一王子で留学生だ。

今、このトメイルとは良好な関係が築けている。

そして、ログレスはアリアを師匠と仰ぎ尊敬していた。


***


 パラ暦2337年 5月1日。



 マドリード国内は、秋の収穫を得、国民たちは安心と安堵の吐息を吐き、ようやく訪れた平和を喜び合った。


 が……マドリード政府は安らぐ状態ではなかった。


 内政と軍事強化の安定は、この冬の間に整えなければならない。開墾や開拓を広げ、次の春に備えるのもこの冬の間だ。


 ただ、国内の安定と経済再生の過度期は過ぎ、アリアや重臣たちも多少息がつけるようになった。


 アリアは、この時期ようやく女王としての<外交>に手をつけはじめた。





***



 その日、アリアは一人の少年と王城ハーツティスにて昼食を共にした。



「中々お相手できなくて、申し訳ありません。ログレス王子」

「いえ陛下。お忙しいのに、僕なんかのためにお時間を割いていただき、感謝の極みです」


 ログレス=サウ=トメイル=ブラウは、まだ幼さが残る顔を綻ばせ微笑んだ。



 ログレスはマドリードの北にある隣国トメイル王国の第一王子で、4カ月前から王族交換留学生としてこのマドリードのシーマに滞在し、マドリードで政治や経済を学んでいた。これは友好と同盟の印しとして半年前両国の間で決められたもので、外交政策の一環としてお互いの王族を交換留学生として送っている。マドリードからはクリスが王女留学生としてトメイル王国に行っている。元貴族評議会外務大臣で、アリアに服し現政府に出仕することになった外務補佐官ガブリオス=フォン=クロムスト準爵と、護衛官サーサス=イキツ中尉が同行している。


「今日は私的な食事会です。<陛下>はよしてください」


 アリアは公的な行事を除いて、自分のことを<陛下>という敬称をつけて呼ばせない。ログレスはそのことを思い出した。


「僕のこともログレスと呼び捨ててください。今の僕は、ただの勉強生です」

「そうでしたね。ログレスさん」


 アリアは苦笑した。



 ログレス=サウ=トメイル=ブラウは、今年17歳の若い王子だ。だがこのマドリードに来る際、年齢を二歳偽り15歳と称した。女王であり教えを乞うアリアに遠慮して偽ったのだが、若々しく、背もアリアと変わらず大人しい少年王子だ。

 王族として驕ったところもなく謙虚で素直で、アリアもログレスを弟のように(実際は年上だが)接してきた。仲はけして悪くはない。


 ただ……ログレスはアリアを尊敬する事大きく、異性として接することは出来ないようだ。


 ログレスから見ても、アリアは容姿端麗で彼女ほど健康的で魅力的な少女は母国にもいないと思う。それに英雄というべき軍事と政治の巨大な才能があり、王子とはいえ異性として意識するなど及びもせず、ただひたすら尊敬するだけだ。そしてアリアも、同年代、同身分の少年とどう接していいかわからず、自然二人の関係は師弟に近かった。


 今日の会食は懇談のためと、お互いの国の話をすめため、ログレスが希望したものだ。



「実は、宰相オルゼ=レイ=クラーレンより手紙が届きました。そのご報告をしたくて」

「オルゼ殿はご壮健ですか?」

「はい。クリス様もお元気に過ごされているとの事です」



 ここで一人の人間を紹介したい。


 トメイル王国が誇る若き宰相オルゼ=レイ=クラーレン公爵である。


 彼はトメイルが誇る若き傑物である。英雄といってもいい。

 彼は父の跡を継ぎ24歳で公爵家当主となり宰相職も継いだが、彼は一種の天才で、幼少の頃より神童の名をトメイル国内に轟かせていた。政治と軍事、外交、全ておいて成果を発揮した。また個人としても一流の剣術とアーマー使いでトメイル国でも五指に入る。いわば貴族制度が生み出したエリートの傑物といえるかもしれない。


 その勇名はアリアも聞き知っていた。先年の革命戦に際し、アルファトロスを通じてオルゼ宛てに一度だけ信書を送った。革命を一年で終えること、内乱に干渉しないこと、見守ってもらえればその後友誼を結ぶ意志があることなど書いた。返事はなかったがトメイル王国はアリアの革命戦に際し傍観を決め込み貴族評議会に手を貸すことも、その期に乗じ侵略することもなかった。これは半戦国時代にあるクリト・エ大陸においては無形の友誼といっていい。現にトメイル王国はアリアの即位式の時何も言わず歓迎の使者を遣わし、しかもその使者がオルゼ宰相本人であった。ここまでアリアの政権に好意を示した外国はトメイル王国だけだ。王族の交換留学の話をまとめたのもオルゼでマドリード側は提案を受け入れただけだ。なので、アリアも多少オルゼ本人を知っている。その後アリアの経済活動とも連携し、多少余力のおこぼれをトメイル王国は受けている。


 だがそのトメイル王国の情勢はけしてよくない。


 マドリードとの交易で多少経済的余力と最新アーマーを手に入れることは出来たが、トメイル王国北部はザムスジル帝国の侵略を受け交戦中だ。トメイル王国がマドリードに対し好意を見せている最大の理由は、ザムスジル帝国の存在があるからだ。他の諸国も侵略を受けているので補給を受けることは出来ないし同盟関係を結ぶゆとりはない。せめて背後からの攻撃を防がなければトメイル王国も滅亡に突き進む。



 会食は和やかに過ぎる。


 二人の会話は主にログレスの勉強報告だ。

 ログレスは内務次官ミゼル=フォン=コルスベルトが担当している。彼はアリアに見出された男爵家の若き政治家で、アダや奴隷たちへの偏見もなく穏やかで堅実な青年だ。ログレスは若いのに希望は軍事ではなく内政家だったから、この処置は適切だった。そしてログレスにとっても貴族出身のミゼルとは馬が合い、よく講義をしてもらった。



 そんなログレスが、マドリード第一の人物として上げたのは、内務大臣グドヴァンスだった。



「僕に軍人の才能はありません。それにアリア様のように全てに秀でているわけでもありません。ガレット伯のような経綸の才も僕にはなさそうですし、ミタス元帥のように軍事や武芸に才能もありません。僕にとってアリア様は眩しすぎてとても参考になりません。ですがグドヴァンス殿は老練にして堅実、多くの経験を積まれマドリードの国務大臣として揺るぎなく国政に当たられています。僕のような凡人にとってグドヴァンス殿こそ我が指標です」


 それを聞いたアリアは嬉しそうに微笑んだ。


 グドヴァンスは元々アダの長老だ。

 彼はナディアのような武芸者ではなくザールのような軍略や外交力を持たず、新生国家を運営するような才覚はないが、何よりアリアに忠実で、国務大臣という要職に驕ることもなく、その経験の深さによって優れた事務処理能力でアリアの施政を支えている。誰もグドヴァンスを英傑だとは言わないが、マドリードを運営する上では欠かせない得がたい人材だ。他の若い重臣たちと違わず有能な人材でアリアの信頼は厚いが派手さはない。内政面ではアリアとガレットとザールの三人の手腕が際立っていて国民たちもそう見ている。


 国民に人気があるのはミタスとナディアだ。


 だがグドヴァンスの功績と働きをちゃんと認めてくれている人間がいたことがアリアは嬉しかった。

 このログレスは確かに軍事的才能はないかもしれないが、ちゃんと人を見抜く目は持っている。それが嬉しい。



「今度グドヴァンスとじっくり話をしてもらうといいです。彼の経験からは私も学ぶ事が多いですし、あの人は若者が好きですから。グドヴァンスには伝えておきますよ」

「ありがとうございます」

「私に出来ることがあれば何でも言ってください。私はいつでもお相手しますから」

「ありがとうございます。勿論、アリア様からも学びたいことは沢山ありますから」


 ログレスは嬉しそうに微笑んだ。

 その言葉も嘘ではない。ログレスにとってアリアはさらに高みにある存在で、同じ王族としても学ぶことが無限にある憧れの存在だ。その思いは愛や恋というより信仰に近かった。


 ただし、アリアはこの隣国の王子の純朴な想いに気づいていなかった。

 

 彼女は別のことに夢中だったのだから。



「隣国の王子」でした。



今回も政治話です。というか当分政治話です。

今回は隣国トメイル王国についてちょっと触れました。

トメイル王国ハマドリードの三倍の国土があり二倍の国民がいますが、今ザムスジル帝国の侵略を受けています。国防軍は上ですが、機動軍はマドリードのほうが上なので、国力の戦闘力はマドリードが上になっています。


今回覚えて欲しかったのは、このログレス王子と、ちょろっと出てきた宰相オルゼです。

この二人が「女王動乱編」の重要な存在になっていきます。


そして次回もまたアリア様の恋についての話と政治の話になります。

それだけフイルさんの影響が大きいわけですね。

今はまだ平和なマドリードですが、戦争の足音は確実に近づいています。


これからも「マドリード戦記Ⅱ」をよろしくお願いします。

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