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「マドリード戦記Ⅱ・女王動乱編」  作者: JOLちゃん
第一章
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「もう一人の偉大な天才」

「もう一人の偉大な天才」



アリアは恋をしていた。


その相手はクレト・エ大陸の人間ではなかった。

フィル=アルバード。

ソニアの公皇子であり第一次大戦に出現した巨大な天才であり英雄。

この巨大な天才を理解したアリアも、また天才だった。

***



 そして、今アリアは女王の職務以外に唯一熱中していることがある。


 読書であり、勉強だ。


 ベルセリクで手に入れた『現代君主論』と『アーマーの理想戦術論』。そして大陸連邦からの移民ガルゼンフ=アドーに頼み込んで手に入れてもらった新書の『機動戦略理論』だ。他にも過去の著作も手に入れた。



 作者は全てフィル=アルバードだ。



 戦争が激化したため、フィルは執筆作業を止め軍務に集中したので、本が新しく出ることはなかった。


 だが、フィルが最後に世に出した『機動戦略理論』は、アーマー戦に関わるものにとってもっとも重要な本であった。この本にはフィル=アルバードが構想したアーマー戦略と戦術の多くが記されている。フィルはこれを反帝軍の機動部隊指揮官に教科書として配布した。これこそフィルの深慮遠謀であり、反帝軍の戦闘力向上のための策でもあった。この『機動戦略理論』を配布することで、フィルは自身の戦略意図を多くの機動部隊指揮官に把握させ、一アーマー部隊の部隊長であるフィルとの連携作戦遂行を容易にさせた。いわばアーマー戦術の共通教科書である。


 ただし、難解でもあった。


 内容は全てフィルの頭脳の中で構成されたものだ。過去の歴史を参考にした軍略本とは違う。これまで行われたことのない理論や戦術も多く、運用者にも一定の才能を必要としている。全てを理解しているフィル自身が加わるのならばともかく、他の人間にそれを実行させるのは難しい。


 だがフィルはそれでいい。


 要は自分が指揮を取るとき、『機動戦略理論』を知っていてもらえるとフィルが新戦術を命令しやすいからだ。


 フィルはこの時、反帝軍での階級は中尉だが、大国ソニア唯一の公皇子でもありソニア公国軍の統帥権を持ち、反帝軍内でも公皇子としては上位中将待遇の扱いを受けている。フィルが中尉でいるのは本人が反帝軍ナンバーワンのエースパイロットであり前線の部隊勤務を望んでいるからで、実際は中将までなら本人が望めばいつでもなれる。そういう特別な軍人だ。だから中尉ながら他の機動部隊と共同することもあるし命令を下すこともある。その時有効に働くように配った教科書が『機動戦略理論』だ。


 しかしその内容の難しさから、優秀な反帝軍の機動部隊の指揮官やエースたちでも、その内容の真意を半分も理解できたものはいない。簡単な運用論もあるが、完全に新規の戦術もあり、その真意はかなり難解だ。なんとかこの『機動戦略理論』を手に入れた帝王軍も、その難解さに反応に困った。中には嘘のように簡単勝利する方法なども書かれているが本当か? いや、それより恐ろしい事実が二つある。一つはフィル本人であればこれを容易に実践し勝ってしまうという事。さらに恐るべきは、フィルが部下に言った一言だ。


 こんな本を世界にバラまけば、フィル自身の戦術は丸裸で対処されるのではないか、といったときだ。

 フィルは笑って答えた。



「この本に書いたことは私の構想の半分だ。これを理解して対処されたとしても私は困らない。その対処法までは書いていないからな。だから、私は困らない。私の戦略を理解した敵が現れたら、私が出向く。そして打ち破るから心配はいらない」



 どれほどの智謀か……反帝軍も帝王軍も、フィル=アルバードの底知れぬ才能に、むしろ恐怖を感じたという。



 この『機動戦略理論』……大陸連邦で半分も理解できた者は10人もいないといわれている。それでもその10人は第一次大戦で多大な戦果を上げた。大陸連邦でこの『機動戦略理論』を完全に理解するのは、英雄アーガス=パプテシロスの登場を待たなくてはならない。



 だがここに、アーガス=パプテシロスより早く、フィルの構想と真意を理解した者がいた。


 その人物こそアリア=フォン=マドリード=パレであった。


 元々アリアも機動戦略に強い興味と構想力を持っていた。そこにこの『機動戦略理論』の存在があった。


 アリアにはフィルの構想が手に取るように理解できた。だけではなく、アリアの知識と発想をさらに次の段階まで飛躍させた。驚くべきことに、フィルはアリアがたどり着いた先にも独自の理論は待っていた。知識に対し貪欲な欲求を求めていたアリアにとって、この知識は感激であった。



 ……この人は、新しい時代の戦争の方法を知っている……!



 だけではない。この人は、新しい時代の到来を伝えようとしている。



 アリアにとって、フィル=アルバードの著書は、教科書以上のものだった。


 アリアは何度も読み、その真意を探り、フィルの思考を理解しようと考える。軍事だけではない。フィルは軍事を語りながら政治や哲学、指揮官……いや、王としての心構えや在り方も説いていた。そこに気づいたのは、アリアも王という同じ境遇だからだろう。


 王としての見識と哲学の高さは、今のアリアよりフィルのほうが一段先を進んでいた。


 信じられないことに、フィルはまだ王位に就いていないのだ。経験ではなく全て彼の頭の中で創造されて完結されている。


 アリアにとって、フィルは実際に対面こそしていないが、何より掛け替えのない師匠であった。



 いや、その没頭具合は師弟というレベルではなかった。



 アリアは恋をしていた。


 それも当然かもしれない。フィルはアリアより僅か一歳年上の若い公皇子で、共に王族で、祖国を守るため軍人になっている立場も近い。今のアリアの立場を理解しあえるのも、おそらく世界でフィルだけだろう。

 二人は共に常人離れした天才であるが故、他の人間とは心の底から理解しあうことは出来ない。

 その事はアリアにとって寂しく、誰にも言わないが強烈な孤独を感じざるを得なかった。確かにミタスやナディア、ヴァーム、ガレットはそれぞれの分野においてアリア以上の能力を持っているが、<王>ではない。<王>としての才能を共有しあえない。


 だがフィルだけは違う。


 フィル=アルバードもまた王であり、アリアとほぼ同じ境遇にある。アリアはこれまでの人生で、初めて尊敬できる自分より優秀な先輩であり同志を見つけたのだ。その事実が、アリアの心をときめかせた。



 アリアは16歳……恋に恋する年頃だ。



 だが出会うことすら出来ない二人であり、フィルはアリアを知らない。



 だからアリアの恋とも呼べない恋は、ひっそりと胸に秘められたものだった。



 もっとも、信頼する三元帥にはその事を知っていたが。




「もう一人の偉大な天才」でした。



実は「マドリード戦記」の作中、フィルさんは一度も登場しません。

ざすが、今後フィルさんの名前は頻繁に登場します。主にアリア様の師匠として。

とはいえ実際に教えを受けてはいないんですけどね。

ちなみにフィルさん、銀髪の超美形です。アリア様が見た目で恋をするようなことはない……とは思いますが、まぁアリアさまも女の子ですし見た目が悪いよりはいいほうが乙女心は刺激するでしょうね。

しかしフィルさんも天才過ぎて女性をまともに愛する事ができなかった人なので、その意味では本当にアリア様と出会っていたら世界の運命と二人の運命は大きく変わったと思います。さすがに大陸が違うというのは障害としては大きすぎますからね。


まだしばらくアリア様の日常施政編です。


しかし激動の戦国時代は目前!

これからも「マドリード戦記Ⅱ」をよろしくお願いします。

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