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「マドリード戦記Ⅱ・女王動乱編」  作者: JOLちゃん
第一章
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「新生国家」1

「新生国家」1



アリアによって直接運営されることになったマドリードは変わった。

大陸連邦への留学によって得られた知識を存分に振舞うアリア。

これによって国力と経済は、革命前とは比べ物にならないほど成長する。

国家は完全に生まれ変わっていた。

***


 パラ暦2337年 4月1日。


 マドリード王国首都シーマ 王城ハーツティス。



 アリア=フォン=マドリード=パレは16歳となっていた。



 華やかで、凛々しく、初々しい若すぎる女王は全国民から愛され、そしてその優秀さは国民にとって誇りであった。


 アリアの治世は、まだ一年である。しかし僅か一年で、マドリードは生まれ変わった。


 マドリード国軍は24万にまで増員した。ほぼ倍だ。


 むろん半分以上は解放されて職を失った奴隷やアダたちで、没落貴族の子息たちも混じっているし、外国から流れ込んだ難民の就職先としての受け皿が主に軍であった。


 アリアは軍を拡大させた。軍備も拡大させたが、けして国を軍事国家に変貌させたのではない。アリアは軍人を、いわば万能の公務員とし、あらゆる事業の協力に繰り出させた。



 開墾、農業、舗装事業、建築事業、開拓事業、商業事業……あらゆる分野に軍人を派遣し、使った。人員だけでなく、それら活動にアーマーや飛行戦艦も惜しげもなく使った。



「訓練だと思ってください。アーマーも人の運用も全て軍事訓練の一環です」


 それがアリアの主張だ。


 兵士たちには給料が支払われるし、衣食住の保証も確約されている。

 だから飢えることはなく、仕事を得られた人々は熱心にそれらの活動に従事した。この安く高い忠誠心を持つ労働力によって、マドリードの国力は一気に回復した。軍が戦争だけでなく公共事業で役に立つことは大陸連邦の実例を調べてアリアには分かっていた。大陸連邦は民間業者も事業でアーマーを使っていた。さすがに民間にアーマーを授けるゆとりはないが、それならば軍属のアーマーを使えばいい。発想の転換だ。これが他国や平時であれば兵士たちも不満を感じたかもしれないが、未だ軍はアリアに忠誠高く、皆アリアの国家に対する愛が深く、アリアの国のため喜んで労働に従事した。

 むろん空いた時間には軍事訓練も怠らない。


 軍人にしたことでいい点もある。命令系統と責任者が市民たちの目から見ても分かりやすく、規律は厳しい。ここに貴族特権はなく働きによって階級は決まる。外国の上級軍人の亡命は別だが、前職や身分が何であっても基本いきなり士官にはなれない。その平等さが兵士たちにはいいモチベーションになっていた。


 アリアは軍人気質を持ち軍の美徳や規律と道徳を愛した。ただし甘やかす事はせず、軍が権力を嵩に傲慢な行為を働いたときは公平に裁いた。


 その事がより国民の支持を受けた。


 軍が傲慢に走る事はない。統治者のアリア自身生活は厳格だし、ザール、ミタス、ナディアといった元帥たちも軍律には厳しく腐敗の要素は一欠けらもない。


 こうしてアリアは国の再建を目指すと同時に、農業生産と商業を急務で進行させた。


 これこそアリアの政治の真骨頂であった。


 マドリード国内の消費以上の食料の生産を、急に押し進めた。



「何があっても飢えさせない」


 それがアリアの基本方針だ。


 だけではない。近隣諸国から、余力のある限り食料を買い込んだ。



 ここ数年、気候はよくクリト・エ東部は豊作が続いている。そして諸国は続く戦争のため金が必要で、マドリード政府の要求に喜んで応じた。彼らは必要以上に食料を集めるマドリードの意図が分からなかった。



 ここにアリアの天才的な政治力が秘められていた。



 アリアは自国が消費するために食料や物資を集めたのではない。そのほとんどを輸出したのだ。


 輸出先はクリト・エ大陸ではない。大陸連邦とその属国……観光と経済でありたつ都市国家オストレリア、属領マルドレイク、そして大陸連邦本土へだ。


 アリアは短い留学で、北の大陸の内戦……第一次世界大戦が空前の規模になるであろう事を予見した。


 そしてクリト・エ大陸と違い、北の大陸は不作傾向にあり物価が値上がりの傾向にあることも現地で確認した。秋が不作となれば恐らく大陸連邦の生産力は低下する上、冬には戦争は激化し消費は激しくなるだろう。当然食料を含めた物資は厳しい状況になる。そして食料を完全に大陸連邦に依存しているオクステリアはより枯渇する。東の半島にある属領マルドレイクも同様だ。食料は戦地に率先して送られる。大陸連邦は兵士の権利や兵站管理には徹底しているから飢えさせはすまい。


 好都合な事に、両大陸は北半球と南半球に分かれ、季節は逆だ。大陸連邦が消費の冬を迎えたとき、マドリードは豊穣の夏を迎える。


 マドリードはその隙に乗じ、輸出事業で一躍財を得る。それが、アリアが見出した一発逆転、跳躍の政治だ。



 このアリアの狙いは当たった。



 オクステリアも大陸連邦も、内乱にソニアが参戦した事で一気に消費が増大し経済を圧迫した。その補給によって後方というべき大陸連邦東部諸国の物資は軍に優先的に回され、民間の生活は一気に悪化した。


 その絶妙なタイミングでマドリードの輸出があった。大陸連邦もオクステリアも背に腹は変えられずその申し出を受け入れた。普通なら簡単に輸送できない距離だが、マドリードには飛行軍用戦艦が三隻あり、それを惜しげもなく商用に使った。最新鋭の大型戦艦<アインストック>や、新型戦艦<エミリオン>は並の輸送船以上に物資は乗るし速力もある。軍艦だから空賊に襲われる心配はないし兵士たちの操艦練習にもなったからマドリード軍にとっても一石二鳥だ。そして同じ輸出産業にアルファトロスも便乗したので輸送は膨大な量を迅速に運ぶことが出来た。

マドリードとアルファトロスは第一次世界大戦の戦争特需に見事に乗っかり、最大限に利益を得たのだ。


 これには大陸連邦やオクステリアにコネのあるヴァーム、ガレットの才覚が最大限発揮された。アリアを入れたこの三人の戦争商売は三人の有能な才覚と絶妙なタイミングによって、僅か1シーズンでマドリードとアルファトロスに巨万の富をもたらした。



 こうしてアリア……マドリード王国が得た国益は27億マルズ。これまでのマドリードの国家予算の約6倍だ。マドリードで安く作り、クリト・エ諸国から安く買い、大陸連邦で高く売る。そしてその利益でアーマーやフェスト合金製の剣などを購入にクリト・エ諸国に5倍以上の値で売るのだ。こんなにボロい商売はない。もちろんこれにはアリアの才覚だけではなく、商売に長けたガレット伯とヴァームの協力があってのことだ。特にガレットはオクステリアを知っていて商会支部を持っていたから彼女の活躍は大きい。


 こうして得た利益のうち1/3はプールし、1/3はそのまま経済用として活用、残り1/3はアリアが国内整備のため使った。



 1/3……というが、これまでの国力の3倍以上だ。


 そして1/3は惜しげもなく国民の撫育、都市整備、開墾に使った。



 政府による医療施設の開設。月に一度の市民への施しや祭りの実地。官営入浴施設の建築など、惜しげもなくアリアは実行した。人手には軍を導入したし、民間業者も使った。こうしてマドリード国内の経済は一気に回り、貴族評議会の圧政で餓死寸前だったマドリードは甦った。



 僅か一年の業績だ。

 むろん、アリアだけの功績ではない。


 女王による直接執政であるため、アリアの多忙は語りきれぬものがあったが、多忙なのは彼女だけではない。有能な重臣は、仕事の山に追われ多忙などというものではなかった。


 特に政府事業の半分以上が軍によるものであったため、三元帥……ミタス、ザール、ナディアの忙しさは昼夜を問わず、三人は目が回るほどの仕事量を持っていた。ミタスは内政、ザールは商務と外交、ナディアは機動部隊の運用と開墾事業の面倒を見ていたので、内実大臣と変わらない。他にシュナイゼンやレイトンといった若く有能な上級軍人も軍務以外の仕事をやる羽目になり日々休まる暇がない。


 <英雄に休息なし>という言葉があるが、まさにこの通りだ。


 文官では大蔵大臣であるガレット伯爵婦人、グドヴァンス子爵内務大臣は、アリアの信認厚く自由な裁量も与えられているため、その多忙は類を見ない。特にガレットはアリアと共に輸出産業と国内経済を担っているから、もしかしたら三元帥より忙しいかもしれない。アリアにとって先の革命でガレットという経綸の才と知遇を得られた事が最大の戦果であったかもしれない。



 有能な人間は最大限使い切る。それがアリアの方針であった。


 そして、それがアリアの重臣たちに対する愛でもあった。


 重臣たちも、それがアリアの愛情であることを知っている。アリアは重臣たちを信じるから仕事を授けるのだ。重臣たちは積み上げられた仕事の量が、アリアが自分に抱いている愛情だと理解しているし、それが喜びでもあった。文句をいう者は誰もいない。


 第一どれだけ仕事量があっても、その誰よりもアリア自身が仕事を抱えている。文句などいえるはずがなかった。




「新生国家1」でした。



今回はアリア様の一年間の政治活動の話です。

ほんの二週間の大陸連邦留学旅行の成果がすごく出ています。(前作参考)

奴隷解放も全て国が責任をもつことで、安い労働力に変えました。

タイミングも、丁度大陸連邦が空前の内戦……第一次世界大戦に突入したので、戦争特需に乗っかった形ですね。

こんなにうまくいっているクリト・エの国家はマドリードだけです。

この国力の豊かさが、後々戦争に巻き込まれる遠因となってしまうわけですが。もっとも弱いともっと早く自由りんされて終わりです。

ですが今のところ、まだマドリードにザムスジル帝国は近づいていません。

しばらくアリアの施政話の後、世界が動き出していきます。


これからも「マドリード戦記Ⅱ」をよろしくお願いします。

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