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「マドリード戦記Ⅱ・女王動乱編」  作者: JOLちゃん
第一章
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「夕食会」

「夕食会」


アリア、帝国の宰相を迎え夕食会を開く。

そこにはアリアらしい誠意と、政略があった。

帝国宰相は、それを静かに洞察する。

***



 夕食会は王宮の貴賓室で開催された。


 ごくありふれた食事会で、ホストはアリアとナディアとザール。客はカミスラ宰相とシア、レクス両将軍の6人だけだ。華やかな女性の給仕も場を賑わせる音楽家もおらず、普通の使用人たちが給仕を担当している。


 さすがにアリアは服を着替えていたが、上質だが、ごくありふれたドレス姿で、随伴する二人は軍服だ。一方ザムスジル帝国側は正装のままだ。



 しかし、料理は、帝国側が想像していたものより遥かに豪華だった。



「ザムスジル帝国は国土広く、文明も豊かで美味しい料理が色々あるでしょう? でも、海は遠いと思い、今回は新鮮な海の幸を楽しんでもらう事にしました」


 アリアは笑顔を浮かべ、並べられた料理を説明する。



 プレ鯛のレモンソース、コゴル貝とブリエビのスパイス・サラダ、カロールエビとゴロムカサゴのトマトシチュー、マドリード豚のローストカツレツ、南国のフルーツサラダなどだ。



「美しい。珍しい料理ですね。これがマドリードの郷土料理ですか?」

「ローストカツレツ以外は、オクステリアの料理です。調理したのは大陸連邦の人間です」

「ほう……オクステリア。確かにザムスジルでは滅多に口に出来ないご馳走ですね」


 南海の観光都市国家オクステリア。大陸連邦の属領で、クリト・エ大陸の北東の大海にある。クリト・エと大陸連邦の中間貿易で栄えている都市国家だが、クリト・エ大陸西部を支配するザムスジル帝国とは接点がない。



 食事会は和やかに始まった。


 基本アリアとカミスラが雑談を交わし、各々の随員が時々意見を言う。



「ザムスジルでは魚より肉を好みますが、この海鮮は素晴らしい。鮮度もいいですね」

「魚は今朝クレ湾で獲れたものを空輸しました。ですから鮮度は港町で食べるのと変わりはありません。それがオクステリア風の味付けと素晴らしく合います」

「ですね。どれも刺激的で素晴らしい味だ。ほう、空輸で当日に」


 何気ない会話のようだが、すでに政治戦は秘かに始まっている。


 アリアはただ物珍しいから、オクステリア料理を出したのではない。マドリードは、それを行えるほどオクステリアや大陸連邦と取引があることを示唆している。しかも料理人が大陸連邦人というのは、クリト・エでは驚愕すべきことだし、大陸連邦を最大の仮想敵国としているザムスジル帝国にとって、この事実は容易ならざることだ。


 さらに朝獲れた海鮮物を夕食の宴に使うには、半日で輸送しなければ出来ない。鉄道輸送や民間飛行輸送船では無理だ。エルマ粒子エンジン搭載の戦艦でなければできない。民間にエルマ粒子船はないから、アリアは使節団歓待のため戦艦を飛ばしたことになる。もてなしの心として大変な気遣いであり、同時にマドリードにとってエルマ式戦艦をいかに修練しているか、この一事でわかる。誠意と武威を、さりげなく同時に披露している。


 聞くところによれば、マドリードは最新式のデュアル級戦艦を有し、他に最新鋭戦艦を一隻、エルマ式戦艦を3隻保有しているという。さらに保有アーマー数は100を超える。人口が150万、常備兵力15万の国力を考えれば、1師団(この当時のクリト・エでは基本約2万)の戦闘力は他のクリト・エ諸国に比べ抜きん出ている。それでいて軍事大国ではなく、この国は経済大国の道を進んでいるのだ。


 そして、何より指導者である女王は、まだ幼いといっていい若さだが、聡明で卓越した政治手腕を持っている。




 ……この女王は、歳と顔に似合わず、意外に好戦的か……?



 カスミラは、料理を楽しみながら、心中ずっとアリアの挙動を観察し続けている。



「そちらの両元帥が、高名な<三元帥>殿であられるか?」


 シアが口元についたソースを拭いながらナディアとザールを見る。

 ザールは笑みを浮かべ小さく頷き、ナディアは食事の手を止めて一礼した。


「まだ若いのにすごいこと。確かもう一人いたと聞いていますが?」


 今度はレクスが言った。


「はい。ミタス元帥がおりますが、多忙でこの席に呼ぶことが出来ませんでした。申し訳ありません」


 アリアが答える。


 レクスは微笑を浮かべ、ザールとナディアをもう一度見た。


「そちらの女性……ナディア元帥? 貴方は強そうね。気配で分かるわ。ザール元帥……貴方は……軍師系といったところかしら?」

「そのようなものです、レクス将軍」とザール。

「お国で一番強いのはどなたなのかしら? 私、強い人間が好きなの」

「ミタス元帥とナデイア元帥は一騎当千の戦士にして卓越した戦術指揮官です。ザムスジルの軍人の方とも話は合うと思いますよ?」

「そう? それは楽しそうですが、私は帝国にて伯爵位を頂いております。貴族の方でお強い方はいらっしゃるのかしら?」


 一瞬、マドリード側の手が止まった。


 だが、すぐにアリアは笑顔で答えた。


「我が軍には貴族出身の優秀な軍人は沢山おります。ですが、ザムスジル帝国の方は皆様勇猛で優秀ですし、家柄より実力を好まれる国風だと聞き及んでおります。そういう点は、私の主義と近しい、と親近感を持っていますよ?」


 レクスの挑発を、アリアが上手くいなした。相当アリアたちは問答を研究してきたのか、アリアは全て想定しているのか、全く動じないし、挑戦に挑戦で返すような稚気もない。


「成程。滞在中、そのミタス元帥とも話ができれば、二人も喜びましょう」


 と、カスミラが話を打ち切ったので、この話はそれ以上深みには進まなかった。


 食事が終わり、食後酒とデザートが並び終えたとき、カスミラが身を乗り出した。


「公式な会談は明日の昼ですが……アリア陛下」

「はい?」

「今晩、お時間はありますか?」

「何でしょう?」

「たいした用ではありません。私は酒が好きで、毎晩ワインを一本飲まないと眠れない、厄介な人間なのですが、雑談の相手がほしいのです。よろしければ、陛下にお相手を願えないかと思いまして」

「私は未成年で、お酒はあまり」

「構いません。話し相手が欲しいだけです。別にベッドまで付き合ってくれというわけではありませんよ? ナディア殿でもザール殿でも構いませんが、私は政治家で軍人ではないので、軍人の血生臭い自慢話より、高度な政治学や経済学について意見をお伺いしたいと思ったまでです」


「…………」


「陛下は若いながら、とても斬新で優秀な政治家だと聞いておりますので。もちろん、陛下のような美しい方と一緒に飲む酒は特別美味しいのも理由にありますが?」


 カスミラは微笑を称える。横で聞いていたシアとレクスは内心自国の宰相の好きぶりをあざ笑いたい衝動に駆られ、二人共なんとか笑うのを我慢した。カスミラは帝国でも女蕩らしの女好きで有名な男だ。悪い病気の虫だ、と……言葉にする寸前を耐えた。


 それに初心で何も知らないが、聡明な女王がどう対応するか見物だ。



 アリアはしばらく考え、「一時間くらいなら」と答えた。



「ありがとうございます」

「ただし、条件があります」


「何でしょう?」


「お付き合いするのは、私一人です。あくまで私が私人として、お相手させて頂きます」


「願ってもない。私も無粋な将軍たちは同席させないようにしましょう」

「あと……雑談は構いません。色々私も政治の話はしたいです。ですが、その場では一切の約束事はしない、外交の話はしない、明日の会談に差し障るような討論もしない。ただの雑談会です。それでよければ」

「ほう」

「どうですか?」

「……お願いいたします、陛下。では今夜10時、我が貴賓室にお越しください」

「分かりました。では最上のワインを手土産に、お伺いさせて頂きます」


 そういうとアリアは微笑み、静かに食後のコーヒーを口に運んだ。



 二人の政治家の腹の探りあいは、すでに始まった、といえる。






「夕食会」でした。



アリア様の大陸連邦留学の成果が出ていますね。

そしてカスミラ宰相が洞察するとおり、ちょっとしたことにまでアリア様の政治が潜んでいます。

なんだかんだ、アリア様は人蕩らし系の英雄です。賢い相手に対してのほうが強いですね。今回の接待も、相手が馬鹿だと通じない政治の技です。


帝国が何を考えるか……それはこれからです。

しばらく政治編です。


これからも「マドリード戦記Ⅱ」をよろしくお願いします。

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