レイラ・ディルグレイ
レイラ・ディルグレイ
二十歳
魔法がとても発展している国、セントブルグで、上流貴族ディルグレイ家の長女として産まれる。幼い頃から魔法や体術など多くの事を習わされ、英才教育を受けてきた。
今はこの町一番大きな学校、アルガード魔法学校に5回生として在学中である。また学校に行きながらも、自身の向上のため週末はギルドで仕事をしている。そして今日もギルドに来てクエストボードの前に立ち、仕事を探していた。
「……………」
「あら、レイラちゃん。また来てるのね。仕事熱心なのもいいけど、あまんまり無理しないでね」
「大丈夫だよマスター。私は体調を崩したことがないのでな」
「あらあら、それはいいことね、ふふふ」
レイラに話しかけたのはこのギルドのマスター、ナミ。金色の長い髪を後ろで束ねている。年齢は二十歳過ぎに見え、整った顔つきをしている。
「マスター、何かいい仕事はないか?」
「うーん、そうねえ。……こんなのはどうかしら?」
そう言って1枚の依頼書を手にとって見せるマスター。
「村を襲うバギュラの討伐。20万ギル。……少し報酬が高くないか? バギュラの討伐は普通高くても10万ぐらいだし。何かあるのか?」
「その通り、さすがレイラちゃん。村人の話ではね、今回のバギュラはいつもと違うらしいの」
「どういう風に違うのだ?」
「バギュラって普通1m程の小型の魔物でしょ? けど、村を襲ったバギュラは、3mは越えていたのだって。しかも魔法を使ってきた」
「なに? バギュラが魔法だと?」
「どう? 気に入った? ふふ」
にっこり微笑むマスター。
「…そうだな。依頼を受けてみる価値はありそうだ」
「オーケー、それじゃ依頼受理しておくね」
「ありがとうマスター。準備はできているから、今から行ってくる」
「はいはーい。気をつけてね~」
レイラは依頼主に詳しく話を聞きに行き、そしてその襲われた村に向けて出発した。
バギュラ討伐はDランクに部類される。体長は1m程だがその性格は至って狂暴。単体の力はそれほど強くないが、普段3~5匹の群れで行動しているため、倒すのが難しくDランクとなっている。
依頼にはG~Aまでのランクがあり、Aに行くほど難しくなる。Aの上にはSクラスが存在するが、これは選ばれたほんの僅かな一部の人間にしか受ける資格が与えられていない。
「……あり得ん」
依頼主に話を聞いた内容を思い出す。村人を襲ったバギュラは一匹だけだったが、物凄く大きいらしい。さらに風魔法まで使ってきたというのだ。
魔物も魔法を使うことはあるが、それは高位な魔物だけである。バギュラみたいな下位な魔物が魔法を使ったというのが、特に信じられなかった。
……突然変異でもしたのか?
「考えても仕方がないか…。村人のためにも、早くバギュラを倒すとしよう」
生き残った村人は皆、この町に避難してきているらしい。皆、早く自分の故郷に帰りたいだろうな。よし、ここは私がなんとかしてみよう。
こうしてバギュラの討伐の依頼を受け、この辺境の地にやってきたのだ。
「はぁ…」
それがどうしたらこういう結果になるのだ…。バギュラは何とか討伐できた。だが問題は他にある。
バギュラに襲われているこの男を助けたのはいいものの、コイツは違う世界から来たとか訳がわからない事を言い出した。状況証拠が多々あったので今は言い分を信じているが、それを信じてしまうと、私個人の考えではどう対処したらいいのかわからなくなった。
マスターなら何とかしてくれると思ったので、コイツを連れてギルドに向けて出発した。今は山の中腹で休憩している。辺りはもうすっかり真っ暗だ。
「はぁ…」
「レイたんどうしたため息ばっかりついて。お腹痛いのか? 生理か? 生理か? 血いっぱいなのか?」
「死ね!」
「おぶしっ」
……また殴ってしまった。
この男、顔はそこそこいいものの、デリカシーに欠けるところがある。それに馴れ馴れしい。ムカつく。
「なぁなぁ、レイたん」
「……………」
「無視すんな、レイたん」
「うるさい、黙れ」
「相当生理がキツいのか?」
「もぅ1回死ね!」
「ぶぼぉっ」
はぁ…。コイツといると疲れる。どういう生き方をしたらこのような品性のない馬鹿に育ってしまうのだろうか。
「ぐふっ……レイたん…ナイスパンチ…」
「もう黙ってろ、疲れる」
「わかった、わかった。黙るからさ。それでな、レイたん」
「おい」
「ギルドってところに、後どれだけで着くんだ?」
「珍しくまともな質問がでたな…。あと半日はかかる。明日の昼頃には着くんじゃないかな」
「え? まさかの今日は野宿っすか?」
「ああ、そうなるな」
そう言って、私は魔法空間から食料を取りだして食べた。この魔法は食料まで入れて保存できるのでとっても便利な魔法である。
「…俺の分は?」
「自分の分は自分で獲ってこい」
「えぇぇ!? 漫画あげたじゃん!お返しに飯くれよ!」
「それとこれとは別だ!自分の事は自分で何とかするんだ!つべこべ言わずさっさと行ってこい!」
「……鬼。恩知らず。わからず屋。鬼。くそばばあ」
「あぁ!?」
「いってきまああああああす!」
槍を出現させたら勢いよく飛び出していった。まったく、始めっからそうすればいいのだ。
今日あった出来事をしばらく考えていた。ユウが食料を獲りにいってあれから1時間がたった。食事は終わり、木に身体を預けて星を眺めている。
はぁ…、なぜかあの男には感情的になってしまう。どうしたものか。食料なんてくれてやればいいものの…。いや、アイツがバカなのがいけないのだ。それよりも少し遅くないか?何をやっているんだまったく。私もついていってやるべきだったな。
そんな事を考えていた時、すぐ近くの草むらでで物音がした。反射的に腰に取り付けていたナイフを投げてしまう。
「ぎゃぁ!」
しまった!いつもの癖でナイフを投げてしまった!今の声はアイツに違いない!
「何すんだよ!腕にかすっただろ!」
そう言って草をかき分けて出てきた奴の腕には大量の果物があり、腰から伸ばしたロープの先には息耐えた獣の姿が見える。
「なんだ、大丈夫じゃないか」
「バカか!一歩間違えば死んでたぞ!」
「とっさとは言え、私は急所を狙ったんだぞ?生きている方が不思議だ。生きているのだから別に良いではないか、小さい男め」
「ぐぅ………いつかぼこぼこに……いつかギャフンと……ぶつぶつ」
「何をぶつぶつ言っている。はやく食べないのか?」
「言われなくても食べる。こっちは腹へってんだよ。あ、火を起こしてくれねえか?」
「はぁ…仕方がないな、少し離れていろ」
木を集めて魔法で火をつける。
「………」
「なんだ、どうしたんだ?」
「いや、やっぱ魔法って便利だよなぁて思ってな。いくつ魔法が使えるんだ?」
「ふっ、さっさと食べろ」
「ぐぬぬ、調子に乗りやがって」
「ほぅ、火を起こしてあげたのに何か文句があるのか?」
「いいえ、なにも無いです!黙って食べます食べます!ありがとうございました姉御!」
いちいち文句ばかり言う奴だが、こんなに食べ物を獲ってくるとはな…。思ってたよりも根性がある奴なのかもしれんな。がむしゃらに食べているユウをそっと見てみる。よほどお腹がすいていたのだろうか、がっついていた。あ、喉に詰まらした。
「ゲホッゲボ、みず…」
「ほれ、今日お前が汲んできた水だ」
「ごきゅ、ごきゅ、………た、助かったぁ。ありがとうレイたん」
「急いで食べすぎだ。焦っても食べ物は逃げていかないぞ?」
ふふ、可愛いところもあるんだな。……って何を考えているのだ私は。こいつは変態だ、毒されるな。
「ふぅ~、食った食った。ご馳走さん」
骨だけになった獣の残骸と果物の食べかすが散らばっている。コイツの胃袋はいったいどうなっているんだ。
「よく食べるんだな」
「まぁな、相当腹が減っていたしな」
「そうか、それは良かったではないか。それじゃぁもう私は寝るからな。変な事をしたら……わかってるな?」
木を背もたれにして目を閉じる。
「はいはい、わかってますわかってます。それに俺、彼女いるしな」
なにっ!こいつ彼女がいやがったのか!それなのに私に向かってハレンチな事を散々言ってきやがって!いつか根性を叩き直してやる!
「俺ちょっとトイレいってくるわ。……ってもう寝たんかよ早ぇ。まじパネェ」
勿論まだ寝ていない。さっさとどっかいけ。
それから30分たってもユウは戻って来なかった。
…いったい、トイレに何分かかっているんだ。
目を瞑っているが、まだ起きている。意外と心配性なのである。
ふぃ~とすっきりしたような表情でユウが戻ってきた。やっと帰ってきたか。まったく、何をしてたんだ。
「お、もぅ完璧に寝ているなコイツ。いっちょ落書きでもしてやるか」
お前が遅すぎるからまだ寝てないんだ。というか落書きした瞬間に殺す。
「それにしても、やっぱ綺麗な顔しているよなぁ」
なっ、またコイツは!
「でも、今日はマジ嬉しかったなぁ。この世界に人がいるなんて思ってなかったし。結構心がズタズタだったんだよな俺。お前が今日は現れてくれてマジで嬉しかった、しかも命まで助けてくれたし。……ありがとうな。もしお前に何かあった時、俺は命を張ってでも助けてやる」
なっ………
「て、聞こえてないか。はは。よし、俺も寝ようかな」
こっ、こんなの反則だぞ!不意討ちだ!卑怯だ!ハレンチな事しか言わない奴じゃなかったのか!
コイツ、根は真面目な奴なのかもしれないな…。って、あーあー毒されるな、ダメだダメだ、バカな事を考えてないで私も寝るとしよう。