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サマーバケーション <異物混濁>



金色の草が辺り一面に広がる草原。


太陽が照りつければ綺麗な草原となるだろう。

しかし空は黒。稲妻を伴った黒々とした雲が一帯を覆っていた。稲光と共に雷鳴が轟いている。


「ケイト、来るわよ!」


「わ、わかってるよフローラ!」


その草原で、二つの人影が高速で移動していた。


バチバチッ!


高鳴りと共に頭2人が走る周囲をが稲光に照らされる。そして、より一層光り輝いた瞬間、黒い雲から雷が落とされた。


「きゃぁあああ!」


「ケイト!」


2人のすぐ近くにそれは落ち、衝撃波でケイトが吹き飛ぶ。ケイトの無事を心配したフローラが足を止めるた瞬間…


ピュンッ─


「あぐぅッ」


何かがフローラの左腕を貫通し、激痛を全身に走らせた。


「ぐぅ…」


フローラは歪んだ表情で撃ち抜かれた場所を手で押さえる。


腕に付けているバンドは、ある一定以上のダメージと傷は吸収するが、それまでの痛みと傷は実際に伴う仕様になっている。


「ケイトッ!ここは一旦逃げるわよ!」


さっきよりも逃げるスピードを上げてフローラは足を動かした。左手に持った白い弓矢に、赤い色が混ざっていく。


「ま、待ってフローラ!」


かろうじて先ほどの雷を避けることができたケイトはフローラを追いかけた。


「まさかこれほど強いとは…」


フローラは血が出るほどに唇を噛んだ。今現在、逃げる事しかできないこの状況が死ぬほどに悔しかった。


そんな矢先、今までで一番眩しい光が空一面中に広る


「「……!!」」


2人は目を見開き、上空を見上げた。


「「きゃぁあぁああ…」」


それは雷と言っていいものなのか、大きな大きな光の柱が2人の周辺もろとも包み込んで空から落ちた。凄まじい爆音が響き渡り、地面を揺らす。雷が落ちた所からはとても大きなキノコ雲が発生していた。





ーーーーー

ーーー





「……………」


金色の草原を抜けると、背の高い木が密集した森が広がっている。その森の入り口の一際背の高い木の枝に腰掛け、雷が落ちた所を見つめる2人の姿があった。


「もう良いんじゃないかしら」


白色の筒の長い銃を肩に預け、木の枝に座っているシルビアが呟いた。


「そうだな」


そのシルビアの隣には槍を携えているレイラがいた。


「ちょっと魔力を使いすぎた…」


レイラは槍を戻して木の枝に腰掛けた。そして気を抜いたと同時に黒い雲はだんだんと無くなっていき、空から光が零れ始めた。


「ちょっとやりすぎたか?」


レイラは爆心地となった場所を見ながらシルビアに尋ねた。バンドはある程度の攻撃を吸収してくれるのだが、アレほどの魔法をまともにくらえば後遺症が残る可能性がある。


「う~ん、もうやってしまった事なんだし、今更考えても仕方ないと思いますけど?」


シルビアは草むらのある一点を見ながら答え、銃を構えてそこに狙いを定める。


ピュンッ─


「あぎゃぁッ!」


風を切る音が響き、金色の草むらのある一箇所が赤く染まった。そしてその場所が光輝き始め、一筋の光を残してシルビアに撃たれた人物は消え去った。


鬼だな…。とレイラは思った。シルビアは普段は大人しくて争い事は嫌いなのだが、こういう学校の行事だとか授業とかだと絶対に容赦はしない。今撃たれた人物はシルビアのテリトリーに入ったことが不運だった。


「で、そろそろ日が暮れますよ。今日はここで野宿ですか?」


「うーん…」


「………かの殿方はアルベリオで講師をしていると手紙が届いたのですよね。確かにこのサバイバルに参加しているかもしれませんが、今日はもう無理ですよ。日が暮れると顔を認識する前に攻撃してしまうかもしれませんからね」


レイラの表情から考えている事を読み取ったシルビアは再び銃を構えながら答えた。


「な……。何でもお見通しだな」


パシュン─


「ぐぁぁ…」


レイラ達がいる木から1キロ程離れた場所が赤く染まる。


「はぁ。何年レイラと一緒にいると思っているのですか」


シルビアは銃を肩に預け、レイラに笑顔を向けた。


「分かった分かった。まだ1週間あるんだ、今日はここで休もう。ユウがもし参加していたとしてもこの1日でやられるとは思わないからな」


「分かりました。それでは野営する前に、この周辺にいるハイエナ達を一掃しましょうか」


シルビアはそう言って立ち上がった。


「あれだけ派手に暴れたから色んな奴が来るとは思っていたが、まさかこんなにも集まるとはな…」


ポツリと呟きながらレイラも立ち上がって辺りを見回した。

先の戦いでレイラ達が疲れたところを攻撃しようとしている輩が、この草むらと森の至る所で身を隠していた。


「レイラ、こちらはいつでもいけますよ」


「わかった。……こっちもいける。いいぞ」


レイラはシルビアの肩に手を置いた。


パッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパッパシュン──


「ぎゃぁ」「あが」「ぐぇ」「ぐぁあ」「いだっ「ぴょっ」「ぎゅぶっ」「あぎゃぁ」「うぐ」「でゅふ」


シルビアは真上に向かって銃を連射した。その弾は一直線に進むことなく色んな方向へ飛んでいき、何十人もの断末魔が響き渡った。


レイラはここ一帯の人物を特定し、目に見えない静電気のラインを構築していた。それにシルビアが放つ銃弾が誘導されてビンゴ、という仕組みだ。こんな開けた場所でないと使えない合わせ技である。


「リプト」


レイラは空間からキャンプ用のテントを取り出し、木の枝をうまく使ってテントを完成させる。


「流石ですね」


「ユウと色んな所へクエストに行っていたからな。こんな事は朝飯前だ」


「ふふふ」


「何が可笑しい?」


「いえ別に。それでは、私が先に見張りをしてるので休んでいてくださいな」


シルビアは笑っているが目はまだ真剣だった。


「まだいるのか?」


「ええ、3人程ですけど。警戒しているのでしょうか、こちらの攻撃範囲には入ってきませんね。なかなかの実力者ですわ」


「…………」


レイラはシルビアの索敵能力に感心する一方だった。先ほどの攻撃でここ一帯の人物は特定したつもりだたのだが、まだ隠れている敵がいるとは思っていなかった。


「じゃ、お言葉に甘えて休憩するから、何かあったら呼んでくれ」


「任せてください」


シルビアはレイラに向かってウィンクする。レイラは宜しく頼むと言い残し、テントの中へと入って行った。







ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー







「ぅ…ぅ」


「お、気付いたかネルフィ」


あれから俺はネルフィを担いでどこか休める場所を探した。丁度すぐ近くの一室に、まだそこまで朽ちていないベッドがあったので埃を払ってネルフィを寝かせた。外は完全に暗くなり、月明かりが部屋を照らしている。


「あれ……僕は?」


「お前、俺の血を見て気絶したんだよ覚えてるか?」


「あ……。そうだ!大丈夫なの!?」


「あぁ、もう平気だよ」


そう言って腕をぐるぐると回して笑顔を向けた。しかし本当はまだ完治していない。冷や汗が背中を伝う。

ケガがある程度回復するとバンドのひび割れも直った。どうやらバントを装着している人の状態と連動しているようだ。


「良かったぁ。ユウ先生って強いんだね、僕びっくりしちゃった」


ネルフィは目を輝かせる。


「俺はお前の弱さにびっくりだけどな」


「あはは…」


「………………」


だから気まずいんだっつーの。なんかボケの1つや2つぐらいしやがれっんだまったく。『ふふふ、お前は1つのミスをおかしている。いつから僕が弱いと錯覚していた?』てな感じに変なポーズを取って言って見ろってんだまったく。


「あ、あのぉ…」


「あ、わりい。それより腹ぺこで力出ねぇわ。何か食い物持ってきてねーの?」


「ごめん、何も持ってきてない…」


「あれは? 何か空間に物とか食べ物とか入れておける魔法!あれ使えねーの?」


「僕魔法は…」


「あ……」


そうだった。こいつはあの訳わからない役立たずの魔法しか使えないんだったな。どうしよう。


「おい、あの魔法食べれるんじゃねーの?」


「ぅえぇええ!?」


「うっせ、声出すなバカ!」


「ご、ごめんなさい…。だって…」


「いやいや、俺だって考えた訳だ。何にも役立たない魔法なんて有り得ない。攻撃にも使えない、叩くとボロボロに崩れ去る。なら食べ物だろうと!あれは自分の魔力で作り出す栄養補給剤だ!あの六角形の形がそれっぽい!」


「ぇ……」


1つ言っておこう。この時は空腹で少しおかしくなっていた。あれだあれ、お腹が減ると思考が働かなくなるっいうあれだ。


「そうと決まれば出せ!」


「ぅぇええぇ!」


ネルフィはとても困惑していた。それはそうだろう。唯一使える魔法が非常食などと言われてそれを真に受ける方がおかしい。


「ほ、本当に食べるの?」


「当たり前だろ、何言ってんだお前こんなにうまそうなのに」


ネルフィに作らせた結晶を両手で掲げ、よだれをたらして舌なめずりをする。


「……………」


冷静に周りから見れば俺の方がおかしいのは一目瞭然なのだが、お腹が減りすぎて思考能力の低下した今の俺にはそんな判断ができない。とりあえずネルフィの作り出す結晶が美味しそうでたまらなかった。


「ね、ねぇ。止めようよ。よくないよ、いくらお腹が空いてたからってこれを食べるのはよくないよ、ねぇ」


ネルフィは腕を揺さぶって訴える。


「黙らっしゃい!」


「ひっ」


今はこれを食べる事で頭がいっぱいだ。邪魔をするネルフィを怒鳴る。


「そしていただきまーす!」


「ぁ…」


ネルフィは反射的に手で目を隠した。


バリィッ!


「ぎゃぁああああああ!いっでぇ!」


俺の想像では煎餅のようにバリバリ食べれてちょこっとフルーティーな味がするもんだと思っていた。


「だ、大丈夫!」


「硬え!なんだこりゃ!鉄みたいだぞこれ!食えたものじゃねぇ!ちきしょう!」


「だ、だから言ったじゃん。やめておこうって…」


「ぅぉお…歯が…」


しかし実際はそんな想像とはかけ離れたものだった。

それは鉄のように硬く、噛んだ歯が割れそうな程痛い。噛んだ衝撃がそのままかそれ以上になって跳ね返ってきたような感覚だ。


「くそおっ!」


空腹の上に痛い目にあってイライラしてきた俺は、結晶を上に放り投げ目の前に落ちてきたと同時に思いっきり殴った。


バキィィイイイ!


「ぎゃぁああぁああああ!」


「な、なに!どうしたの!」


パリィンと気持ち良く割れて心のモヤも解消されると思いきや、逆に俺の拳が割れた。痛さで震える右手を左手で押さえつける。手の甲からは血が流れて左手まで染め上げる。


パリィン…


自重で落ちた結晶が音を立てて割れ、粉々に砕け散ったそれは跡形もなく消え去った。


「な、なんだこれ。ただのオモチャじゃねーのかよ。いてえ…」


「だ、大丈夫? ひっ、血ぃっ」


ネルフィは俺の背中の方に隠れ、右手の甲から流れ出ている血を見ないようにしている。殴った右手は痛みでまだ震えていた。


くっそいてぇ。ちきしょう、なんでこんな目に逢わなくちゃいけねぇんだよ。あれか?魔法で作った物を食べようとしたからか?魔法の神様の罰ってか?つかあれ食べ物じゃねーのかよくそう。いてぇ。


結晶が地面に落ちた時や、それ自体を地面に叩きつけた時は簡単に割れた。思いっきり殴ったのに割れもしなかった。


…となると、使い道は一つだなこの魔法。俺のおかげで玩具(非常食)から最強の魔法にワープ進化だよこりゃ。しかし問題はどこまで耐えれるかだな。


「ぐ…」


服の裾で拳の血を拭った。


「大丈夫?」


「うおっ」


ネルフィの綺麗な顔がすぐ近くにあったのでびっくりしてしまう。ネルフィは俺の肩に手を置いて心配そうな表情で右手と俺の顔を交互に見ていた。


こ、こいつわざとやってるのか?


「ん…?」


「い、いや、何でもない。それより、もう一度さっきの魔法を出してくれないか?」


「えぇえ!」


「大丈夫だって、次は食べたり殴ったりしないからさ!」


他の事はするけど。


「で、でも…」


「お前の魔法、だいたいどんなものか分かってきたんだ。それを調べるんだよ」


「僕の魔法?」


「ああ、下手したらすんげぇ魔法かもな?」


「う……うそ……」


俺の言葉が信じられないのか、ネルフィは目を見開いて驚いていた。


「ま、いいから、もう一度出して見ろ」


「わ、わかった…」


ネルフィは俺の言葉に従って両手を前に出し、再びあの結晶を出現させた。


「こいつだこいつ!」


落とさないように結晶を慎重に手に取った。

デコピンで結晶を弾いても割れる気はしない。


「よし…」


結晶を持った手と反対の手で腰から包丁を抜き取る。


「な、何をするの…?」


「まぁ、見てろって」


結晶を指で摘んで持ち、結晶の半分ぐらいの位置を包丁で斬った。結晶は豆腐のように柔らかかった。切れて地面に落ちた結晶は音を立てて先のように消えて無くなる。


「ぇ……」


ネルフィは何が起こっているのか全く分かっていない顔をしていた。


包丁で斬れたって事は、これは魔法で出来たものであると間違いないな。ま、魔法で出来ていない方がおかしいが。後はこいつの強度だな。くぅー、ここで俺が炎の魔法とか使えたら手っ取り早いんだけどなぁ。


そんな事を考えながら立ち上がって辺りを見回した。すると部屋の角の方に丁度良い大きさの木材が転がってるのを見つけた。


「よいしょっと」


それを拾う。そして野球のノックをするように左手に結晶、右手に木材を持って構えた。


「いいか、よく見とけ。これがお前の魔法の正体だ」


「な、何するの?」


「せーの!」


バキィィイイイ


「ぎゃぁあああああ!」


「うわぁあああ!」


結晶に木材が当たった瞬間、木材が粉々に砕け散り、衝撃が身体を襲った。それに耐えれなかった俺はベッドまで吹き飛んだ。


ネルフィはその一部始終をしっかりと見て物凄い驚いていた。


重力に引かれた結晶が地面に落ち、音を立てて割れる。


「いててて…」


身体を起き上がらせて右腕を擦る。しばらくはそっとしておいた方が良いだろう。


「わかったか? これがお前が何にも役に立たないと思っていた魔法の正体だよ」


「僕の…魔法?」


「そうだよ、すげぇなこの魔法。誰が考えたんだよ天才だな、守る魔法って」


「守る魔法?」


ネルフィは自分の手を見つめた。


「………」


「何だ? 攻撃じゃなくて防御の魔法だからってガッカリしたのか?」


「うぅん。違うんだ。やっと…やっと僕の魔法に意味ができたんだ。それが嬉しくって…。えへ」


ネルフィは目尻に涙を浮かべ笑顔を向けた。


「やべぇ、やべぇ、こいつめちゃくちゃかわいい。どうにかなっちまいそうだ!どうしよう、やべぇ、おさまれ俺のジョニー!」


ネルフィと反対の方へ向き、ベッドに顔を埋めて興奮を必死で抑えていた。


「どうしたの? まだ痛むの?」


「うぉぉ!」


「わわ!」


いつの間にかネルフィが隣に居て肩を揺らしていた。びっくりした俺は飛び上がってネルフィを巻き込んでベッドから転げ落ちた。


「いてて…」


「わっ、わっ!」


俺の上にいるであろうネルフィをどかそうとネルフィの身体の一部を掴んだ。むにゅっとした感触が手を伝う。


「あ?」


ネルフィから変な声が聞こえてきたので目を開けた。頬が赤く染まるネルフィの顔が目の前にある。


「え?」


目を開けたことにより俺の手がどこにあるのかだいたい分かった。そしてネルフィのだいたいどの部分を掴んでいたのかも。


「え?」


「あっ!」


再びネルフィのある一部を揉んだ。男なら誰しもが装備しているマスターソードが付いているであろう場所をだ。ネルフィは身体をビクつかせて俺の胸元に顔を埋める。


「え? え?」


しかし手にはソードの感触がどこにもなかった。頭が混乱した俺は再び同じ場所を揉む。


「あっ!あぅん!」


ネルフィから甲高い声が発せられ、暖かい吐息が俺にかかった。


「嘘だろおい!」


「わ!」


すぐさま起き上がり、ネルフィを掴んでベッドの上に座らせた。


「ぅ………」


ネルフィは下を向いてモジモジとする。


「ネルフィ、お前女なのか?」


「う、うん…」


さらにモジモジさが増す。


「何で男って言ったんだ? つか何で男の格好してんだ?」


ネルフィは男子の制服の格好だ。アルガード、アルベリオ、アルヴァレノの制服は女子がリボン、男子はネクタイの色が違うだけで他はほとんど一緒だ。たがら男と女を間違う事なんて万一にもない。


「あ、あのね…僕ね、弱いからね、ちょっとでも根性つけるようにってお父さんがこの格好で入学させたんだ」


「ほう…」


両腕を組んでネルフィを見下ろす。


やばい、ネルフィが可愛すぎる。女だとわかった瞬間から見方が変わった。そろそろネルフィをどうにかしてしまいそうでヤバかった。その目はウサギを狩る狼のような目だったに違いない。


「う……」


その圧力に押されたのか、ネルフィは再びモジモジしだした。


「だあああ!それやめろおおお!!!」


我慢ならなかった俺は叫びながらネルフィの肩を思いっきり揺さぶった。


「わわわわわ!あばばばばば!」


「うぉおおおおお!」


「はびん!」


ネルフィをベッドに突き飛ばす。ネルフィは目をぐるぐる回して何かぶつぶつ呟いていた。


「はぁ…調子が狂う…」


どっと疲れが来た。ベッドに腰掛け顔に手を当ててため息をつく。


バタンッ!


その時、部屋の扉がいきなり開かれた。


「いたぞ!2人だ!」


なにぃッ!


扉から5、6人の生徒が入ってきた。扉の外にも何人かいるのが見える。入ってきた生徒達は剣やら槍やら鎌やら色んな武器を出現させ、扉の外にいる生徒達は魔法を詠唱し始めた。


「え!なにっ!」


ネルフィは急なこの状況に対応できていないようだった。ベッドから飛び上がって俺の背中にくっついてくる。俺は勿論まだベッドに腰掛けた状態だ。指の隙間から殺気を向けてくる奴らを見る。


はぁ。まじかよ。どうしよう。軽く6人以上いるじゃんこれ。詰んだんじゃね、これ。


「悪く思うなよ!これも勝負事だからなッ!」


リーダー格の男子生徒から言葉が飛ぶ。


「ね、ねぇ、どうしよう…」


ネルフィのか細い声と共に俺の背中の服が握られる感触が伝わってきた。


「はぁ…」


ここで終わるのは嫌だな。よし、いっちょ頑張りますか。


「ふははははははは!」


リーダー格の号令で手下共が動き出す前に、魔王であるかのように高笑いをして立ち上がった。


生徒達は目をぽかんとさせて俺を見ていた。先程まで魔法を詠唱していた生徒は詠唱を中断し、口を開けたまま見ていた。ネルフィも。


「よく来たな人間共。さぁ、選べ。我の下についてこの世界の半分をいただくか、永遠の眠りにつくのか。さぁ、選べッ!」


「な、何言ってんだこいつ。はははッガバッ」


目の前にいた生徒は言葉を発し終わる前に前のめりに倒れた。見た感じ活きが良かったので、演出養分として眠ってもらったのだ。倒れた生徒は光に包まれて消える。


何をしたのかと言うと、ただ時間をかんな~り遅くしてフルボッコに締め上げただけだ。


「ひっひいい!」


「な、何しやがったこいつ!」


「うわぁあ!」


「うろたえるな馬鹿共!」


周りの凡人には何が起きたのか分からないのだろう。ただ人が一瞬で倒れたようにしか見えなかったはずだ。生徒達は焦り始め、武器を俺に向けてくるがその腕はガタガタと震えていた。


よし、これでお膳立ては揃った。


「そうか…。お前たちは残念な哀れな子だ。一瞬で葬り去ってやるぅうわああ!」


全力で叫びながら、近くに置いてあった椅子を地面に叩きつけ、大きな音を出して脅かした。

 

「ぎゃぁああああああ!」

「き、きたぞ!だ、だれか!」

「わぁああああああああ!」

「撃て!撃て撃て撃てぇえ!」

「わわわわわわわ!」


驚いた生徒達は大声を出しながら辺り一面に攻撃を行った。部屋中埃だらけになって視界が狭まる。もうこいつらには統率力のかけらもない。こんな簡単にに混乱させれたのはびっくりしたが、その内ハッタリだって事がバレるだろう。


今の内にネルフィを連れて逃げようと思い、数々の魔法の嵐の中をすり抜けてベッドの隅で縮こまっているネルフィの所へ行った。


「きゃぁああああ!」


「ほれ、何大声出してんだ行くぞ…」


ネルフィはまだ悲鳴を上げていた。


「こ、こないで!食べないで!やだよぉおおお!」


「しっかりしろ!」


「あいた!…へ?」


混乱状態のネルフィの頭を叩いて目を覚まさせる。


「掴まれ」


「え? わひゃぁ!」


そしてネルフィの腕を掴んで俺の身体に密着させた。別に匂いを嗅ぎたくてこんなことしてるわけじゃ…くんくん、あ、いい匂い。なんだこれ。超甘い匂い。くんくん。


「せ、せんせ?」


ネルフィは頬を赤く染めたうえに涙目&上目遣いという恐ろしい男子攻略融合攻撃を放ってきた。


「って、ちげぇええええええ!全然ちげぇええええよぉおおおおおお!全然ちげぇえええええからなぁあああああ!ほいさぁああああああ!」


「ひゃう」


これ以上密着していると本当にどうにかなりそうなくらいいい匂いだったので、すぐさまアクセルを発動させて部屋の外に出る。そしてそのまま城の外へ駆け抜けて行った。


「おえっ」


無茶な魔法ばっか発動していたせいか、足に一瞬力が入らなくなり倒れかける。


「だ、大丈夫!」


心配したネルフィが駆けつけてきた。


「ふぅー。大丈夫だ、魔力の使い過ぎだよ。俺の魔法はちょっとばかし厄介なんだ」


「厄介な…魔法?」


「また今度説明してるから、今は逃げるぞ。騒ぎを駆けつけた他の生徒がくるかもしれん。まったく、おちおちと寝ることもできねーのかってな」


「わ!」


外はもう完全に暗くなっていた。その場に止まる事を危険と判断した俺はネルフィの手をとって薄暗い森の中へと入って行った。







ーーーーー

ーーー






廃城の三階の一つの部屋、その中で大声で騒ぎ立てる者達がいた。


「ひぃい!あっちいけ!」


「おい!やめろ!」


「ぎゃぁああ!くるなぁぁ!」


「やめろ馬鹿共!もう奴らはいねえ!」


「うわぁああああ!」


「誰かあああ!」


「はぁ、馬鹿かこいつら…」


俺はアルヴァレノ5回生Gクラスのルフド・ハンス。このサバイバルイベントを上位で切り抜ける予定の男だ。


と、自己紹介は置いといて。


俺は大人数の方がこのサバイバルを簡単に攻略できるだろうと考えた。そして大勢の馬鹿共と手を組み、初日からこの薄汚い城を根城にしている輩を一掃しようとここにきたのだが…。


ウワァアアアア!

ヒィイイイ!

キャァアアア!


さっきの2人組は逃してしまった。1人のハッタリにまんまとこの馬鹿共はハマりやがった。それに敵を逃した事もわからずにまだ攻撃を続けている…。


こいつらを見ていると最初っから1人で良かったんじゃないかとつくづく思ってしまう。俺の力を頼ってきた奴らなんか放っておいて。


「はぁ…」


いっその事、こいつらのバンドを破壊してしまおうか。


コツッ コツッ


「ん?」


城の奥の廊下から、学校ではあまり聞き慣れないヒールの高い音が聞こえてきた。


「先生か?」


ならちょっと不味いな。こいつらは止まる気もねえし。巻き添えをくらう前にちょっと隠れるか。


先生が馬鹿共をとっちめる流れ弾をくらわないようにと、ドンパチやっている部屋からから少し離れた。身を隠すのに丁度いい物置が廊下に置いてあったので、その陰に隠れて息を潜める。


コツッ コツッ


ヒールの音が近づいてくる。どんな先生が来たのだろうと思い、物置から顔を少し出して様子を窺った。


もうすぐしたら視界に捉えれる距離だ。後少し。あとすこ…


「うわわわわわわ!」


後少しで月の光で正体が見えるというところへ、馬鹿共の内1人が先生の前に飛び出してきた。そのせいでどんな奴が来たのか全然見えない。


ち!ボケが!ま、先生の前に出たんだ。間違って攻撃でもしたらご愁傷様だな。あいつらならやりかねんしな。くわばらくわばら。


俺は向こうから完全に見えないよう、顔を戻して物置に隠れた。


「ぎゃぁあああああ!」


案の定さっきの奴の悲痛な叫びが聞こえる。多分先生に攻撃されたのだろう。ご愁傷様。


「ぎゃぁあああああ!うでがぁあああ!あがぁあああああああ!ぎぐぇいああぁあ!ぎょきょぎょびゃぎょぐげげげ」


しかしその叫びは次第に大きな叫びとなり、奇声まで発するようになった。


「アガァギャァアアアアア!」


その声はもう人のそれでは無くなっていた。それはまるで命を刈り取られる寸前の動物の本能的な断末魔のようだった。


ははは、ちょっと大袈裟すぎねーか?そんなに酷いお仕置きなのか?


「アギャァアガガバボギャァアアアァァ……」


ぶしゅぅうううぅぅぅぅ…


悲鳴が聞こえなくなったと思うと、何やら水のようなものが噴き出す音が聞こえてきた。


いやいや、いやいやいやいや。あり得ねぇ。あり得ねぇよ、あり得ねぇだろ。


俺は頭の中にある想像が浮かんだがすぐに否定した。絶対に起こるはずのない、起こってはいけないことだ。


ばたん……と、静かになった廊下に力なく何かが倒れる音が響いた。

いつの間にか他の馬鹿共のドンパチやっている音も聞こえなくなっていた。


ウソダロォオオオオオオ!

ギャァアアアアアア!

オイウソダロ!ナンダヨアレ!


一瞬の間を置いて、馬鹿共が再び騒ぎ出した。


グキャアブホェ…

ギャブァッ…

ウワアァアアギャイアッ…


そしてさっきと同じ様な断末魔も聞こえ始める。


「うわぁああ!嫌だぁああああ!」


突然ドアが激しく空く音が聞こえてきたと思うと、誰かが俺の方へ向かって全力で走って逃げ出してきた。


物置から顔を少し出し、何がどうなっているのか確認する。


「死にたくないよおおおお!」


嘘だろ…おい。


そいつの顔は恐怖やら何やらでぐちゃぐちゃになっていた。それより驚いたのがそいつの身体の至る所に血がべっとりとついていた事だ。これはただ事ではないと感じ取る。


それ以前にさっきから鳥肌が立って仕方がない。早くこの場から逃げなければいけないということがヒシヒシと伝わってきていた。


「うわあああ!」


後少しで俺のすぐ近くにくるというところ、そこで…


「うぎょぶぁっ…」


ぶしゅぅううぅぅぅ…


そいつの上半身が血の塊となって弾け飛んだ。俺の頭には血のシャワーが降り注ぐ。


どしゃん……と、血が滴った下半身が倒れた。


「はっ……はっ………は!」


心臓が破裂しそうなほどに脈が激しく動く。今目の前で起きている事を脳がうまく処理しきれない。受け入れる事を拒んでいた。


う、はっ、はっ、な、何が!


訳が分からなかった。何が起こっているのかさっぱりわからなかった。しかし今現在自分が置かれている立場は非常に危険な状況だということは理解した。


気付けば物音は一つも聞こえなくなり、静けさと血液の滴る音だけが耳の奥で反響していた。


コツッ コツッ


ヒールの音が聞こえてきた瞬間、また一段と脈が早くなった。


は、は、やばい!やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!し、死んでる?死んでるのかこれ?死んでるんだよなこれ?ははは、あり得ねぇ、あり得ねぇよ!おかしいだろ、おい!何で転送されねーんだよ!


コツッ コツッ


ヒールの音は俺の方に向かってくる。


こっち来やがった!ち、ちくしょう!な、何でこんなに震えてるんだ。汗が止まらねえ。怖え。死ぬほど怖え。ちきしょう。怖ぇええよちきしょう!


コツッ コツッ


「はっ……はっ……うぐ!」


息がかなり荒い。


手で口を押さえるが、ばくんばくんと心臓が強く波打つ音がが頭に響く。


し、心臓ってこんなにうっせーもんなのか!これでバレるんじゃねーのかよ!


コツッ コツッ!


き、きやがったぁああああ!


ついにその人物は先ほど上半身を血だまりに変えた奴のところまで来た。


「……………」


う、う、う!絶対物音を立てるんじゃねーぞ俺!絶対に物音立てるなよ!!


ばしゅうぅう!


「────ッ!!」


見ていないのでわからないが多分下半身が血だまりに変わる音が聞こえ、飛び散った血が目の前の廊下を瞬く間に染めた。ぞわっとした感覚が全身を駆け巡り、冷や汗が吹き出す。


くそ!くそが!この鬼め!もう死んでるんだろ!何でそこまでするんだよ!わっけわからねーよくそっ!つかあの魔法!明らか禁術の類じゃねーか!一体誰が使ってんだよ!


ゴトンッ


や、やべ!


物置に体重を預けていた所為か、その重みに耐えられなくなった物置が少し動いた。


コツッ コツッ


物置に向かってヒールの音が一直線に向かってきた。


やべぇ!やべぇ!バレたちきしょう!馬鹿やろう!くそっ!こうなったらやるしかねえ!やるしかねえのかよ!!


ガタンッ


ギャァギャァア


諦めて戦う事を決心し、物置から出ようとしたその時、一羽の黒い鳥が物置の中から飛び出した。その鳥は廊下を不自由に飛び回った後、割れた窓から外に出る。


パシュン─


小さな音を立ててその鳥は血の塊と化す。


「……………」


コツッ コツッ


暫く沈黙が流れた後、ヒールの音は俺のいる場所からだんだんと遠ざかって行った。


ふうー。助かったー。


口から手を離して空気を肺にいっぱい入れ、生きてることを実感する。汗で制服がずぶ濡れだ。緊張が解け、少し肌寒さを覚える。


「……………」


物置から顔を少し出して様子を窺う。ヒールの人物はもう見えなかった。しかし廊下の地面や窓、壁は血まみれで、そこかしこに奴らの肉片か血管らしきものが散乱していた。


「うえッ……ぐ…」


現実離れした光景を見た所為で胃袋の中身が喉まで上がってくる。ヒールの人物はまだこの城にいる事は間違いない。ここで物音を立てて居場所が見つかりでもしたら今までの苦労は水の泡だ。


くそっ!くそっ!本当に死んでやがる!ちきしょう!くそったれ!ちきしょう!


「ぅ……はぁ、はぁ」


それから、暫くその場から動けなかった。手を顔に当てて今起きている事について整理していた。


あり得ねぇ。このサバイバルが起きる前、注意事項で先生は言った、ある一定のダメージを越えてさらにダメージを受けるとバンドがそれを吸収すると。そして吸収しきれなくなればバンドが壊れ、そして転送されると。


なのにこいつらは殺された。転送もされていねえ。何でだよ!


「くそっ………」


がりっと唇を噛む。


それは、いくら馬鹿共と見下していたにしろ、クラスメートを助けにいけなかった悔しみの現れだった。


いてぇ。…あいつらはこれ以上に痛い思いをしたのかな。一瞬で血だまりだもんな…。


…………。


一瞬で?


ある程度のダメージ?


越えたら吸収?


吸収しきれなったらバンドが壊れる?


「……まさか!」


再び物置から顔を出し、俺の近くで血溜まりに変わった奴の周辺を見回した。込み上げてくるのを必死で我慢しながら。


……あった!やっぱりだ!


血溜まりの中に黒い粉の塊があった。


1人しか見ていなくて確証は無いが、他の奴らの近くにも同じものがあるに違いない。


バンドはある程度のダメージを吸収する。そしてダメージを吸収しきれなくなると壊れる。壊れると言っても、ひびが全体に入り光輝くだけで腕からは外れない。


そして魔法が発動し終わるとバンドは粉々に砕け散る。今まで何人も見たからそれは間違いない。あの血だまりの上にある黒い粉の正体はバンドだ。


もし、もしだ。バンドに込められた転送魔法は、バンドをつけていているものにしか反応しなかったらどうだろう。


バンドが壊れて転送されるまでタイムラグが2秒程ある。バンドが壊れて2秒間は生身の人間と同じだ。その間に攻撃をされれば当たり前にくらう。それが例え禁術の類でも。


転送魔法が発動される前に血溜まりに変われば、バンドをつけていないも同然だ。人物を特定しないまま転送魔法が発動される。だから死体は残ったまま、ということになる。


…これが本当なら本部の連中はこの事に一向に気付かねぇぞ!


これはやべぇぞ!人が一瞬で死ぬような魔法なんだ。くらったらお終いだ!早く誰かに報告しなきゃいけねえ!


……仕方ねえ、やるか。


「…ファイア」


いち早く先生達に知らせるためにバンドを自分で破壊しようと考えた。左手で初級の炎魔法を発動させ、右手首に付けてあるバンドに向けて構える。






















































「みぃーつけた」
















「ひいい!!!!な、何でここに!嘘だろ!」






「うふふ」






「うわ!うわぁああああ!やめ!やめろ!うわぁああああ!ぎゃぁああああああ!ぐぅあいあああああぁぁあああぁぁあああぁぁぁ…ぐッ……」






ギャア ギャア






廃城に一際大きな叫びが響き渡り、城の屋根に止まっていた鳥達が一斉に飛び回った。












コツッ ピチャ 



コツッ ピチャ





そして再び静寂を取り戻した城内には、ヒールと血が滴る音が反響していた。




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