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はじまり



「フレイムキャノンッッ!!」




「くっ」



爆音が辺りに響き渡り、地面が陥没する。粉塵が舞い、視界が悪くなる。



「はぁはぁ…さすがの奴もこれでくたばっただろう…」




勝利を確信したその時、煙が一瞬にして霧散する。そこに現れたのは禍々しい黒いオーラをまとっている悪魔の姿。先ほどとは違い、桁外れの戦闘力を秘めていることがわかる。つまり真の姿になり本気を出してきたのだ。




「まさかここにきて奥の手があるとは…。まいったなあ…」



「この姿になるのは久しぶりでな、手加減できずすぐに殺してまうがよいかな?」



「それでも俺は勇者なんだ!お前に殺された皆の分まで戦わなくちゃいけないッ!いくぞ魔王ォ!」



「こいッッ勇者よォ!!」





…to be continue












はあー


プチッと音を立ててテレビの電源が消える。この面白くもないアニメを見るのが最近の日課だ。そして見終われば寝る!これが俺のスタイル!



…と格好つけてみる。



俺の名前は中田悠(なかた ゆう)。平凡な名前だ。名前が「し」から始まれば中○しだねってからかわれちゃう名前だ。顔面は普通よりは上だと思っている。気がつけば知らないきゃわぅい女の子と一緒に寝ている時がたまにあるからだ。…と調子に乗りすぎたようだ。



今年で二十二歳になり、これといった事もなく、今まで平凡な生活を送ってきている。きゃわぅい彼女だっているし大学生活だって順調だ。就職も大手企業に決まって人生勝ち組も同然コースをまっしぐら中である。




そんな俺だが、1つだけ悩みがある。




それは…。





「魔法が使いたああああああああああああああいい。ファンタジーもビックリな冒険がしたあああぅういいいい。きゃわぅい魔法少女ときゃっきゃうふふしたあああいいいくんかくんかぺろぺろぺろぺろぺ………………はッ、いかんいかん我を忘れていた」



そう、いわゆるアレだアレ。中学生の時に発症するアレだ。



まあそんな大げさではなく、ちょっとでいいから魔法か何か使えたらいいなー。なんて思っちゃってるんだよね。いやほんと魔法が使いたいんだよね。切実に!うん、ほんと切実に!



もうこの際だから言っておく。俺は魔法が使いたい!ちょっとじゃなくバンバン使いたい!



あっいけね、ライター忘れた。とか言ってる奴に、指から火ボッて出してクールに火を付けてやるのが俺の夢なのさっ。キラリっ



「はぁ…、やっぱ魔法なんてあり得ないか…。よし、歯磨いて寝るとしますか」



明日の授業の用意をして俺は寝た。…巨大な魔法を連発して魔物と激戦を繰り広げる夢を見ながら。



この時から既にどこかおかしかったんだろう。主に世界と俺の頭が。





毎日の起床は8:35。俺はパジャマ=ジャージのままで学校へ行く。



用意に手間はかからないし、学校まで車でゆっくり行っても10分で着くから、ギリギリまで寝ていられる。



それが車持ちの特権。女の子とデートするの時の必須アイテムである。




「さて、下らないこと考えてないでいきますか」




俺は一人暮らしだ。両親がいない俺は祖母が死んだときにこの家を譲り受けた。昔の時代に建った家なので結構ボロい。まぁ雨風しのげて寝泊まりできれば何でもいいが…。



がらがらがら~っとドアを開けると右手にはお馴染みの庭。目の前にはお馴染みの納屋。そしてすぐ左手にはお馴染みの家の門があって…



それを開ければどこまでも広がる草原!そして目と鼻の先にある湖!森林!山々!そしてさんさんと照りつける太陽!そして草を食べているカモみたいなでっかい動物!




「なんと清々しい景色だああああぁあああぁぁ………ぁあるぇ?」



清々しい景色!?


草原??湖!?


森林!?


でっかいカモ!?



………ありぃ?




「ぬっふっふっふっふう。この頭め、ついに幻覚を見せてくるとはなかなかやりおるな」



とっさに腕を摘まむ。…いてぇ。




「……ぬっはっはっはっは、ぬっはっはっはっはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



「全然幻覚じゃねえええ!!夢でもねえええ!!駐車場どこいったあああああああ!!俺のマイカーどこいったあああああああ!!向かいの酒田さん家どこいったあああああああ!!ここどこぉおおおおおッッくぅ…」




よーしよーしよーしよーしい、整理しようぜ整理。So、せ、い、り!まずこの家は?Yes俺ん家!そしてこの草原は?Yesあーいどーんとのお!



ちなみに今は正座している。人間パニックになるとわけがわからない行動をするもんだと人生初めて教わった




…この現状、相当ヤバいかもしれん。




「そうだ!携帯は!」




ポケットに入っているガラクタケータイを取り出す。




「………っち、やっぱ圏外か。とりあえず何枚か写メっておこう」




俺は様々な角度から草原と家を何枚も撮る。広大な草原にぽつんとある粗末な家。




「素晴らしい作品ができあがったかもしれん。今度写真展示会があったら応募してみるか。ノスタルジックで結構上までいけそうじゃね?」



「…………なんて事してる場合じゃねええええええええ!!!!!」



大声を出して喚いていると急に辺りが暗くなった。そして風も強くなってきた。バッサ、バッサ…とどこからともなく音が聞こえてくる。



「あああああああああああああああああああああああ、どうしよおおおおおお!!!!帰りたいよおおおおお!!おぇ…」




バッサ、バッサ、バッサ、バッサ、バッサ…。



「バッサバッサうるせえええくそがああああ!!!今それどころじゃ……………!!」



ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!



「……ふひひ。」



そこで見たものは、空高く優雅に飛んでいるドラゴンの姿。全てを燃やし尽くしてしまいそうな赤黒い鱗に包まれている。



目が点になり、思考がストップしている内にドラゴンは山を越えてどこかへ飛びさっていった。



「…とりあえず、作戦会議だな」





俺は家に戻り布団の中で色々と考える事にした。



べっ別に震えてたわけじゃないんだからなっ!!



一度に色んな事が起こりすぎて逆に冷静になった。今は喚いている時じゃないな。ここがどこだかわからない以上は下手に動けないし…。ドラゴンか。ここ絶対異世界だよな…。



「ひとまず、どうやって元の世界に帰れるかを調べるしかないか」



俺は布団から出て、今使えそうなライフラインを確認することにした。



「電気、電気っと」



普段から使ってるリビングの電気スイッチを押してみる。ぱっと空間が明るくなり、その眩しさに目を閉じてしまう。



「おほッ!電気つくじゃん!!そしたらガスはどうなんだ!?」



お次は台所へ行き、ガスコンロのスイッチを回した。バチバチと音を立て、次の瞬間ボッと火が付いたのを確認した。



「よっしゃ!ガスも使える!水はどうなんだ!?」



そして台所の横の蛇口を回してみる。じゃああと勢い良く水が溢れ出た。



「まじで? この家どうなってんだ? 周りに何もねーだろ」



電気やガス、水が使えることは驚いた。周りは草原しかなかったし、電線とか無いはず。……もしかしたら元の世界と繋がっているのかもしれないな。



「ふぅ、この前大量に食料と水を買っといて良かった。電気が使えるから水も沸かせるし、インスタントで何日かいけるし…」



数日間は大丈夫だろう。だがいつかは食料は尽きてしまう。その時はどうしようか…あのでっかいカモみたいな奴は食えるのか…?



まあ、試してみる価値はあるか…!



「そうと決まれば武器だ武器武器いいい!!!確か包丁があったはず!!!」




家の中のありとあらゆる場所をまさぐり、武器として使えそうなものをリビングの床に並べた。



俺は長細い包丁と、いかにも普通の包丁の二本を手に取り、すぐ横に置いていた新聞を思いっきり切り裂いてみた。



「ふん、切れ味は悪くなさそうだ。何か勇者になった感じがするぜ!!強くなった気がするぜ!!」



「あ、外の納屋にも何かあったはず!!」



納屋で色々と探した結果、魚を獲る時に使うモリを手に入れた。



いける…。今俺は根拠のない自信に満ち溢れている…。このモリと包丁のおかげか。いやこれはモリではない、神の槍だ。これからはグングニルと呼ぶことにしよう。そしてこの包丁はエクスカリバーだ。



「くっくっくっくっく…。俺は今最強となった。もうヤケだヤケ!何でもかかってきやがれええ!もはや帰る事など考えない!!いつもいつも願ってたファンタジーの世界じゃないか!とことん楽しんでやるぜえ!!第二の人生だああ!!いくぜ包丁!いや相棒!!まずはカモを狩りに行くぜえええええ!!!!!」



こうして俺のファンタジーが、いや伝説が始まっていったのであった。


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