第九話 元凶と黒幕。
ラファエル達一行は五大都市の入り口ーーBFSの前に戻ってきた。飛竜から下降して地上に降りようとしたところ、そこにたたずむ少年の姿があった。
「あれは………義信博士?」
ラファエルは焦る。まさかこんなにすぐ会うことになるとは思わなかった。彼の研究室にでも顔を出して、じっくり話を聞こうと思っていたのに。
心の準備も出来てないし、そもそもがこんなところで話す内容でもない。
ひとまず全員地上に降りると、
「そろそろ来る頃かなと思ってね。待ってたんだよ。僕も君達が帰ってきたら、この子と出掛けようと思ってたし」
彼はこちらの気も知らず、呑気にそんなことを言った。
「……………待て。聞きたいことがある。そなたは………」
言いかけ、口ごもる。
リズの生まれ変わりなのか。その一言を発せられない。覚悟が出来ない。もしそうだと言われたら。あの時のことを恨んでいると言われたら?
彼女が、ノエルを慕っていることは知っていた。それなのに、自分は横恋慕したあげくーー彼女を守れなかった。死なせてしまった。私の代わりに。本当なら、死ぬのは私だった。そのはずだったのだ。
あの時の絶望ーー今も覚えている。
義信はそんな私を見て、ふ、と笑んだ。
「砂漠の街に、カケラがあるという情報を掴んだんだよ。君達が海底に向かっている間、私がそちらを“取ってくる”としよう」
カケラを取ってくる………そんなことが出来るのは。
「じゃあやっぱり貴方は……」
到がラファエルの顔を伺いながら、彼に答えを促す。
「本当は、もう少し黙っておきたかったんだけどね。中々そういうわけにもいかないもんだね」
「………………………」
やはり、この男は彼女の………。それに、記憶もおそらく完璧に持っているはず。
知りたかったけれど、知りたくなかった。
彼にどう接していいのかわからない。あの時、私の目の前で殺されてしまった彼女。その記憶がちらついて離れない。
「そんな顔、しないでくれないか。私は君にそんな顔をさせたかったわけじゃない。あの時も、今も」
義信は切なそうな、いたましそうな目でラファエルを見る。そして
「……………本当にあの男は、余計なことしかしない」
と呟くように言った。
「あの男……?」
みゆりが要領を得ず聞き返す。
「デイジー。君に言ったはずだよ。伝えてほしいと」
みゆりは去年、ここで彼らしき人物に言われたことを思い出した。
「ノエルさんに〈そっちがその気なら、こちらにも考えがある〉と伝えろ、っていうあれですか?」
「!? じゃあ……ノエルさんが何か企んでると?」
初耳の到は驚愕する。確かにノエルは全てを語ってはいないし、何かを隠しているような節はある。それに、ルーテの行動もいまいち判然としない。この一連の件では不審な点が多い。
「でも、じゃあルーテさんは?黒幕はルーテさんだって、ノエルさんが………」
みゆりは混乱しているようだった。確かにこれだけでは情報が少なすぎる。
「……………彼は、全ての元凶はルーテだと、心底そう思っているみたいだね。だけど僕達の考えは違う。僕達の中では、この事態を引き起こしたのは、他でもないノエルなんだよ」
「……………!?」
ラファエルやみゆりが驚き固まっている中、到は義信の発言に引っ掛かりを感じていた。
(彼は黒幕がノエルだとは言わなかった。それはつまり、黒幕はルーテだが、元凶はノエルだということなのか………?それに、僕達の考えとは、義信博士と誰の事を言っているのか……。博さん?望月君?それともまさか)
「一つ言えるのは、僕達はノエルの暴走を食い止めるために動いている、ということ………。後の事はノエルと直接話したらどうかな?僕は陽が暮れる前に行かなくてはならないからね」
そう言い慣れた手付きで飛竜に乗り込むと、上空に舞い上がり颯爽と空中を翔けていった。
取り残された四人は、それぞれの思いを胸に、ただ茫然と立ち尽くす事しか出来なかった。