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第八話 回顧録~ネフェニー編~

ラファエル達一行は星のカケラを手に、飛竜に乗って来た道を戻る。相変わらず死にそうな顔の到を尻目に、ラファエルが肩を震わせる。

「何を笑ってるんですか……」

到がまたも息も絶え絶えに話す。

「いや……。いつも私はお前に、みっともないところを見せてばかりだからな。少し安心したというか……」

「なるほど。それなら到が辛い目にあっているのにも、少しは意義があるということだな」

「なんですかそれ……」

ラファエルは幸広と到の掛け合いを微笑ましく眺めながら、沈思黙考する。

これからこの飛竜を返しに義信博士に会わなければならないのだが………。


あの金髪に不老の身体。それに何よりーー彼は知りすぎている。おそらく彼の前世は『リズ』で間違いないだろう。

会って話したい。いやするべきだ。しかし、真実を知ることが怖い。彼の口から『あの時』のことを語られでもしたら、果たして自分は平常心で居られるのか。

「……………到。おまえに頼みがある。一緒に義信博士に会ってくれないか」

「……………………」

返事のない到をいぶかしんで振り向きかけたが、みゆりが

「あの、到さんがもう喋る気力もないようで………。首を微かに縦に振ってはいるのですが………」

「さすがに乗り物酔いは回復魔法じゃ治せないからな………。もう少し耐えろ」

幸広に言われ「何故君はピンピンしてるんですか」と言わんばかりの恨めしげな目の到。

ラファエルはまたおかしくなってクスクス笑うのだった。



☆ ☆ ☆


生まれた時から、私には既に強大な魔力が宿っていた。

聞いた話によると、父が私を怖れて、生まれてすぐに消そうとしたけれど、出来なかったらしい。

長の側近として仕えていた父の魔法が、生まれたばかりの私が無意識に張った時空バリアに敗れたのだ。


父はそれからますます私を憎んだ。


歴戦をくぐり抜け、側近にまで登り詰めた父。それいつか娘に越され、娘の下で働かなくてはならないという恐怖、屈辱………。


それからは悲惨だった。


家族や親戚が束になって襲ってくる毎日。

消すつもりなどなかった。けれど、自分の身体を包む魔力が彼らの魔法を跳ね返す。


皆消えた。消えていった。


だけどこれで私を狙う者はもういない。大好きな小鳥に餌をやって、大好きなあの丘でお昼寝をしよう。これでやっと休息が取れる。


そんな時だった。丘の上でネサラという男と知り合ったのは。

名前は知っている。有名だから。

いつだって冷静に、淡々と自分を脅かす輩を返り討ちにしていく。


そんな男が必死になって、小鳥に木の実をやろうとしている。ネフェニーは可笑しくて思わずクスリと笑った。そんな仏頂面で懐くわけないのに。


それに気付いたネサラが怪訝そうな顔をする。

「なんだアンタ。………?どっかで見たな………。あ、家族殺しの堕天使だったか?」

「…………………!! 私、帰ります!!」


知らない間にそんな風に呼ばれていたなんて。なんで……、どうして? 私は、私は悪くない!!


「帰るって、どこにだ?アンタの帰る場所はここだったんじゃないのか?」

「…………………」

なんだろう、この人は。何が言いたいの?怖い……怖い!

震えながら唇を噛むと、彼は溜め息を吐いた。


「だから。帰る必要ないだろって言ってんだよ。ここは誰の物でもないんだから。長の物でも、俺の物でも、アンタの物でも。だから、俺とアンタがここにいても問題ないだろうが」

「…………………? 貴方は私が怖くはないの?」

さっきの様子では私の事は知っているはずだ。


「アンタみたいな半泣きの女の何処が怖いって?大体そりゃお互いサマだろ」


その時思った。ああ、この人は口が悪いだけで、いい人なんじゃないのかな?と。


それからはその丘で、ネサラと小鳥に会うのが楽しみだった。


ところが長の崩御が近いことを受け次の長選挙が近付くと、ネフェニーは今度は他人に狙われることになった。私が一番の長候補だったから。そしてNo.2のネサラも。


ネサラはただ淡々と敵を返り討ちにしていく。他人を消すことを納得しているようだった。けれど、私には出来なかった。


誰も消したくなかった。生きるために人を消すということを受け入れられなかった。私が消えればいいのにと何度も思った。反撃さえしなければ或いはと。

だが不可能だった。自分の魔力が相手の魔法を跳ね返すから。


せめて他の天使に生まれていたら、こんな争いなどせずに済んだのだろう。せめて時空以外の力なら、これ程苦しむこともなかっただろう。


全てを虚空に呑み込む時空の力。一度発動してしまえば、そこにある存在そのものが消滅する。


返り血を浴びて自分が汚れた存在だと責められれば良かった。死者の骨を拾って弔えれば良かった。

現実は、何もなかった事になるだけ。そう、最初から、存在などしていなかったかのように。

自分で自分の力が恐ろしかった。

どうしてこんな力を持って生まれたのだろう。どうして時天使に生まれたのだろう。

どうして。


(私が長にならなくては。何がなんでも絶対に。そうじゃなきゃ、皆何のために消えていったのかわからない………。私が長になって、この世界を変える……。長争いの為の戦いなんて止めさせる!!)


そう思うことで、辛うじて心を保っていた。

なのに。それなのに。

長と神ノエルが次期長に任命したのはネサラだった。


なんで……。なんでこうなるの!?

長になれないなら、今まで私がしてきたことは………、ただただ無為に幾人もの存在を消したってことじゃない。

どうしてこんな事に………!!


居たたまれずに、天界から逃げ出すように人間界へ転移した。

これからどうすれば良いのかわからず、森の中の大樹に寄りかかりハラハラと涙を流す。


そんな時だった。彼女が声をかけてきたのは。


「貴女、今までたくさん辛い思いをしてきたのね。でも大丈夫よ。これからは私がいるわ。だから………私のところに来てくれないかしら。貴女に私が必要なように、私にも貴女が必要なのよ」


神の救いのような言葉に、私はすがる他なかった。

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