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第五話 もう一つの王宮殿

「…………ここが、その王宮殿………」

最後に飛竜から降りようとした、みゆりが呟いた。

先ほどの城と違い、周りに灯りがほとんどない。そのため王から借りた燭台と方角を頼りに、ようやく到着したところだった。


「……それにしても、ラファエル様がまさかあんな………」

言いかけた到が口をつぐむ。本人にじろりと睨まれたからだ。

「まさか、なんだ。言いたいことがあるならはっきり言え」

「…………ここまで方向音痴とは」

普段あまり動じない到だが、さすがにこれには度肝を抜かれた。飛竜の手綱を握っているラファエルの物凄い方向感覚のせいで、予定よりかなり遠回りをしてしまった。北東に向かっているはずが、ぐるぐる回って真逆の南西に着いたときには、さすがの到もなんとフォローすれば良いのか言葉に窮した。到の眼鏡に方位磁石の機能がなければ、彼でさえ自分がどこにいるかわからなくなりそうな迷いっぷりだったのだ。

「うるさい!こう暗くては仕方ないだろう!しかも初めて来た土地で」

「そ、そうですわよ!ただでさえ女性は方向感覚がないと言いますし!恥ずかしながら私も、あまりいい方ではありませんもの」

みゆりの必死のフォローにラファエルは気を良くしたらしい。

「そうだ、そうだ!男共にはわかるまい、この難儀さが!」

などと、自分が男だったことを棚にあげた発言をした。

「………今度からは僕が方向を確認しますから、舵を取るときは言ってください」

到が苦笑気味なのを感じ取ってラファエルはムスッとしたが、千年前マリクがなんだかんだ言いながら自分の世話を焼いてくれたことを思い出し、なんだか妙に嬉しかった。

「しょうがない。お前の言うことだ、素直に聞くことにする」

それを聞いた到も、妹の世話を焼いているようでなんだかラファエルを可愛く思えた。前世の自分も同じように彼と接していたのか、などと思いを馳せ。

「………それじゃあ、中に進むとするか。魔物の類いはおそらくいないだろうが、暗いのでこの燭台の光が頼りだな」

幸広が自らの持つ燭台を顔の辺りに掲げた。

その時到は何か違和感を覚えた。

「………?なんか、妙に明るくないですか?」

飛行していた先程よりも、微かだが視界が開けているような気がする。

「そういえば……」

とみゆりが辺りを見回すと、聖剣が僅かに光を帯びていた。

みゆりが剣を鞘から引き抜く。すると

「!?」

「まぶしっ……」

一本の光の筋が、古城の中心目掛けて伸びていく。

「なに………?」

「もしかして、カケラに反応しているんじゃ……」

到が推察すると、幸広も聖剣を一瞥し

「だろうな」

と当然のように言った。きっとこの聖剣の秘密を知っているのだろう。

「一体どうして……」

到がそれを訊ねようとした時、

「ほう……。それが反応すると言うことは、カケラがあるのはここで間違い無さそうだな」

「!?」

突然の背後からの声に、弾かれたように振り向く。

そこにいたのは、中年の口髭を生やした男だった。気味の悪いことに、全身がすっぽり覆われるほどの、漆黒の長いローブを着ている。

思わず内ポケットのレーザー銃に手をかける到。しかしそれを構える前に

「悪い!あとは頼んだぞ、二人とも!」

ラファエルがみゆりの手を引き、脱兎のごとく城内に入っていった。

「ええ!?ちょっ」

ぎょっとする到だったが、ローブの男が

「なるほど?さすがは最高神さまだ。頭の回転は速いと見える」

微動だにせずほとんど無表情で言った。

「追うことは容易いが……少しばかり、司祭二人のお手並み拝見と行こうか」

男は目を細めすっと頭上に手を挙げると、ひゅうっという風切り音と共に、男の右腕に鷹が留まった。

ばさばさっと羽音を立てながら、猛禽類独特の鋭い眼光がこちらを睨む。

「鷹匠ですか。博さんがいたらとんでもないことになっていたでしょうね」

「随分冷静だな。私達二人だけで、何とかなると思うか?」

幸広が焦燥感を滲ませる。

「あの男の発言を聞く限り……二人が城内に向かったのは正解なんだと思います。それに」

到は手をかけていたレーザー銃を素早く構え、男の左目目掛けて発射した。

ズガンッという衝撃音の後、

「何とかなるかじゃなくて、何とかするんですよ!!」

到は銃を懐に仕舞いながら、不敵に笑った。



☆ ☆ ☆



「ラファエル様、ラファエル様!」

ラファエルに手を引かれ全速力で走っていたみゆりは、一向に止まる気配のない彼の手を引き剥がし、憤怒の顔で食って掛かった。

「一体どうしてお二人を置いていったりしたんですの!?あんまりですわ!敵がどんな能力を持っているかもわからないのに!」

「落ち着け。いいか、足手まといは私達の方だ。私達の攻撃はあいつには効かない」

ラファエルはみゆりの腕を掴み、じっとみゆりの目を見た。

「一目見てわかった。あれは人ではない。カケラの魔力で作られた存在だ。いわゆる人造人間だな」

「え……、じゃあルーテさんの能力って…」

「おそらくは」

ラファエルの推測から、みゆりは一年前の遺跡調査を思い返した。

あの時、確かに人語を操る魔物がいた。そしてその魔物は誰かの指示で動いているようだった。

(あの魔物も、ルーテさんがカケラで創った生物……?じゃあまさか、あの時から既にルーテさんは動いていたってことですの?)

頭の中で情報を整理していると、ラファエルが暗がりの中で妙に明るい光を放つ、みゆりの聖剣に目をやった。

「カケラで創られた身体に、カケラの魔力に頼った攻撃は効かないだろう。私の力やその聖剣では歯が立たないということだ。私達に出来ることといったら、先回りしてカケラを回収することくらい………。それが関の山だ」

「そんな………」

ラファエルはカケラを使った攻撃を封じられても、まだカケラの回収や味方の回復が出来る。ーーだけど私は?

聖剣が使えなければ、そこらの安物の剣で戦うしかない。それならば、みゆりが戦う意味はない。久美子や綾子、博と、周りを見渡せば自分より強い剣士はいくらでもいる。

みゆりは唇をきゅっと噛んだ。

そう。自分はこの聖剣が使えるから、今回の戦いに参加できているに過ぎない。聖剣の使えない自分なんて、ラファエルの言うとおりただの足手まといだ。

そんな様子を見てとって、ラファエルは

「そう自分を追い込むな。何か打開策があるかもしれん。とにかく今はカケラを回収するのが先だ。行くぞ」

少女二人は聖剣の光を頼りに、王宮内を突き進んでいった。

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