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第四話 地底

「………うっぷ」

到はこみ上げる吐き気を抑えきれず呻いた。

「汚いな……」

ラファエルがそんな到を飛竜の上から見下ろす。

「でも、さすがに今のは……、私も少し、気分が……」

みゆりも口を開くのが精一杯といったようで、飛竜から降りるなり地べたにしゃがみこんだ。

「しょうのないやつらだ」

ラファエルは陽の差さない暗い地底世界を見渡し、それでもぼんやりとした灯りを見つけて

「とりあえずあそこに行ってみるか。地底にも人は住んでいると言うし、街でもあるといいんだがな。お前たちの具合も限界のようだし、早くきちんとしたところで休んだ方が良いだろう。転移魔法を使ってやる」

と、空に向かって右手を挙げた。

次の瞬間、あまりの眩しさに目が眩んだ。どうやら先ほど遠目で見ていた灯りの場所のようだ。近寄ってみると異様にまばゆい。

「城………か。道理でここだけ灯りが目立つわけだ」

ラファエルが照らされた門を見て言ったその時、灯りの下に門兵が二人いるのに気付いた。向こうもこちらに気付いたようで何か話しかけてきたが、言語が違うのか、何を言っているのか理解できない。かろうじて聞き取れたのが『よしのぶ』という単語だけだった。

「よしのぶって、義信博士のことでしょうか?」

「でしょうね。地底には何度か来ていたようですし」

みゆりと到がひそひそ話していると、ラファエルが門兵と何やら会話を始めだした。

二人が驚いて注視していると、門兵が門扉を開いた。

「王の所に案内してくれるらしい。行くぞ」

ラファエルがすたすたと門兵について歩きだした。三人も後を追う。

城内は外と対照にやたらと明るかった。千年以上も閉ざされた生活を送ってきたはずなのに、壁に沢山の電球が取り付けられている。床には赤い絨毯が敷かれていて、そこかしこに繊細な彫刻が施された花瓶や置物が置いてあった。地底世界という暗いイメージからは程遠い印象だ。

「あの、ちょ、ちょっとお待ちくださいな」

歩幅の小さいみゆりが、はぐれないようにと少々駆け足ぎみで息を切らせていた。それに気付き、先頭を歩いていたラファエルが足を止める。彼女ーーラファエルも小柄なのに自分や幸広と同じスピードで歩くのには驚いた。

小さく溜め息をつき、門兵に何事か話すラファエル。すると門兵も立ち止まった。

まだ肩で息をしているみゆりを見ながら、ラファエルは思ったよりも体力がないな、と渋い顔をした。こんなことではこれからの戦いに勝機を見いだせない。

今ならーー、今ならノエルの行動も理解できる。わざと前回の戦いを作ったその真意が。

「あの。ところでどうしてラファエル様が地底人の言語を話せるんですか?確かここには来たことがないって……」

到がみゆりの様子を気遣って話題を振った。

「元々地底に人が住むようになって歴史が浅い。故に千年前の言語と大して変わらないからな。私にでも大体のことはわかる」

「そうなんですか。でも流石に今の言語とは大分違うみたいですね。僕は【義信】くらいしか聞き取れませんでしたよ。きっと義信博士の事だと思うんですけど」

到がその先を問いたそうな顔で見てきた。ラファエルは気ばかり焦って、きちんと門兵との会話の内容を伝えていないことに初めて気づいた。

「ああ。彼は考古学の研究の一環で、飛竜を使ってここに何度か来ていたらしい。カケラのことも『いずれ私の知り合いが取りに来る』と話を通していたと」

「それでこんなに早く取り次ぎが出来たんですね」

「そういうことだ。それでみゆり、そろそろ先を急ぐぞ。いいか」

「あっ、はっ、はい!」

膝に手を付き、中腰になっていたみゆりが身体を起こすのを確認して、ラファエルが声をかけた。

門兵に詫びるように一礼し、再び先導してもらう。

それから少し行った回廊に、10人程度の地天使達がいた。地底というだけあって、ほとんどの地天使の居住区域なのだろう。もしかしたら義信とスィフトが出会ったのもここなのかもしれない。

そんなことを思いながら大扉の前に着いた。


ここが地底王の間。

そう門兵から聞き、ラファエルは自分の背丈よりも遥かに高い大扉を見上げた。まるで自分が小さな子どもになったかのようで、唐突に不安を覚える。


ーー子どもになった?


いや、違う。少なくともあの頃は不安を感じたことなどなかった。なのに、何故今こんなにも不安になる?


なんだか心がザワザワして気味が悪い。なんだこれは。

「ラファエル様?」

到の呼び声ではっとする。

「…………。なんでもない」

頭を振って門兵が開けた大扉の中に進む。すると玉座に長い白髪と白髭を蓄えた、九十は超えているであろう老王が座していた。地底では陽の光が入らない所以か、顔も幽霊のように白く、正直ホラー映画にでも出てきそうな容姿をしている。みゆりなどはラファエルの袖を引いて一瞬立ち止まってしまった。悲鳴をあげないだけまだマシだが。

「そなたらは義信の使いの者か?」

彼は地底語で話しかけてきた。みゆりと到は当然理解出来ていないが、史書のある幸広はある程度の会話が可能だった。

「ええ、そうです。ご存じかもしれませんが、私達はカケラを探しに来たんです。その件でご協力頂ければと思いまして」

幸広が話すと、王は細い髭を撫でながら何事か思案した。

「………ここより北東にもう一つの王宮殿がある。そこの玉座の間にソレはある。……問題は、それが柱に埋まっている、ということだ。あの城は、その石が墜ちてきて以来、千年近く状態を保っている。しかし、普通に考えれば有り得ないことだ。その石の魔力が関わっていることは否定できない。その石を無理に取り出すことが出来たとして、城外に出る前に瓦礫の下敷きになるやもしれぬ。或いはその魔力自体がいつまで持つかわからん。研究者義信の話では、時と共にかなり弱まっているとの話だからな」

老王の衝撃的な言葉に、ラファエルは眉間に皺を寄せ、幸広は「バカな」と呟いた。

話の内容がさっぱりわからないみゆりと到に、比較的冷静なラファエルが説明する。すると到がさして驚きもせず、

「……つまり、博士からその話を聞き、城を移したってことですか。まぁ城の倒壊云々は、ラファエル様と望月くんのバリアか転移魔法で何とかなると思いますけど……」

「同意見だ。とにかく宮殿へ急ぐぞ。敵が動き出す前にカケラを回収しなければ」

ラファエルの号令で、一行は城外へと引き返した。



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