第三十八話 それぞれの未来②
「そうだな。私も近い内に訪れるとしよう。………そういえば、みゆりからまた私達に勉強を見てほしいと連絡が来てな。時間を作ってくれないか」
幸広の言に到は驚き瞬きする。
「僕達に、ですか?望月君じゃなくて?」
「何をそう驚くことがある?」
「いや、だって……。僕はこの辺に住んでるわけではないですし、彼女とも望月君ほどは親しくないですから。わざわざ僕に連絡を取ろうと思うものかな、と」
そもそも彼女は幸広の事が好きだったはず。なのに自分を呼び出すとは、まさか外堀を埋めようとかそういうあれなのか。
「ああ……。連絡をくれたのはみゆりだが、どちらかというと、一緒に学院に通っている友美やフィリア嬢が会いたがっているらしい。勉強をみてもらいたいのも本当らしいが」
それを聞いて到は納得した。
「そうですか。友美さんとフィリアさんは中等部でしたね。新しい生活には慣れたのでしょうか。僕としても二人の事は妹の様に思っていますから、心配はしていたんですよ」
二人は義信博士に引き取られて、真由美と一緒に野薔薇女子学院に通っているという。もっとも、真由美は高等部なので学部は違うが。
義信博士はおそらく、前世の記憶を持つ中で、恋人と娘に対して何も出来なかったことを悔いているのだろう。だからせめて今生では、という想いがあるのかもしれない。何せ前世の記憶を持たない自分ですら妹の様に気にかかるのだ。
可愛い妹達のためなら時間くらいいくらでも作る。数奇な人生を歩んできた彼女達のためなら尚更。
「わかりました。僕もしばらくこちらに滞在する予定でしたしね。望月くんが直近で都合つく日を決めてください」
快諾してから、ふと思った。
「そういえば、博さんは今頃どうしているんでしょうね?風の噂一つ聞きませんが」
彼は、最後まで謎の多き男だった。彼が色々知っているようだったのはおそらく、神と同等の力を持つリズの生まれ変わりである義信の息子で、前世で聖戦士だったからなのだろう。それゆえ強い力を持ち、自分や幸広が持たない前世の記憶も、彼は特別に保持している。完璧に、かはわからないが。
彼は結局、父親である義信博士に味方したかった、ということなのだろうか。
そもそも義信博士も砂漠にカケラを取りに行くと言ったまま、会うことはなかったし……
色々動いているというわりには中途半端だった。というか、そういえば、その砂漠のカケラは結局どうなったんだ?光玉は完成したわけだから、ルーテに奪われたということなのか。いや、どちらかというと彼はルーテに味方しているような節があったから、彼が計画を知っていて渡したと考える方が妥当か。
とすると、二人はいつ出会っていたのか。千年前に出会っていたとしたら、リズが亡くなる前ということになるが。それとも今生で義信とルーテの立場で出会ったのか。
「博か……。結婚間近の恋人がいると聞いたから、彼女の実家に挨拶にでも行っているのかも知れないな」
悶々としていた到だったが、幸広の爆弾発言に耳を疑った。
「えっ!?彼女がいるっていうあれって、マジだったんですか!?」
「あいつはああ見えて人を見る目があるし、心の機微にも敏い。私の兄夫婦の仲を取り持ったのも彼だったしな。意外とコミュニケーション能力が高いし、そういう相手を作るのもさして難しくないだろう。まぁとはいえ、博が結婚とは想像がつかないが……」
「激しく同意です」
到はむしろまだ信じられない気持ちでいた。
☆ ☆ ☆
その頃。およそ千年前の、ルーテの作ったロボットを倒した後の世界で。
ネフェニーは彼女の遺体をとある場所に埋葬した。
「………リズの墓の隣、か。彼女達は面識が?」
ネサラが背後に立ち、問う。
「そうみたい。あまり人の過去を覗くのは好きじゃないけど……、どうしたら彼女が安心して眠りにつけるか、わからなかったから」
ネフェニーが見た彼女の過去………。それは、自分が思っている以上に壮絶なものだった。
「………置いていかれる者の苦しみって、リズさんが亡くなった時のことだったのね………」
彼女も苦しんでいたのだ。この光玉の“存在してしまった”世で。
「どうか、安らかに……」
見晴らしの良い、小高い丘の上の墓地から世界を眺める。ポツンポツンとある家々。どこからかカラスが鳴きながら飛び去っていく。
もうすぐ日が暮れる。太陽が、オレンジ色に世界を染めていく。
「…………カラスが鳴いてるな。俺達も帰るぞ」
ネサラが促す。ネフェニーはこくりと頷いて、その墓地を後にした。




