第三十五話 破壊か消滅か
フィリアは、ネフェニーがルーテを抱えて避難しているのを見て、敵の攻撃に気を付けながら自らも足を向けた。そして彼女がルーテを安全な場に下ろしたところで
「あの……、すみません。ルーテさんの持っていた光玉はどうなりましたか……?」
そう問うと、ネフェニーはハッとしたように目を見開いた。
「そうだったわ……。ルーテの事と巨大ロボの出現にばかり気がいって………」
ルーテが握りしめている左手に目をやり、慎重に指を開いていく。果たして、手の中に光玉はあった。ーーそのままの玉の形状で。
「そんな………ルーテが命をかけてまで壊そうとしたのに……!」
ネフェニーが愕然とする。
「ラファエル様の時は粉々になったのに、何故……!」
やはり、光玉を破壊するという事自体が夢物語だったのか。不可能を可能と思い込んで、無駄に足掻いただけだったのか。
「………いや、よく見てみろ。玉にヒビが入っている」
「!?ラファエル様……」
いつの間にか、ラファエルがフィリアのすぐ後ろに来ていた。
「おそらく、あと一歩というところだったのだろう。あと一度使えばおそらくは……」
破壊出来るはず、と言外に言うが、フィリアは首を振った。
「それではまた、欠片になって世界に散らばって、同じ事になりかねません………」
確かにフィリアの言うとおりだ。だが、それでは光玉を破壊するのは絶望的ではないか。
ネフェニーは真っ青になった。
「それでは……私達がしてきたことは、全くの無駄だったということですか……?」
「………私に考えがあります」
フィリアは首から下げていた、魔石の付いたペンダントを外しながら言葉を紡ぐ。
「先程私が、みゆりさんの聖剣を強化していた光玉の魔力を、この魔石のペンダントに移しました。この光玉の魔力も同じ様にこちらに移せば……」
「魔力が空になった、ただの石になる、というわけか!」
ラファエルが、合点がいったと得心する。
「ええ。そしてその石を物理的に『消滅』させられれば………」
「そんなことが出来るのですか!?」
ネフェニーが最後の希望を見いだし、フィリアにすがるような目線を向ける。
「色々と条件があります。まず、この魔石の中にある魔力を使わないと、光玉の魔力を取り込むほどの容量がありません。まずはお父様、私達に、これを使って結界を張っていただけますか」
フィリアがペンダントを神妙にラファエルに手渡す。
「もちろんだ。それでなくとも敵の攻撃がいつ及ぶとも限らんからな」
ラファエルは受け取ったペンダントを握りしめ、三人を包み込むドーム型の結界を張る。そしてペンダントをフィリアに返した。
「では……やってみますね」
この程度の残り魔力なら、魔石に移すことも可能だろう。フィリアはそう確信し、片手にそれぞれを持ち、魔石に光玉の魔力を吸収し始める。
「……これが終わって、光玉がただの石になったら……、ネフェニーさん。この石を、時空間に放り込んでください」
「えっ!?」
続いたフィリアの言葉にネフェニーはぎょっとした。
「なるほどな。石を『破壊』すると言っても、中途半端に粉々にしたんじゃ元の木阿弥……。だからさっき『消滅』という言葉を使ったのか」
フィリアの言葉に違和感を覚えたラファエルが、感心したように頷く。
「ええ……。完全な光玉のままだと魔力によって弾かれてしまうかもしれませんが、魔力量のほぼない、ただの石ならばきっと……」
二人の会話でネフェニーはまさか、と思った。
まさか、ルーテが自分を必要だと言ったのは、時空間を行き来する為だけでなく、この時のためだったのか。
彼女本人からは聞いていないが、初めからこうするつもりで、あえて光玉が壊れないギリギリの魔力を使って、私に石ごと葬らせるつもりだったのか。
それが彼女の願いだったというのか。
「…………やれよ、ネフェニー」
「!」
近くで聞いていたらしいネサラが背中を押してきた。
「俺達は、自分の力を他人への攻撃に使うことを禁忌とされている……。だが『ただの石』を異次元に送ることは、この限りじゃない。だろ?最高神のラファエルさま?」
「………ああ、そうだ。私からも頼めるか、ネフェニー」
儀礼的に確認するネサラに、ラファエルも問題ないと答える。
ネフェニーも心を決めた。
「はい。ルーテが遺した願い……、私が、決着をつけます!」
ネフェニーは、フィリアの持つ光玉を険しい顔付きで見据えた。そして。
「…………終わりました」
フィリアからただの石になった光玉を受け取った。




